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19 愛の深さ、愛の広さ
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「今認めているではないか・・・?」
「今じゃ・・・もう、遅いんだよっ。もう、母さんは死んでいるっ!今まで母さんが、どんな想いだったかあんたにわかるのか?」
「あぁ、わかる」
「はぁ!?」
「いたいっ・・・痛いよ、ユリウス」
「あっ、ごめん」
ユリウスは私の手を強く握りしめていた。その痛みはユリウスの心の痛みの一部でしかないと思うと、私も心が痛かった。
「あいつは幸せだった」
断言する国王。
「あんたが愛情を注げばもっとっ」
その言葉は少し国王の表情を曇らせた。国王はゆっくりと目を瞑る。まぶたの裏にはユリウスのお母さんがいるのだろうか。
「よく思い出せ・・・ユリウス。マリアは幸せじゃなかったかどうかを」
「・・・」
私には立ち入れない親子の会話。二人にしかわからない思い出。でも、その思い出は3人の思い出ではない。ユリウスとマリアさん、国王とマリアさん。同じ人の思い出だけれどその思い出はあまりにも重なる部分が少ない。
「私が代わりに・・・」
今まで気づかなかったけれど、国王を介護していた年配女性の看護師さんがいた。
「いい、口を出さないでくれ。これは、家族の問題だ」
「いいや、聞かせてください」
国王は不貞腐れたように横たわり目を閉じ、少し咳込む。
「私がマリア様、いいえ、奥様と呼ばせていただきましょうか。奥様の出産の際に、お坊ちゃまを取り上げたペネロペと申します」
ぺこりとゆっくりお辞儀をするペネロペさん。
「奥様と国王陛下は愛し合っておりましたが、奥様は王族の暮らしをしたくないとそう申しておりました。そして、自らの手でユリウス様を育て、一緒にいたいと。そんな奥様がユリウス様を見る目がとてもお優しかったことを私は忘れません」
私と握っていたユリウスの手はさきほどまでの力の入った手ではなく、優しいいつもの手になっていた。
「とはいえ、国王陛下も恋多きお方。血を絶やしてはいけないと思っていたのだと少しは擁護してみますが、同時期に王妃様とも愛を育んで、産んだお方がアドルド王子でございます」
「ごほっ、ごほっ」
寝たふりをしていた国王はわざとらしく咳込む。余計なことは言うなといわんばかりだ。
「王妃様は見た目を気にされる方だったために、なかなか乳が出ず、奥様が乳母役を買って出ました。そして、旦那様は乳母の子という建前を利用して、ユリウス様にも勉学の機会を与えていったのでございます。最初は反対していた奥様でしたが、ユリウス様が勉強を楽しんでおられるのを見て、そして、次第に国王陛下に尊敬のまなざしを向けるのに気づき、「やっぱり、親子は親子だなぁ」と笑っておっしゃっておいででした」
「マリアの遺言だ。『私は、王族の暮らしなんか死んでも嫌だったけど、あの子がそれを望んだらチャンスはあげてね』と言っていた」
目を開けて、天井を見る国王。
「だから、お前が国を捨てて出ていった時、マリアのことを思い出してしまったよ、ユリウス」
国王の目は少し虚ろになっており、先ほどの威圧的な態度はない。
国王の死期は・・・近づいていた。
「今じゃ・・・もう、遅いんだよっ。もう、母さんは死んでいるっ!今まで母さんが、どんな想いだったかあんたにわかるのか?」
「あぁ、わかる」
「はぁ!?」
「いたいっ・・・痛いよ、ユリウス」
「あっ、ごめん」
ユリウスは私の手を強く握りしめていた。その痛みはユリウスの心の痛みの一部でしかないと思うと、私も心が痛かった。
「あいつは幸せだった」
断言する国王。
「あんたが愛情を注げばもっとっ」
その言葉は少し国王の表情を曇らせた。国王はゆっくりと目を瞑る。まぶたの裏にはユリウスのお母さんがいるのだろうか。
「よく思い出せ・・・ユリウス。マリアは幸せじゃなかったかどうかを」
「・・・」
私には立ち入れない親子の会話。二人にしかわからない思い出。でも、その思い出は3人の思い出ではない。ユリウスとマリアさん、国王とマリアさん。同じ人の思い出だけれどその思い出はあまりにも重なる部分が少ない。
「私が代わりに・・・」
今まで気づかなかったけれど、国王を介護していた年配女性の看護師さんがいた。
「いい、口を出さないでくれ。これは、家族の問題だ」
「いいや、聞かせてください」
国王は不貞腐れたように横たわり目を閉じ、少し咳込む。
「私がマリア様、いいえ、奥様と呼ばせていただきましょうか。奥様の出産の際に、お坊ちゃまを取り上げたペネロペと申します」
ぺこりとゆっくりお辞儀をするペネロペさん。
「奥様と国王陛下は愛し合っておりましたが、奥様は王族の暮らしをしたくないとそう申しておりました。そして、自らの手でユリウス様を育て、一緒にいたいと。そんな奥様がユリウス様を見る目がとてもお優しかったことを私は忘れません」
私と握っていたユリウスの手はさきほどまでの力の入った手ではなく、優しいいつもの手になっていた。
「とはいえ、国王陛下も恋多きお方。血を絶やしてはいけないと思っていたのだと少しは擁護してみますが、同時期に王妃様とも愛を育んで、産んだお方がアドルド王子でございます」
「ごほっ、ごほっ」
寝たふりをしていた国王はわざとらしく咳込む。余計なことは言うなといわんばかりだ。
「王妃様は見た目を気にされる方だったために、なかなか乳が出ず、奥様が乳母役を買って出ました。そして、旦那様は乳母の子という建前を利用して、ユリウス様にも勉学の機会を与えていったのでございます。最初は反対していた奥様でしたが、ユリウス様が勉強を楽しんでおられるのを見て、そして、次第に国王陛下に尊敬のまなざしを向けるのに気づき、「やっぱり、親子は親子だなぁ」と笑っておっしゃっておいででした」
「マリアの遺言だ。『私は、王族の暮らしなんか死んでも嫌だったけど、あの子がそれを望んだらチャンスはあげてね』と言っていた」
目を開けて、天井を見る国王。
「だから、お前が国を捨てて出ていった時、マリアのことを思い出してしまったよ、ユリウス」
国王の目は少し虚ろになっており、先ほどの威圧的な態度はない。
国王の死期は・・・近づいていた。
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