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 数か月後、橘さんは退院した。

 しかしその頃には大学の1年は終わりを迎えようとしており、ほとんど話さないまま専門学科基礎のクラスが終わった。それから橘さんとは一切話をしていないけれど、塩入さんとはそれなりに話す関係になった。いうなれば、知人以上友達未満と言ったところだろうか。

「ねぇ、私あの後も調べてたんだけど、聞いてくれる?」

「うん、いいよ」

 ちょうど一緒になった講義で一つ空きで座っていた塩入さんが席を一つ詰めてきて来たら、シャンプーの香りが運ばれてきた。

「前に、鈴木くん、黒いフードの女の子が『みんな』って言ったんでしょ?」

「うん・・・確か」

 忘れようにも忘れられない記憶。あれから、皮肉を言われたり、喧嘩を売られても、相手の不幸を考えるのをやめていた。もし本当に起きてしまった時に相手も自分も苦しめてしまうからだ。

「私調べたの。その女の子を見えた人たちは、たちだったの。だから私たちのせいじゃないっ」

 力説する塩入さん。清楚な感じだと思っていたけれど、こんな熱い部分もあったんだと思いながら、僕は塩入さんんの顔をまじまじと見る。やっぱり美人だ。

「あっ・・・ごめんなさい・・・私ったら・・・」

 そう言いながら、塩入さんは前髪を整える。

「ううん、ありがとう・・・・・・うん、多分、死ねとか不幸になれって願ってないとは思うけど、嫌な気持ちになってたから・・・」

 僕はその言葉がゆっくりと心に染みこんでいく。

「ありがとう、塩入さん。まだ実感は少しわかないけれど、胸の中にあったしこりが少し溶けた気がするよ」

「うん、良かった!」

 かわいい笑顔の塩入さん。

「でも記録やSNSとかの情報も調べたんだけれど、これはジェットコースターだけじゃないと思うの。他のことでも何かを強要したり、自分の価値感を押し付けることも気を付けないといけないなって思ったし、そうされたからって死ねとか思っちゃいけないなーって」

「・・・それ、僕も思っていた」

「本当に!?」

 僕が頷くと、またさらに嬉しそうにする塩入さん。
 塩入さんとは趣味もフィーリングも合いそうだなと思った。
 塩入さんと僕の話は終わったけれど、そのまま僕の隣で講義を受けるつもりのようだ。
 
 

 千載一遇のチャンス。

 
 
 こんなに素敵な人とここまでの信頼関係を築いたことは初めてだ。
 こんなチャンスは2度とないかもしれない。
 僕は拳を握り締め、自分を鼓舞する。
 そして、勇気を出して、水族館にでも誘おうかと誘おうとすると・・・・・・



 ブチブチブチッ・・・パンッ
 
 ボキッボキッ・・・バキッ
 



 前の席の男が、身体を動かさずに、首の筋肉を引きちぎり、頚椎を折りながら振り向いた。肉が引きちぎれる音も、潰れるように骨が折れる音も鳥肌が立って、鎖骨のあたりがぞわっとした。




「うげっ」




 漏れる声。
 白目をむいて、舌を出してよだれが垂れているが、血が混ざっている。そんな男が笑っている。





『お前らのせいだっ。俺は・・・お前らを呪うぜぇ』




 
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