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「ここでいいですか」

「はい」

 お父様を椅子へと降ろすクリス王子。

「ふうーーーっ」

 近くとは言え、意識が回復してから急いでここに来たお父様はようやく一息付けた様子だった。

「お父様っ、愛しのお父様ぁーーーっ」

 縄で縛られた妹のヴィトリールが媚びた声で、お父様のところに近寄ろうとすると、青年に抑えつけられる。

「ちょっと、エッチ。何するのよっ、放してっ。お父様っ、助けてぇ」

「よく言うぜ、父親を殺そうとしていたのによぉ」

 グリフの知人でしょうか。人ごみのどなたかがそう呟くと、

「誰っ。今私の悪口を言ったのは誰よっ!?」

 今にも噛みつきそうなヴィトリールは犯人を捜してあちこちを見渡しました。あっ、犯人はヴィトリールか。

「・・・黙りなさい、ヴィトリール」

「でも、でもっでもっ」

「黙りなさいっ!!!」

「ひっ」

 お父様があんな大声で怒鳴るの初めて見ました。ヴィトリールも驚いていますが、お父様の後ろにいた私もとてもびっくりして、心臓が止まるかと思いました。

「・・・くっ」

「お父様、大丈夫ですか?」

「あぁ、すまない」

 回復しきっていないお父様の身体。その身体で大声を出すのはとても負担がかかったご様子でした。

「クリス王子」

「はい」

「クリス王子にお伝えするのもおかしな話ではございますが、ヴィトリールには相応の罪をお願いします」

「・・・・・・よろしいのですね?」

「はい」

 お父様は静かにそう答えました。父親殺しは例え未遂であっても重罪。それが意味するのは、お父様・・・もしかしたら私も、生きているうちにヴィトリールとはお天道様の下ではもう会えないということだ。

「連れて行け」

「はっ」

 クリス王子に告げられた青年たちがグリフとヴィトリールを連れて行く。グリフは見苦しい暴言を吐き、ヴィトリールはひたすらお父様の名前を叫んでおり、お父様は目を閉じながら心を痛めていらっしゃいました。

「アンタのせいで、アンタのせいでっ!!」

 ヴィトリールはお父様が反応しないので、ずーっと見ていた私を睨んできました。けれど、私にできたことがあるとすれば、

(ちゃんと、正式な形で私に話してくれれば良かったのに、そうすれば・・・)

 悲しくはございましたが、私にはやらなければならないことがございました。

「お集りの皆様、この度は私の愚妹及び、元婚約者が御迷惑をお掛けし、申し訳ございませんでした」

 私は深々と皆様にお詫び申し上げました。

「ルイズは悪くないわよ」

「そうよ、そうよ」

「そうですよ、あいつの自業自得ですよ」

「俺なんか・・・こう、不謹慎だけど、面白く見させてもらってました」

「実は・・・俺も」

 私の友人たちやグリフの友人はそう言って、私を許してくださいました。本当に良き友人を持ったと思います。グリフもまた、良い方々に囲まれていたのだと思うのですが、残念です。

「こほんっ。それじゃあ、ルイズ。約束を果たしてもらおうか」

 わざとらしい咳をしたクリス王子が私にそう告げてきました。
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