上 下
9 / 15

2021年7月7日 夕方過ぎ

しおりを挟む
「あれっ?」

 周囲の警戒を怠らないFPSの達人の俺が周りを見ていると、着物姿の女性、同じく着物を着たり、ジンベイを着たりしている女性が多くいることに気がついた。

「あっ、あれっ」

 織姫が指さす方を見ると、今日は七川湖で花火大会があるようだ。

「よし、これに行ってみようか」

「うん」

(ラッキー)

 俺は引きこもりだ。
 そして、彼女いない歴=年齢だ。
 デートプランなんて考えるのは無理だ。

 だから、今日は行き当たりばったりでドキドキしながら乙姫の隣を歩いていたけれど、いろんなことに興味を持つ織姫はどんどん俺に甘えてきたので難なく時間は過ぎていった。織姫も俺に甘えやすいのは、俺の度量の広さあってこそだろう。はっはっはっ。ただ、こういうイベントがあるのは本当にありがたい。神に感謝した。

 俺たちは電車とバスを駆使して花火大会の会場に向かった。
 まぁ・・・田舎の30歳で車がないのは・・・うん。あぁ、運転免許は一応持っているぞ。

「うわぁ・・・すごい・・・」

 屋台にテンションが上がる織姫。

「はっはっはっ」

 この持っている男光彦に感謝しろと、偉そうに笑ってみる。俺だってお祭りなんてチョー久しぶりだ。少年の心を持ち続ける純粋な俺だってテンションが上がらずにはいられない。

「よしっ、好きな物を買ってやるぞ」

「本当に!?彦星だーいすきっ」

 ここに来る途中、浴衣を買って着物からさらに薄地になった織姫。
 抱き着かれると、さっきよりも彼女の柔らかさと熱気が俺を襲った。

「お・・・おぅっ」

「お・・・おっっ、だってーーーっ、あはははははっ」

 俺の動揺して固まった真似をする織姫。くっそ、ピュアな少年の心を弄びおって・・・。

「こいつめっ!!」

「きゃーこわい、逃げろ、逃げろーーっ」

 下駄を履いている上に浴衣だから小さくしか走れない織姫なんて簡単に追いつけてしまう。俺はこの振り上げた右手をどうしようかと悩んでしまう。そんな俺を振り向きながらニコニコしている織姫。

「んっ」

 抱きしめないのと言わんばかりに、ちょいっと後ろに飛び跳ねる織姫。しかし、しかし・・・

「さっさと行くぞ・・・」

 俺は右手を降ろして織姫を追い越す。

「・・・はーいっ」

 それはそれで「まっ、いっか」みたいな顔をして織姫がちょこちょこ小走りでついてくる。

「あっ、あれかわいい」

 俺の腕にさりげなくしがみつく織姫は、りんご飴屋を指さした。行きたそうに揺れながら上目遣いの織姫に勝てるわけもなく、俺たちはりんご飴屋に向かう。

「へぇ~今って、リンゴ飴だけじゃないんだねぇ」

 リンゴ飴屋にはブドウやイチゴなども並んでいた。俺もそんなことを知らなかった。

「へへっ、べっぴんさんにはおまけしちゃうぜ」

 スキンヘッドのおっちゃんが腰に手を当てながら笑っている。

「ほんとですか?じゃあ、リンゴ飴とイチゴ飴?で」

「ほいよっ」

 そういっておっちゃんはリンゴ飴とイチゴ飴にマスカット飴を付けてくれた。

「わーいっ」

 嬉しそうに両手に持つ織姫。

「うーむ、カメラがないのが実に残念だ」

 そう、俺は近未来化に逆行する男、スマホが流行っているらしいが、連絡する先もないし持っていない。まぁ、スマホのアプリゲームに流れてユーザーは多く、閉鎖するPCゲームもあるからどれほどの禁断の果実なのか興味があるようなないような・・・

「ほら、行くよ、彦星」

「おっおう」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダメな君のそばには私

蓮水千夜
恋愛
ダメ男より私と付き合えばいいじゃない! 友人はダメ男ばかり引き寄せるダメ男ホイホイだった!? 職場の同僚で友人の陽奈と一緒にカフェに来ていた雪乃は、恋愛経験ゼロなのに何故か恋愛相談を持ちかけられて──!?

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

あなたの好みは小悪魔系?お姉さん系?それとも……

雨宮 徹
恋愛
俺はアルバイトで家庭教師をしている。いや、家庭教師のはずだった。それがひょんなことからモテ始めていつの間にかハーレムに。三人の女性からアプローチされた俺の下した決断は……。 ※マルチエンディングです。 ※カクヨムと小説家になろう、エブリスタでも掲載しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃった件

楠富 つかさ
恋愛
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃうし、なんなら恋人にもなるし、果てには彼女のために職場まで変える。まぁ、愛の力って偉大だよね。 ※この物語はフィクションであり実在の地名は登場しますが、人物・団体とは関係ありません。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

処理中です...