1 / 6
1
しおりを挟む
「ふぅ・・・こんなものかな・・・」
長崎駅でため息をつきながら、時刻表を見る青年。
彼の名前は 渡辺瑛斗。
昨年から東京で働き出した2年目の社会人だ。
学生の頃は運動も勉強もそれなりにできた彼だったが、社会に出て、捌ききれないほどの仕事量、正解がわからないような仕事に直面し、お客様や上司からため息をつかれるような日々。ゴールデンウィークになって彼はふらっと九州旅行に出かけた。
1日1県を目標に、今日が8日目。
すでに、福岡県、大分県、宮崎県、鹿児島県、熊本県、長崎県を回っていた。
「九州って7県しかないとかびっくりだわ。まぁ、そのおかげで屋久島に上陸できたけど・・・」
生まれてからずーっと、関東圏で暮らしてきた瑛斗にとって、九州は確かに中学校の時に7県だと習ったはずだったが、日常生活にほとんど干渉してこない情報だったため、記憶が薄れていた。
休みはあと2日。
それが終われば、また忙しい毎日が待っていると思うと、8日間も旅行を満喫したはずの瑛斗の顔はすっきりしてはいなかった。
「佐賀か・・・」
瑛斗は肩や腰を回して、ストレッチする。
長旅は楽しいけれど、疲れる。
長距離バスでの移動や、飛び込みで泊まれるホテルを探して身体を休めた瑛斗の身体は疲労が溜まっている。
「佐賀の良いところは探せませんでした、なはははっ」
瑛斗は先ほどまでどうしようか悩みながら、スマホで佐賀県を検索していた。それなりに行ってみたいところはあったけれど、絶対に行きたいと思えるような場所には感じなかった。学生の頃、佐賀のキャッチコピーが「佐賀を探そう」であることを耳にした記憶が蘇った。
「・・・うん、しっかり身体を休めるために帰るか」
今はどうか知らないが、はっきり言って、うじうじ悩んで自分を探しているやつなんて魅力がない。
そう考えた瑛斗は佐賀を見下すような目でスマホの画面を見下ろした。
トゥルルルルルッ
電話がかかって来て、一瞬びくっとする。
せっかくのオフなのに、仕事モードのスイッチがオートで入ってしまった。
「んだよ、蓮かよ・・・もしもしっ」
瑛斗は文句を言いながらも、友人の長谷川蓮からの着信に対応する。
「もしもし、瑛斗。今暇?」
「はははっ、今俺はな、長崎にいんだよ」
暇人と決めつけた言い方をしてきた蓮に対して、誇らしげに回答する瑛斗。
「じゃあ、カラスミよろしく。ごちになりまーす」
「はぁ!? ふざけんな。こっちは旅費が底をついてだな・・・」
「まっ、いいや。それで、ずーっと長崎に行ってたの?」
瑛斗はマイペースな蓮にものを言いたくなったけれど、蓮がそういう性格で注意しても治ることがないことを良く知っている瑛斗は文句を言いたい気持ちをぐっと抑えて、
「いいや・・・九州回ってたんだよ」
「へーすごいじゃん。全部回った?」
「それがだな、佐賀だけは良いところを探せなかったから行かないつもりだ。はははっ」
面白いことを言ったと思った瑛斗は誘い笑いをする。
「えー中途半端、もったいなっ」
蓮の率直な感想に瑛斗はぴくっと反応した。
「昔から、瑛斗はなんでもできたけど、最後までやりきらないよなぁ。それで、やらなかったことをうじうじうじうじ・・・佐賀だっていいところあると思うよ」
「なっ、なら言ってみろよ」
「・・・うーん。わかんないや。まっ、最後まで楽しんで。じゃっ」
「おっ、おいっ」
スマホは反応しなくなり、画面を見ると、通話終了となっていた。
長崎駅でため息をつきながら、時刻表を見る青年。
彼の名前は 渡辺瑛斗。
昨年から東京で働き出した2年目の社会人だ。
学生の頃は運動も勉強もそれなりにできた彼だったが、社会に出て、捌ききれないほどの仕事量、正解がわからないような仕事に直面し、お客様や上司からため息をつかれるような日々。ゴールデンウィークになって彼はふらっと九州旅行に出かけた。
1日1県を目標に、今日が8日目。
すでに、福岡県、大分県、宮崎県、鹿児島県、熊本県、長崎県を回っていた。
「九州って7県しかないとかびっくりだわ。まぁ、そのおかげで屋久島に上陸できたけど・・・」
生まれてからずーっと、関東圏で暮らしてきた瑛斗にとって、九州は確かに中学校の時に7県だと習ったはずだったが、日常生活にほとんど干渉してこない情報だったため、記憶が薄れていた。
休みはあと2日。
それが終われば、また忙しい毎日が待っていると思うと、8日間も旅行を満喫したはずの瑛斗の顔はすっきりしてはいなかった。
「佐賀か・・・」
瑛斗は肩や腰を回して、ストレッチする。
長旅は楽しいけれど、疲れる。
長距離バスでの移動や、飛び込みで泊まれるホテルを探して身体を休めた瑛斗の身体は疲労が溜まっている。
「佐賀の良いところは探せませんでした、なはははっ」
瑛斗は先ほどまでどうしようか悩みながら、スマホで佐賀県を検索していた。それなりに行ってみたいところはあったけれど、絶対に行きたいと思えるような場所には感じなかった。学生の頃、佐賀のキャッチコピーが「佐賀を探そう」であることを耳にした記憶が蘇った。
「・・・うん、しっかり身体を休めるために帰るか」
今はどうか知らないが、はっきり言って、うじうじ悩んで自分を探しているやつなんて魅力がない。
