🦄西東童話 🌸１話完結、３分で読めるよ🌸

悪役のオオカミくん 大人向けバージョン

「戦隊ごっこしようぜ」

「いいね、やろうやろう」

　動物たちが言い出しっぺのサルくんの周りに集まります。

「オレが、レッドっ。ぶたちゃんとやぎちゃんがヒロインで囚われ役ね」

「イイよん」

「ワタシもいいわよ」

「じゃあ、オレ、ブルー」

「アタシ、ピンク」

「オイラは・・・イエロー」

「うちはホワイト」

「じゃあじゃあ・・・」

　みんなが手を上げて、先を争って色を取り合います。

「待って、みんな。待って・・・待て」

　サルくんがみんなを落ち着けました。
　みんなが手を降ろしてサルくんを見ます。

「みんながヒーローをやっちゃったら、悪役がいないじゃないか。これじゃあ、戦隊ごっこができないぞ。誰か悪役をやれよ」

　しかし、みんなサルくんと目を合わせしません。
　誰もが悪役なんて楽しくないのでやりたがりません。

「じゃあ、ジャンケンで決めよう。それでいいな？ほら、みんな手を上げて。勝ったやつから抜けていって、最後まで残ったやつが悪役な。ずるをしたやつがいたらそいつが悪役だからな？」

　みんなしぶしぶ手を上げます。

「それじゃあ、行くよ・・・じゃん、けん、ポン！！」

「やった、勝った」

「オレもだ」

　次々に勝った動物は喜び、負けた動物が悲しい顔をして残っていく。

「よしっ、決まったな」

　サルがすっきり顔をする。
　みんなも笑顔だ。

「・・・」

　ただ一人を除いて。
　
　一番負けたのは、イヌくんだった。
　とてもショックを受けていたイヌくんを見て、友だち思いのオオカミくんは言いました。

「やっぱり、ボクが悪役をやるよ」

「えーっ、それはだめだよ。ジャンケンした意味ないじゃないか」

「そうだよ・・・イヌくんがやるべきだよ」

　みんな自分の勝ちが無意味になるのが不満だったのか、それとも優越感に浸れなくなるのが嫌だったのか。
　うまくは言えないけれど、不満を口々に言いました。
　
「ハーッ、ハッハッハー。正義の味方どもめ、そんなにオレがニクいのか？そうであるならば、かかってこいっ」

