上 下
3 / 8
専業主婦期

しおりを挟む
 ピピピッ
 
 私はパッと目を覚まして、スマホのアラームを一瞬で消す。
 昨日は寝れなかった。
 不機嫌なたくやに気を遣いながら、ご飯をすぐに用意して、お風呂を洗い、りくを一緒にお風呂に入れてもらいたかった・・・けど、その日のたくやはいつにもまして不機嫌で頼むこともできず、りくには申し訳なかったけれど、たくやが入った後に私と一緒に入った。ぎりぎり日付は越さなかったものの、りくを深夜に布団に入れることになってしまった罪悪感。そして、たくやはぶつぶつ段取りが悪いだの「仕事ならこんなミスぜってー許されない」と言っていたのが、耳にこびり付いていて頭が覚醒してほとんど寝た気はしない。
 
 今日はお願い。
 私は心の中でそうお願いをした。
 相手はたくやではなくて、りく。

(大人しく、寝ていてね?)

 自己嫌悪。
 本当は、幼いりくをこの家族で一番優先させるべきなのに。昨日だって、ミスをしたのは私だけれど、たくやに協力を仰いで、りくを一番にお風呂に入れて、一番に布団に入れなかきゃいけなかったのに。

 こんな情けない母の元に来たりくは私の願いを叶えてくれていた様子で、ぐずることなく私は洗濯物を回して、朝ごはんの準備をしている間良く寝ていてくれた。おかげで、

「いってらっしゃい」

「ああ…・・・」

 スムーズにたくやを見送ることができる。

「昨日はごめんなさいね。今日は頑張るから。たくやも疲れていると思うけど、元気にファイトっ」

 昨日は忙しくて、やるべきことしかできなかったけれど、昨日のたくやはどこかおかしかった。だから私はたくやに元気になってほしくて、明るい声でたくやを玄関で見送ろうとする。

「いいよな、主婦は。俺を送った後は一休みできるんだから」

 不機嫌な顔のままたくやは出ていってしまった。

 ひどいっ

 バタンと扉が閉まっても、私はその言葉がショックで動けず、涙を流した。

「ママッ、ママッ」

 私の足によちよち歩いて来てくれたりく。

「ママ、だいじょーぶ?」

 やっぱり、この子は優秀で、とってもいい子だ。
 私はしゃがんでりくを抱きしめる。

「ごめんね、ママ。失敗ばかりで・・・・・・」

「失敗はしちゃいけないって・・・・・・パパ、言ってた。パパは、失敗を、絶対に許さないから、失敗はしちゃいけないって」

 たくやが口を酸っぱく言い聞かせているのを覚えたりく。

「よく・・・・・・覚えたわね。偉いわ、りく」

 その言葉は辛かった。けれど、子どもが言葉、そして意味を覚えていくことは素晴らしいことだ。りくは親馬鹿かもしれないけれど、物覚えがよくて優秀だ。それを否定することなんてできない。

「でもね、それよりも、ぼく・・・・・・ママに笑っていて欲しい」

「ありがと、りく。りくはパパみたいに頭が良くて、ママみたいに優しくなるのよ」

「うん」

 ママ、頑張るから。
 りくが幸せになれるように、ママ頑張るから。
 
 

「今日は頑張るからっねっ?」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

あなたのすべて

一条 千種
恋愛
"もし人生にTake2があるなら、あなたに2度目の初恋をしたい" 商社に勤める早川幸太は、30歳の同窓会で、初恋の相手である松永美咲に再会する。 初恋の人との、ささやかだが幸福な時間を噛みしめる幸太。 だが、幸太は既婚者だ。 大切な美咲を傷つけたくない、永遠の初恋を汚したくない思いで、想いを封じ込める。 そして、酔いつぶれ意識を失った幸太の前に、「監督」を名乗る男が現れる。 その男は、ジャ〇ーさん風にこう言ったのだ。 「さぁTake2いくよ、Youの本当の人生を見せて!」 目を開けると、まぎれもなく、そこは高校の頃に毎日を過ごしたあの教室。 隣では、美咲が天使のような微笑みを浮かべている。 (本当の人生を、やり直せるのか……?) 幸太は戸惑いつつ、12年の時を越えて、初恋のTake2を始める。

crazy Love 〜元彼上司と復縁しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
crazy Love 〜元彼上司と復縁しますか?〜

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

処理中です...