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鬼をイジメるのは楽しいね?
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「さぁ、オニをやっつけようっ!!!」
わああああああっ
お遊戯室。
楽しそうにオニにマメを投げつける保育園のおともだち。
マメを当てられて、泣いたり、痛がったり、面白い動きをするオニさん。
みんなを笑顔で応援する先生たちや、園長先生。
「あれ、魅音ちゃん、どうしたの?」
保育士さんの赤井先生が私に尋ねてくる。
「ママが弱いものをイジメちゃいけないって」
赤井先生は私の視線を追ってアカオニを見る。
「魅音ちゃんは優しいね」
そう言って、赤井先生は笑顔で私を撫でてくれた。
その時私は嬉しかった。
「うがああっ」
アカオニはのっしのっし歩いて、私たちの方へ来た。
「オニは~ソトっ!!」
先生はマメを投げた。
それも楽しそうな顔で。
その時のショックを私は忘れない。
◇◇
「どうして、こうなったの?魅音さん」
小学校の教室。
泣いている男の子。
険しい顔をしている女の先生。
必死な顔をしている私。
「だって、青井君はオニなんだもん」
「オニ?」
緑川先生は嫌悪するような顔で私を見る。
「だって、いつも暴れてみんなを困らせて。みんなを困らせるのはオニだよっ」
「魅音さん・・・お友達のことをオニって言ったら、青井君はどう感じると思うのかな?」
「だって、オニは退治しないと・・・」
私は楽しそうにマメを投げる赤井先生の顔を思い出した。
「青井君はオニなんかじゃない。オニなんかじゃないよ?魅音さん。人をオニにしちゃいけない。青井君も確かに元気がいっぱい過ぎるときもあるけれど、オニなんかじゃないよ。みんなで一人を責めたりどなったりするのはよくないよ」
「・・・はい」
「うん、魅音さんは正義感もあって、人の気持ちがわかる良い子だものね。弱い立場の人や、困っている人、時には・・・そうね、自分のことばっかりになっている人ともお友達になれる、いい子よ」
緑川先生は微笑んだ。
私の心は和んだ。
やっぱり、私はあっていたんだ。
赤井先生は悪い人だ。
◇◇
「はぁ!?何を言っとるんだ君は」
会社のオフィス。
体格が良くて目つきが厳しい課長。
委縮してしたばかり向いている若手の男性職員。
「ですから、白川君は確かにミスをしましたが、組織としても問題があったと私は思っています」
課長の怒りは白川君から私に向けられる。
他の職員は飛び火がこないように少しばかり小さくなって事務作業をしている。
私は言葉を続ける。
「明らかに白川君の業務の割り振りは多かったですし、ミスを起こすのは必然です。周りも助けない状況にありました。私が来るたびに部署で唯一彼だけ残業している光景をよく目にしていました。組織として機能していなかった証拠です。そんな状況を作り出しておいて、彼を首にするのはおかしいと思います」
「よその君は黙っていてくれ。これはうちの部署の問題だ」
「そうです、彼の問題ではなく、『部署の問題』です」
私の言い方が気に障ったようで課長はむすっとして、私を睨んだ。
睨んだが次の言葉が出ないようだ。
「・・・反論はないようですね。では、失礼します」
私は深々と黒須課長にお辞儀をして、顔を上げる時に白川君の顔を見た。
険しかった顔に少し光が差した顔をしていて、私は言ってよかったと思った。
ひそひそっ
私を正面から見る職員はいなかった。けれど、私の視野から見きれるかどうかぐらいで、私を見る視線を感じた。
きっと、背中にはもっと多くの視線が集まっているだろう。
それは決して肯定でも羨望でもないことはわかっていた。
けれど、私は満足だった。
―――数日後、彼は辞職届を出し、私は地方へと転勤となった。
転勤して数週間後、白川君は亡くなった。
自殺だったそうだ。
私は彼の葬式の帰りの新幹線で外を見ながら思った。
緑川先生の言葉なんて、机上の空論だ。
現実は強い者・・・いや、大勢の人間がオニを作り出し、オニのせいにして、オニを追い出して丸く収めているじゃないか。
こんなに辛いなら・・・相手を思いやるなんて考え持たなければ良かった。
緑川先生の言葉は呪いの言葉だ。
外の景色は涙でぼやけた。
◇◇
私はズレている。
私は空気が読めない。
私はサイコパスだ。
みんなと一緒にオニにマメを投げればよかった。
悪いオニは関わらないようにすればよかった。
オニなんて見捨てればよかった。
「あれ・・・っ、私ってオニだったのかな?」
オニは淘汰されて行く。
この世界に適合し、笑顔で暮らせる人々が羨ましいと嫉妬して涙が溢れて止まらない。
「違う・・・違うっ!!世の中のみんなが、みんながオニだあぁっ!!」
もう、私には世の中はわからない。
人の言うことなんて信じても裏切られる。