　オオカミくんの悪役の迫真の演技にみんなの正義の心に火がついて、目を輝かせます。

「よーし、オオカミくんを倒そう！！」

「おうっ」

　みんなが拳を天に掲げました。

「レッドファイヤー」

　両手から炎を出すポーズをするサルくん。

「イエローサンダー」

　両腕をバッテンにして雷を出すポーズをするキジくん。

「ぐっ・・・ぐはああああっ」

　オオカミくんは倒れ込みます。
　
「やったぞ、みんな。オレたちは勝ったんだ」

「おーーーっ」

　みんな喜びを分かち合っています。
　そんなみんなを遠くから見て、オオカミくんも満足そうです。

「オオカミくん、ありがとう」

　イヌくんがオオカミくんに話しかけました。

「どういたしまして」

　オオカミくんの笑顔はとてもかっこよかったイヌくん。

「ボクも君みたいになりたいな」

「ふふっ、ありがとう」

　オオカミくんとイヌくんはお互いの顔を見ながら笑顔で握手をかわしました。


　◇◇

「出たわね、悪党オオカミ星人」

「ハーッ、ハッハッハーーーッ」

　ブタちゃんがファイティングポーズを取ると、オオカミくんは悪党役を演じます。

　◇◇

「今日は劇の配役を決めたいと思います」

「悪役はオオカミくんがとってもうまいでーす」

　オラウータン先生が黒板に劇のタイトルを書いていると、トラくんがにやにやしながら手を上げて発言する。

「こら、そうやって押し付けない」

　オラウータン先生が穏やかに注意をすると、トラくんはちらっとオオカミくんを見る。

「いいですよ、やります」

　◇◇

「なんか、ケモノ臭くね？」

「・・・」

　にやにやしながら、オオカミくんを見るキツネくん。
　
　オオカミくんは、何かが少しずつ、少しずつおかしな方向に進んでいるような気がしてきました。

　◇◇

「誰だね、ガラスを割ったのは？」

「「「オオカミくんでーーーすっ」」」

　オオカミくんはびっくりして、みんなを見ました。
　なぜなら、オオカミくんはまったく身に覚えがなかったにもかかわらず、オラウータン先生の質問にクラスの大半がオオカミくんの名前を言ったからです。

　みんな目線をかわしながらニヤニヤしています。
　みんなはいたずらな笑みをしているとお互いの顔を見て思ったかもしれません。
　けれど、そんなかわいい顔ではありません。

　悪意に満ちた、「悪」そのものの顔をしていました。

　しかし、オオカミくんの心を一番傷つけたのは、イヌくんまで同じようにオオカミの名前を出したからだったかもしれません。

　帰るとき、下駄箱を開けると、イヌくんから手紙が入ってました。

「ボクはエラいやつに従順なんだ、ごめんな」

　オオカミくんはみんなの元から去りました。

　◇◇

「ふぅ」

　深い深い森。

　きれいな自然に囲まれて、空気もおいしいその場所は、次第にオオカミくんの心を癒しました。
　オオカミくんと、グループ行動が嫌いで自然の森が大好きだったトキちゃんも優しく一緒にいてきれたので、オオカミの心は次第に癒えていきました。

（きっと、大丈夫。みんなだって大人になればわかってくれるさ）

　そんなある日。

「おーい、いたぞっ！！」

　サルくんやイヌくんやねこちゃんを筆頭にみんながやってきました。

「やぁ、サルくん、みんな・・・げんきっ」

「殺せ！！！！！」

　みんながオオカミくんに襲い掛かりました。
　そして、オオカミくんは死んでしまいました。

　◇◇

「ここは？」

「天国じゃよ？」

「うわっ」

　白い空間の中に神様がいて、オオカミくんにそう伝えました。

「あれ・・・どうして・・・」

「みんなに殺されたんじゃよ」

　神様の言葉にショックだったことを思い出し、オオカミくんは吐きそうになります。

「んぐっ、どうして・・・なんで、みんなはボクをあんなに憎んで・・・」

「よしよし・・・」

　神様がオオカミくんの頭を撫でてあげます。
　すると、オオカミくんの悲しい気持ちは和らぎ、気持ちが楽になりました。

「オオカミくんが森に行った後も、みんなは創作でお話を作って、キミを悪者にしてもりあがっていたんじゃよ。そして、みんな、みんな自分たちで作った話なのに、それでどんどんキミへの憎しみを増幅させたんじゃ」

　圧倒的絶望。

「な・・・っ、なんなんですかそれは・・・」

　オオカミくんは自分の声が震えているのに気づき、身体を見ると、身体も震えていた。
　そして、おかしくないのに顔も笑顔になっていて困惑した。

「オオカミくん、すまない。わしのせいじゃ。わしの管理が甘かったせいで、キミにはとても悲しい想いをさせてしまった。お詫びに自然の溢れるキミだけの世界を用意したんじゃ」

「・・・」

「許してくれとは言えん。ただ、平和な世界で過ごしてほしいんじゃ」

「ボクだけいる世界なんて・・・」

「よし、わかった。オオカミくんの友だちを作ろう。オオカミ君と同じ友だち思いの子たちじゃ。あとは・・・同じように心の優しくて、あの世界に嫌気が差しているトキちゃんにも聞いてみよう。どうじゃ？」

「ボクは・・・」

　◇◇

　自然に溢れ、美しい景色。
　そんな世界に住むに相応しい心のきれいな動物たちは幸せに暮らしたそうです。

　めでたし、めでたし。

　


　・・・あれ？ニンゲンはもちろん、ちゃんと行けましたよね？