そう考えた瑛斗は佐賀を見下すような目でスマホの画面を見下ろした。
トゥルルルルルッ
電話がかかって来て、一瞬びくっとする。
せっかくのオフなのに、仕事モードのスイッチがオートで入ってしまった。
「んだよ、蓮かよ・・・もしもしっ」
瑛斗は文句を言いながらも、友人の長谷川蓮からの着信に対応する。
「もしもし、瑛斗。今暇?」
「はははっ、今俺はな、長崎にいんだよ」
暇人と決めつけた言い方をしてきた蓮に対して、誇らしげに回答する瑛斗。
「じゃあ、カラスミよろしく。ごちになりまーす」
「はぁ!? ふざけんな。こっちは旅費が底をついてだな・・・」
「まっ、いいや。それで、ずーっと長崎に行ってたの?」
瑛斗はマイペースな蓮にものを言いたくなったけれど、蓮がそういう性格で注意しても治ることがないことを良く知っている瑛斗は文句を言いたい気持ちをぐっと抑えて、
「いいや・・・九州回ってたんだよ」
「へーすごいじゃん。全部回った?」
「それがだな、佐賀だけは良いところを探せなかったから行かないつもりだ。はははっ」
面白いことを言ったと思った瑛斗は誘い笑いをする。
「えー中途半端、もったいなっ」
蓮の率直な感想に瑛斗はぴくっと反応した。
「昔から、瑛斗はなんでもできたけど、最後までやりきらないよなぁ。それで、やらなかったことをうじうじうじうじ・・・佐賀だっていいところあると思うよ」
「なっ、なら言ってみろよ」
「・・・うーん。わかんないや。まっ、最後まで楽しんで。じゃっ」
「おっ、おいっ」
スマホは反応しなくなり、画面を見ると、通話終了となっていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
不覚にも、ときめいてしまいました。
冴月希衣@商業BL販売中
青春
「誰にも理解されないなら、誰とも関わらない」 孤独の殻に閉じこもっていた松雪だったが――。
秋色が麗しい、ある日の午後。とある神社で、ふたりは出逢う。
陰気、暗い、誰とも馴染まず喋らない、いつも独りで俯いてる眼鏡女子、松雪。
軽音部キーボード担当、他人に興味ない自己チューな気性で極度の面倒くさがり。誰に対しても冷たいと評判なのに、常にグループの中心にいるチャライケメン、柳。
ふたりの『告白』の物語。
☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆
素敵な表紙絵は、まかろんKさん(@macaronk1120)作画です。
◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission.
文は揺蕩う
四季の二乗
青春
思いを捨てる祭り、底炎(ていえん)祭。
第十八代目”灯”である浅崎庵(あさざきいより)は、幼馴染で隣人である最上東星(もがみとうせい)を祭りへと誘う。
言葉巧みに誘いを断る東星は、もう一人の隣人を捨てられずにいた。
庵の姉であり、双子の方割れであった幼馴染は、数年前山へと向かった後に消息を絶った。
”色”と呼んだ幼馴染は、彼らを今でも山登で繋げている。
彼らはもう一人の後輩と共に、色を失った山へと挑む。
__文は、貴方を離れ。
揺蕩いながら、思いを沈める。
それはきっと、あなたに伝わる。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
真っ白なあのコ
冴月希衣@商業BL販売中
青春
【私だけの、キラキラ輝く純白の蝶々。ずっとずっと、一緒にいましょうね】
一見、儚げな美少女、花村ましろ。
見た目も性格も良いのに、全然彼氏ができない。というより、告白した男子全てに断られ続けて、玉砕の連続記録更新中。
めげずに、今度こそと気合いを入れてバスケ部の人気者に告白する、ましろだけど?
ガールズラブです。苦手な方はUターンお願いします。
☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆
◆本文、画像の無断転載禁止◆
No reproduction or republication without written permission.
夕暮れモーメント
松本まつも
青春
ありきたりな日常の風景も、
誰かにとっては、忘れられない
一生の宝物になれる。
うっかりしてたら見落としそうな、
平凡すぎる毎日も、
ふとした瞬間まぶしいくらいに
輝いて見えることもある。
『夕暮れモーメント』
とある日だまりの片隅で起きた、
小さな奇跡のお話。
真夏の温泉物語
矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【完結】ごめんなさい、韓流スターにぞっこんな私は恋を放棄します。
西東友一
青春
韓流スターが好きな私(大学生)。
そんな私に年下の彼氏ができた。でも・・・ごめんなさい、韓流ブームは止められません!!
そんなある日、私は衝撃的な光景を目の当たりにする・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる