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本編
53話 ペパーミント
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クリスの手に私は恐る恐る手を伸ばす。
静電気のような痛みを恐れながら。
そんな私を見て、クリスが囁く。
「キミがキミを蔑んで、キミが僕に相応しくないと言うならば、ボクは喜んで奈落へと落ちよう」
ニコっとするクリス。
「だって、僕はキミと一緒に世界を見たいから」
そう言って、私の隣に来てしゃがみ込むクリス。王子であるクリスは、まるで騎士が主君の前で忠誠を誓うように片膝をつく。
「ボクはキミの隣がいい」
東の国のお話で聞いたことがある西遊記の孫悟空とお釈迦様の関係のようだ。どんなに駄々をこねても、私はこの優しさから、飛んで逃げることはできなそうだ。
「なんで、私なの?」
「なんでだろうね?わからないや」
クリスは笑いながら私の右手を大事そうに握る。
「でも・・・嫌いなんでしょ」
私はしおらしくなりつつも、懲りずにまだ悪態をつく。
「それもシャーロットなんだよね?なら、僕はそんなキミも受け止めるよ」
「まだ、クリスが知らないだけで嫌なところたくさんあるかもだよ?」
「それは困ったなっ」
全然困ったようなそぶりも見せずに笑顔のクリス。
(私の負けかな・・・っ)
私は左手をクリスの手を握る。
「あのね・・・」
「うんなんだい?」
「私・・・クリスのことが好き・・・・・・だと思う」
クリスは表情を変えずに温かい眼差しで私を見ている。
「でも、昨日も言ったけれど、ボッド王子の一件で・・・今の私は人を信じられないの。でも、クリスなら信じたい、クリスなら・・・信じられる」
まるで、つり橋を渡っているような気分。一言、一言紡ぐごとに心が揺れる。
「だから、もっとクリスのことを知りたい。クリスの国に行ってみたい。クリスのお父様やお母様にも会ってみたいし、クリスの全部が欲しい」
理性が橋から落ちないように慎重に言葉の板を進もうとしているのに、感情が橋を揺らして、揺れを楽しみながら早く行こうとするので、言っていることがちぐはぐしてきた。
「あぁ・・・僕もシャーロットのことを良く知りたいし、知って欲しいよ」
でも、そんな心配はよそにクリスは嬉しそうに笑ってくれた。
クリスは本当に理解力と包容力を兼ね備えている。
貴族や王族の結婚なんて、多くがボッド王子のように権力を持っていれば、強引に結婚させたり、何人もの女性と結婚するのが当たり前。それを私が童話のような結婚を夢見てしまったのが悪い。
なのに、この人は違う。
夢なんて
「あっ、でもちゃんと、お父様やお母様に許可を取らないと」
「あぁ、もちろんさ。頑張るよ」
「ええ、うちのお父様は怖いわよ」
私は嘘をついた。
お父様は優しい人。
だって、自慢のお父様だ。
「じゃあ、頑張らないといけないね」
クリスは嬉しそうに笑った。
私たちはお互いを見つめ合った。
私とクリスだけの世界。
木漏れ日の中で私とクリス、どちらが合図をするわけでもなく、私たちは自然と顔を近づけていき、目を閉じ・・・
そっとキスをした。
私も、そして、クリスもファーストキスはペパーミントの味がした。
静電気のような痛みを恐れながら。
そんな私を見て、クリスが囁く。
「キミがキミを蔑んで、キミが僕に相応しくないと言うならば、ボクは喜んで奈落へと落ちよう」
ニコっとするクリス。
「だって、僕はキミと一緒に世界を見たいから」
そう言って、私の隣に来てしゃがみ込むクリス。王子であるクリスは、まるで騎士が主君の前で忠誠を誓うように片膝をつく。
「ボクはキミの隣がいい」
東の国のお話で聞いたことがある西遊記の孫悟空とお釈迦様の関係のようだ。どんなに駄々をこねても、私はこの優しさから、飛んで逃げることはできなそうだ。
「なんで、私なの?」
「なんでだろうね?わからないや」
クリスは笑いながら私の右手を大事そうに握る。
「でも・・・嫌いなんでしょ」
私はしおらしくなりつつも、懲りずにまだ悪態をつく。
「それもシャーロットなんだよね?なら、僕はそんなキミも受け止めるよ」
「まだ、クリスが知らないだけで嫌なところたくさんあるかもだよ?」
「それは困ったなっ」
全然困ったようなそぶりも見せずに笑顔のクリス。
(私の負けかな・・・っ)
私は左手をクリスの手を握る。
「あのね・・・」
「うんなんだい?」
「私・・・クリスのことが好き・・・・・・だと思う」
クリスは表情を変えずに温かい眼差しで私を見ている。
「でも、昨日も言ったけれど、ボッド王子の一件で・・・今の私は人を信じられないの。でも、クリスなら信じたい、クリスなら・・・信じられる」
まるで、つり橋を渡っているような気分。一言、一言紡ぐごとに心が揺れる。
「だから、もっとクリスのことを知りたい。クリスの国に行ってみたい。クリスのお父様やお母様にも会ってみたいし、クリスの全部が欲しい」
理性が橋から落ちないように慎重に言葉の板を進もうとしているのに、感情が橋を揺らして、揺れを楽しみながら早く行こうとするので、言っていることがちぐはぐしてきた。
「あぁ・・・僕もシャーロットのことを良く知りたいし、知って欲しいよ」
でも、そんな心配はよそにクリスは嬉しそうに笑ってくれた。
クリスは本当に理解力と包容力を兼ね備えている。
貴族や王族の結婚なんて、多くがボッド王子のように権力を持っていれば、強引に結婚させたり、何人もの女性と結婚するのが当たり前。それを私が童話のような結婚を夢見てしまったのが悪い。
なのに、この人は違う。
夢なんて
「あっ、でもちゃんと、お父様やお母様に許可を取らないと」
「あぁ、もちろんさ。頑張るよ」
「ええ、うちのお父様は怖いわよ」
私は嘘をついた。
お父様は優しい人。
だって、自慢のお父様だ。
「じゃあ、頑張らないといけないね」
クリスは嬉しそうに笑った。
私たちはお互いを見つめ合った。
私とクリスだけの世界。
木漏れ日の中で私とクリス、どちらが合図をするわけでもなく、私たちは自然と顔を近づけていき、目を閉じ・・・
そっとキスをした。
私も、そして、クリスもファーストキスはペパーミントの味がした。
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