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1 濃厚な1日の始まり

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「風が気持ちいい・・・」

 こんな日は何か素敵なことが起こりそう。
 私は自部屋の窓を閉めて、パラソルとカゴを持ってお屋敷を出ようとした。

 すると何人かのメイドさんなどの使用人が「買い物なら私が」とか「馬車の準備を致しましょうか」なんて言ってきた。けど、私は断った。彼女達は「ご主人様に怒られてしまいます」なんて困ったけれど・・・ごめんなさい。

 私は伯爵令嬢であっても、自由に生きたいの。
 だって、お金があっても不自由なんて勿体ないじゃない。

 お父様が私を政略結婚の駒にしようと画策しているのは知っている。
 そんなの一番の不自由。

「世の中には悪い人が溢れているんですっ。せめてお供させて・・・」

 後ろの方からメイドさんの声が聞こえたけれど、私は無視して敷地から飛び出した。

(大丈夫よ・・・だって・・・)

 私には絶対に大丈夫な自信がある。
 それはね・・・

「よっ、じゃじゃ馬娘っ」

「きゃっ」

 パラソルという私のパーソナルスペースにズカズカと勝手に入って来たのは幼馴染の伯爵子息レオンだった。

「ふー、暑い、暑い。ハンカチはあるか?」

「もーっ、ハンカチはあるかじゃないでしょっ」

 レオンは自分の手で顔を扇ぎながらもう片手を差し出してくる。彼が扇いだせいか彼の香水のカモミールのような香りがした。彼が私のパラソルに入って来たせいで、パラソル内の温度が上がったせいで私も体温が上がって変な汗をかいてしまった。

(ドキドキしているのも・・・暑いせいよっ!)


 とはいえ、メイドさんたちから逃げるように出てきたから香水をつけたかどうか覚えていない。私は緊張して背筋が伸びた。

「持つよ」

「えっ?」

 身構えていた私の返事を待たずにパラソルの柄を持ってくれるレオン。気恥ずかしかったし、無神経なレオンを追い出すつもりだったけれど、ふと見せる紳士的な態度・・・・・・とりあえず、レオンが隣を歩くのを許した。

「お嬢様・・・どこへ行かれるのですか?」

 でも数十歩歩いただけで、すぐにふざけるレオン。

(私はアナタのお嬢様じゃないでしょっ)

「とりあえず、町に」

「あいよ」

 いつものように隣り合って歩く私とレオン。
 幼い頃から私が左でレオンが右。

 でも、それだって・・・

「ねぇ、レオン?」

「なんだい? ナナリー」

「お父様がね、この頃・・・私の婚約者に相応しい殿方を探しているらしいの・・・」

 幼馴染だとしてもレオンは異性。もう私たちは恋ができて、結婚まできる年齢になった。
 気にしない人もいるかもしれないけれど、周りの人たちは勘ぐっている。

―――恋人なのか

 私がお父様の話をすると、レオンの足がピタっと止まった。
 でも、私たちの関係は・・・もう留まることはできない。
 


 
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