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「でも、ちゃんと身を守るときは使ってほしいって言えなかったボクが悪い。本当にごめん」

 魔法使いさんが頭を下げて、謝って来た。

「いえいえ、そんな・・・」

「間に合って良かった・・・本当に」

 急に真面目な態度な魔法使いさんに私もしおらしくなってしまう。

「ねぇ、ミーシャ・・・」

 私を真っすぐした瞳で見つめてくる魔法使いさん。純粋で無邪気だから幼く見えることもあるけれど、やはり長生きしている分、大人っぽい雰囲気も兼ね備えていて、そのギャップや、綺麗な目に心が奪われてしまった。

「ボクはキミがこの世を去るなんて選択肢を取るのは嫌だよ。キミは・・・神が燃やそうとしている世界であっても・・・それでも人々を救おうとするのかい?」

「はい」

 私は心に尋ねたけれど、「はい」しかなかった。

「ふふっ。もしかしたら、この煉獄の炎の持ち主の神が裁きの神だとすれば、キミは救いの神かもしれないね」

「そっそんな滅相もございませんっ。ご冗談はよしてください」

「ごめんごめん。でも、ボクにとっては・・・」

 魔法使いさんは哀愁ただよう顔で遠くを見た。
 私と魔法使いさんが出会った方角だったのはたまたまなのか、それとも―――

「ボクともう一度、暮らさないかい? ミーシャ」

 そう言って、手のひらを見せてくる魔法使いさん。
 その顔は昔と同じで優しい笑顔だったけれど、大人が子どもに向ける父性のような顔ではなくて、頬を赤らめて、はにかんだ青年の顔だった。

「でも・・・私は・・・」

 嬉しかった。
 過去を美化しているかもしれなかったけれど、魔法使いさんとの思い出は私にとって、とても素敵な思い出で、何度も思い出して懐かしく思っていた。だから、その言葉はとても嬉しくて・・・嬉しくて。嬉しすぎるがゆえに、こんなに幸せになっていいのだろうかと不安になった。

 だからこそ、裁きを受けた罪悪感が再び戻ってくる。
 ここは地上だけど、それこそ煉獄の中のような場所になっている。
 そこで喜ぶのは・・・悪女だと思ってしまった。
 リリスが言った言葉がまだ耳に残っている。

「キミは家族が心配しているからと言って、ボクを残して去った。最初はボクもそれがキミのためだと思った。けれど、キミがいなくなったら、自由な世界も急につまらなくなって・・・とっても寂しいんだ、これが」

 者悲し気な微笑みをしながら、自分の心臓のあたりの服をぎゅっと掴む魔法使いさん。
 魔法使いさんのそんな顔を見ると、私の心臓も締め付けられるようで辛かった。

「シフォンたちがいるじゃない」

 あぁ、私って素直じゃない。わかっている。
 でも、私は幸せになっちゃいけない気がして、いじわるな返事をしてしまう。
 魔法使いさんには、動物たちがいる。
 聖獣のウルフのシフォンなんて、白くてモフモフでとってもかわいい。
 みんなといると落ち着くし楽しい。私がいなくても・・・。

「なぁ、本当はわかっているんだろ?ミーシャ。確かにウルフたちも大切な友だ。でも、友・・・なんだよ。この気持ち、キミも一緒じゃないのかい?」

(あぁ・・・)

 私の心の幸せの芽が咲いた。
 
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