上 下
4 / 13

しおりを挟む
 思い出は涙と共に道端に捨ててきた私は町を一人歩いた。
 せっかく晴れ晴れとした気持ちで出かけたのに、今の気持ちは少し重い。
 でも、私は初恋と決別をしてきたのだ。

 もしかしたら、そんな昔のことをまだ覚えていたのかと嘲笑されるかもしれない。重い女だって思われたかもしれない。でも、心の中にいつもあった大切な思い出に決別しないと、私は先に進めないのだ。だから、これでようやくレオンを無視して前を向ける。

(・・・駄目だ、駄目だ、駄目だっ)

 でも、さっきレオンにぶつけた言葉をきっかけに、レオンが私に再度婚約を申し出ないか期待している自分もどこかでいた。ただ、今回は一番派手にレオンにアピールしたけれど、何度も何度も繰り返し、レオンに言わせようとしたけれど、レオンは一向に私に告白して来なかったのだ。

(だから、今回だって・・・・・・)

「・・・お嬢さん」

「・・・」

「ちょっと、そこのお綺麗なお嬢さん」

「・・・」

「パラソルを持った綺麗なお嬢さんっ」

 物思いにふけっていた私だったけれど、大きな声が誰かを呼んでいるのが気になって辺りを見渡すと、同い年くらいの男性と目が合った。

「やっと、気づいてくれた」

 男性はとてもよく通るいい声をしていた。

「あぁ、すいません。私のことだと思わなくて。なんでしょうか?」

「浮かない顔をしていて、心配になってしまって・・・。何かあったんでしょうか?」

「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。では・・・」

 私は人様に心配かけるような姿で町を歩いていたのを反省して、彼にお辞儀をして立ち去ろうとすると、

「待ってっ!!」

 そう言って、私の行く前で両手を広げた彼。
 顔は整っており、身なりも稼いでいる商人だと思われるけれど、商人の中には奴隷の売買で稼いでいる悪どい者もいると言う。だから、私は少し身構えて、いつでも叫べる体制になった。

「いや、警戒しないでください。怪しい者じゃないんです。あぁ、そうですよね、そうですよね。怪しい奴こそそう言いそうですよね」

 半笑いしながら、必死に手を振る男。一応、仲間が後ろから襲ってこないかも疑うけれど、背後は特に問題はなさそうだ。男は私の警戒が緩まないのを悟ったのか、しっかりと背筋を伸ばして、緩んだ表情も真剣な顔になった。

「率直に言います。私、ナダルはアナタに一目惚れしました。私と婚約していただけませんか?」

 急に地面に片膝をついたナダル。
 ナダルはうるっとした色っぽい瞳で私を見上げた。

「えっ」

 急に動いたのは襲ってくるかと思って警戒した私は、脅しのほぼ真逆の愛の懇願を受けて、動揺したせいか心臓が高鳴った。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって

鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー  残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?! 待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!  うわーーうわーーどうしたらいいんだ!  メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

婚約破棄された私は、年上のイケメンに溺愛されて幸せに暮らしています。

ほったげな
恋愛
友人に婚約者を奪われた私。その後、イケメンで、年上の侯爵令息に出会った。そして、彼に溺愛され求婚されて…。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

「地味でブサイクな女は嫌いだ」と婚約破棄されたので、地味になるためのメイクを取りたいと思います。

水垣するめ
恋愛
ナタリー・フェネルは伯爵家のノーラン・パーカーと婚約していた。 ナタリーは十歳のある頃、ノーランから「男の僕より目立つな」と地味メイクを強制される。 それからナタリーはずっと地味に生きてきた。 全てはノーランの為だった。 しかし、ある日それは突然裏切られた。 ノーランが急に子爵家のサンドラ・ワトソンと婚約すると言い始めた。 理由は、「君のような地味で無口な面白味のない女性は僕に相応しくない」からだ。 ノーランはナタリーのことを馬鹿にし、ナタリーはそれを黙って聞いている。 しかし、ナタリーは心の中では違うことを考えていた。 (婚約破棄ってことは、もう地味メイクはしなくていいってこと!?) そして本来のポテンシャルが発揮できるようになったナタリーは、学園の人気者になっていく……。

私、今から婚約破棄されるらしいですよ!舞踏会で噂の的です

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
デビュタント以来久しぶりに舞踏会に参加しています。久しぶりだからか私の顔を知っている方は少ないようです。何故なら、今から私が婚約破棄されるとの噂で持ちきりなんです。 私は婚約破棄大歓迎です、でも不利になるのはいただけませんわ。婚約破棄の流れは皆様が教えてくれたし、さて、どうしましょうね?

処理中です...