上 下
15 / 21
2章

15

しおりを挟む
 私はその日、夢を見た。
 現実っぽい夢、だけど私にはそれが夢だとすぐにわかった。
 だって、私は幼い姿をしていたのだから。

 もう、過去を振り返らないと決めた日なのに、そんな夢を見ていしまう自分が情けないと思い、反射的に目を覚ましてしまおうと思ったけれど、夢の中まで理性的になるのもバカバカしくて、疲れているせいにして、私はその夢に身を任せた。
 
 幸せな夢・・・・・・
 幸せな過去・・・・・・

 そんな物でもないのに、見続ける私はおかしいのだろうか・・・・・・?

『そんな本読むなんて、バッカじゃないのっ!?』

『返してください、ミネルヴァお姉様っ』

『幼稚ねぇ、本当に幼稚。おほほほっ」

 幼稚なのは当たり前だ。だって、歳が片手で収まる時だったのだから。

 きっと、ミネルヴァお姉様だって私の歳には読んでいたに違いないのに、私が読んでいた絵本を馬鹿にするミネルヴァお姉様。幼少の頃の5歳差なんて絶対的な差だ。ミネルヴァお姉様は他のお姉様たちの顔色を見ながら、私をあざけ笑う。

 こんなに強いお姉様がなんでそんな風に人の顔色を見ているのだろうと、不思議に思っていたけれど、もしかしたら私が生まれる前まではミネルヴァお姉様が一番年下として同じような目に合っていたのかもしれない。自分への矛先を私に向けることで自分を守っていたのだと思えば、ミネルヴァお姉様を恨まずに済んだ。

『こんなものっ!!』

 けれど、私が大事にしていた絵本を私の手の届かない高さで、両手でビリビリに破いて見せた時は本当にショックだった。まるで私の世界、それも私の夢や希望が詰まった世界が壊されてしまった気持ちで心が割れた気がした。

『さっ、行きましょ、お姉様方。あんた、夢なんて見てないでちゃんとゴミは掃除しておきなさいよっ』

 私が無反応になったのを飽きたミネルヴァお姉様たちは私と散らばった絵本を残して去って行った。私はゆっくりとゴミと言われた大切な世界をゆっくりとかき集め、抱きしめた。

 絵本の中身は、気のいい町娘が王子に見初められて王女になる話だ。
 確かに町娘が王女になることなんて極めて稀だし、ミネルヴァお姉様からしたら、王女にすでになっている私が目を輝かせて読んでいるを滑稽に思ったのかもしれない。

 幼い私は無力でありながらも、頑張っていれば誰かが気づいてくれて、世界が変わると信じていた。
 けれど、世界は壊された。

 絵本のゴールでは王子との結婚して、王女になり末長く幸せに暮らしたなんて書いてあるけれど、一番は王子に王女にしてもらうことだろう。私はすでに、多くの少女たちがゴールにしている王女になっている。それなのに私は満たされていないのは欲が深いのかもしれない。

 じゃあ、私が絵本の町娘のように頑張って生きてきたら・・・

 王女の私に与えられた未来は―――

 なんなのかわからなかった。
 けれど、周囲にあった絵本の残骸を見て、悲しくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

【完結】義姉の言いなりとなる貴方など要りません

かずき りり
恋愛
今日も約束を反故される。 ……約束の時間を過ぎてから。 侍女の怒りに私の怒りが収まる日々を過ごしている。 貴族の結婚なんて、所詮は政略で。 家同士を繋げる、ただの契約結婚に過ぎない。 なのに…… 何もかも義姉優先。 挙句、式や私の部屋も義姉の言いなりで、義姉の望むまま。 挙句の果て、侯爵家なのだから。 そっちは子爵家なのだからと見下される始末。 そんな相手に信用や信頼が生まれるわけもなく、ただ先行きに不安しかないのだけれど……。 更に、バージンロードを義姉に歩かせろだ!? 流石にそこはお断りしますけど!? もう、付き合いきれない。 けれど、婚約白紙を今更出来ない…… なら、新たに契約を結びましょうか。 義理や人情がないのであれば、こちらは情けをかけません。 ----------------------- ※こちらの作品はカクヨムでも掲載しております。

決めたのはあなたでしょう?

みおな
恋愛
 ずっと好きだった人がいた。 だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。  どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。  なのに、今さら好きなのは私だと? 捨てたのはあなたでしょう。

【完結】要らない私は消えます

かずき りり
恋愛
虐げてくる義母、義妹 会わない父と兄 浮気ばかりの婚約者 どうして私なの? どうして どうして どうして 妃教育が進むにつれ、自分に詰め込まれる情報の重要性。 もう戻れないのだと知る。 ……ならば…… ◇ HOT&人気ランキング一位 ありがとうございます((。´・ω・)。´_ _))ペコリ  ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

【短編】捨てられた公爵令嬢ですが今さら謝られても「もう遅い」

みねバイヤーン
恋愛
「すまなかった、ヤシュナ。この通りだ、どうか王都に戻って助けてくれないか」 ザイード第一王子が、婚約破棄して捨てた公爵家令嬢ヤシュナに深々と頭を垂れた。 「お断りします。あなた方が私に対して行った数々の仕打ち、決して許すことはありません。今さら謝ったところで、もう遅い。ばーーーーーか」 王家と四大公爵の子女は、王国を守る御神体を毎日清める義務がある。ところが聖女ベルが現れたときから、朝の清めはヤシュナと弟のカルルクのみが行なっている。務めを果たさず、自分を使い潰す気の王家にヤシュナは切れた。王家に対するざまぁの準備は着々と進んでいる。

最後に、お願いがあります

狂乱の傀儡師
恋愛
三年間、王妃になるためだけに尽くしてきた馬鹿王子から、即位の日の直前に婚約破棄されたエマ。 彼女の最後のお願いには、国を揺るがすほどの罠が仕掛けられていた。

【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます

かずき りり
恋愛
もう、うんざりだ。 そこに私の意思なんてなくて。 発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。 貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。 善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。 聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。 ————貴方たちに私の声は聞こえていますか? ------------------------------  ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...