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 無理難題をお願いしてきた私の顔を見つめるエリック王子。
 その顔は国を担っている王子の顔でした。エリック王子はゆっくりと思い口を開きました。

「確かに、キミはこの国のために良くやってくれている・・・だから」

「なりませんっ。国民感情をどうされるおつもりですかっ」

 大臣が諫めようとしますが、エリック王子は手で制して、

「この国の人口が増えているのは、たくさん子どもが生まれるからだけでなく、移民の存在も大きい。もし、この国の国民になりたいという人々がいたら、快く受け入れて生きたい。それが個人で合っても、町単位であっても、国単位であっても。もちろん、大臣が言うようにこの国を脅かす存在も中には紛れ込んでいる。それでも、そういった人々だって、この国の方がいい国だと思えばきっとこの国に地に足付けたいと思うに違いない」

「母国をそんな簡単に捨てられますか・・・」

 大臣が私をちらっと見ました。私だって、母国は大好きでした。だけれど、追い出されてしまったのです。

「王子としては大臣のキミに愛国心があるのは本当に嬉しい。だが、一番大事なのは一人ひとりだ。だから、この国を選ぶのも選択肢の一つ」

「そんなことをおっしゃったら、御先祖が悲しみます・・・」

「先祖は皆、国民一人ひとりのことを考えてくださっていた。私は世界を―――」

 その後の言葉は言わず、エリック王子は遠くを見ていました。その顔を見ていたら、私は自分の意見を言いたくなりました。もしかしたら、レオナード王子のように私の一言でエリック王子も私のことを嫌いになるかもしれない。

「他国から来た人物も重用するとなれば、多くの方々、特に優秀な人材が安心してこの国に移住できるようになるかと思います」

 大臣はびっくりされた顔をしてましたが、エリック王子は微笑みながら私を見ていらっしゃいました。

「続けて」

「はい。もちろん、多くの方々が入ってくることでその方々、もちろん私なども自国の文化や考えを持って入国します。ですが、最も尊重すべきはこの国です。私もこの国の文化や考えをベースに献策させていただいておりました。
私が紹介する元大臣達にもその点は徹底させていただき、必ずやこの国のために役に立つでしょう。これは、モデルケースになるかと思います」

 理路整然と言ったつもりだけれど、心臓がバクバクしました。

「よし、決まりだ」

 エリック王子はにこっと笑った。

「ヴィクトリアの意見を採用する。ただし、ポストについては大臣、キミとも協議して決めていく。もちろん、見合わない者は入国だけ許可をする」

 私は深々とエリック王子に頭を下げました。
 その時、胸が熱くなるのを感じました。
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