なんなら、私を罠にはめようとさえ感じてしまう。
ねぇ・・・、誰がオニなのか。
―――教えてよ
わああああああっ
お遊戯室。
楽しそうにオニにマメを投げつける保育園のおともだち。
マメを当てられて、泣いたり、痛がったり、面白い動きをするオニさん。
みんなを笑顔で応援する先生たちや、園長先生。
「あれ、魅音ちゃん、どうしたの?」
保育士さんの赤井先生が私に尋ねてくる。
「ママが弱いものをイジメちゃいけないって」
赤井先生は私の視線を追ってアカオニを見る。
「魅音ちゃんは優しいね」
そう言って、赤井先生は笑顔で私を撫でてくれた。
その時私は嬉しかった。
「うがああっ」
アカオニはのっしのっし歩いて、私たちの方へ来た。
「オニは~ソトっ!!」
先生はマメを投げた。
それも楽しそうな顔で。
その時のショックを私は忘れない。
◇◇
「どうして、こうなったの?魅音さん」
小学校の教室。
泣いている男の子。
険しい顔をしている女の先生。
必死な顔をしている私。
「だって、青井君はオニなんだもん」
「オニ?」
緑川先生は嫌悪するような顔で私を見る。
「だって、いつも暴れてみんなを困らせて。みんなを困らせるのはオニだよっ」
「魅音さん・・・お友達のことをオニって言ったら、青井君はどう感じると思うのかな?」
「だって、オニは退治しないと・・・」
私は楽しそうにマメを投げる赤井先生の顔を思い出した。
「青井君はオニなんかじゃない。オニなんかじゃないよ?魅音さん。人をオニにしちゃいけない。青井君も確かに元気がいっぱい過ぎるときもあるけれど、オニなんかじゃないよ。みんなで一人を責めたりどなったりするのはよくないよ」
「・・・はい」
「うん、魅音さんは正義感もあって、人の気持ちがわかる良い子だものね。弱い立場の人や、困っている人、時には・・・そうね、自分のことばっかりになっている人ともお友達になれる、いい子よ」
緑川先生は微笑んだ。
私の心は和んだ。
やっぱり、私はあっていたんだ。
赤井先生は悪い人だ。
◇◇
「はぁ!?何を言っとるんだ君は」
会社のオフィス。
体格が良くて目つきが厳しい課長。
委縮してしたばかり向いている若手の男性職員。
「ですから、白川君は確かにミスをしましたが、組織としても問題があったと私は思っています」
課長の怒りは白川君から私に向けられる。
他の職員は飛び火がこないように少しばかり小さくなって事務作業をしている。
私は言葉を続ける。
「明らかに白川君の業務の割り振りは多かったですし、ミスを起こすのは必然です。周りも助けない状況にありました。私が来るたびに部署で唯一彼だけ残業している光景をよく目にしていました。組織として機能していなかった証拠です。そんな状況を作り出しておいて、彼を首にするのはおかしいと思います」
「よその君は黙っていてくれ。これはうちの部署の問題だ」
「そうです、彼の問題ではなく、『部署の問題』です」
私の言い方が気に障ったようで課長はむすっとして、私を睨んだ。
睨んだが次の言葉が出ないようだ。
「・・・反論はないようですね。では、失礼します」
私は深々と黒須課長にお辞儀をして、顔を上げる時に白川君の顔を見た。
険しかった顔に少し光が差した顔をしていて、私は言ってよかったと思った。
ひそひそっ
私を正面から見る職員はいなかった。けれど、私の視野から見きれるかどうかぐらいで、私を見る視線を感じた。
きっと、背中にはもっと多くの視線が集まっているだろう。
それは決して肯定でも羨望でもないことはわかっていた。
けれど、私は満足だった。
―――数日後、彼は辞職届を出し、私は地方へと転勤となった。
転勤して数週間後、白川君は亡くなった。
自殺だったそうだ。
私は彼の葬式の帰りの新幹線で外を見ながら思った。
緑川先生の言葉なんて、机上の空論だ。
現実は強い者・・・いや、大勢の人間がオニを作り出し、オニのせいにして、オニを追い出して丸く収めているじゃないか。
こんなに辛いなら・・・相手を思いやるなんて考え持たなければ良かった。
緑川先生の言葉は呪いの言葉だ。
外の景色は涙でぼやけた。
◇◇
私はズレている。
私は空気が読めない。
私はサイコパスだ。
みんなと一緒にオニにマメを投げればよかった。
悪いオニは関わらないようにすればよかった。
オニなんて見捨てればよかった。
「あれ・・・っ、私ってオニだったのかな?」
オニは淘汰されて行く。
この世界に適合し、笑顔で暮らせる人々が羨ましいと嫉妬して涙が溢れて止まらない。
「違う・・・違うっ!!世の中のみんなが、みんながオニだあぁっ!!」
もう、私には世の中はわからない。
人の言うことなんて信じても裏切られる。
なんなら、私を罠にはめようとさえ感じてしまう。
ねぇ・・・、誰がオニなのか。
―――教えてよ
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