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第5話
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―――翌朝、事件が起こった。
「大変です!!リアム王子!!」
侍女が大慌てで息も絶え絶えになりながら、リアムの部屋に入ってくる。
「一体朝から、何用だ」
王子は寝間着の上から上着を羽織り、ベットから降りて、呆れた顔をしながら、跪く侍女の前に移動する。
「じょっ、じょ…っ、女王様が」
リアムは女王という言葉が出た瞬間、昨日ヴィエナのもとに魔女であるルシアが訪れていたことを思い出し、自室のドアを力強く開き、駆け出す。
(母様…っ)
リアムは生きた心地がしなかった。心臓は寝起きにも関わらず小さく鼓動が早まる。
「母様!!…うっ、ううううぅっ。うわああああああっ」
リアムが着いたときには時すでに遅し、だった。
母の部屋には、大きな翡翠色の綺麗な鉱石の中にヴィエナがいた。
聖母のような慈しみのある笑顔で。
(なんだ…この感覚は…)
リアムは悔しさや、悲しさの気持ちに溢れていたはずだったが、同時に心が洗われ、心が癒されているのを感じる。
リアムの大声、それに他の侍女達が呼んだのだろう、ぞろぞろと人が集まってくる。
そして―――人知を超えた力を持つ魔女、ルシアもその場に訪れた。
「きっさまああああああっ」
リアムは心で怒りを露わにしたわけではない。
―――こんな状況に置かれて、怒らない自分がいるはずがない。
彼の感情としての怒りは、魔力によって打ち消されていた。
彼は理性で怒りをルシアへぶつけた。
そんなリアムをルシアは不思議そうに見る。
「あなたにはなぜそんなにも抗うの?」
(やはり、これはルシアの魔法によるものか…)
「なぜ、こんなことをした、ルシア」
「私は人の望みを叶える魔女よ?望まれれば私は叶える、それが道理でしょう」
「では、ここで私が貴様に死ねと望めば死ぬのか」
「…えぇ」
ルシアは目を輝かせながら答える。
その顔にリアムは少し不気味に感じた。
「…どんな望みを叶えたんだ」
「彼女は永遠の美を求めました。彼女を見れば心に慈愛を感じるよう、癒しを感じるような美。それを私に望みました。そして、私はそれを叶えました」
「母上…」
リアムはヴィエナを見る。
父への理解を示していた母が、自己の欲求を満たすために魔法に頼るとは思っていなかったリアムは悲しみを覚えたが、またヴィエナの笑顔を見ると心が無理やり白塗りされるのを感じる。
「母上、私は悲しい時には悲しいと言いたい。怒りが湧いたときには怒鳴り散らしたい…。それが、子供っぽい感情だったとしても…、王として必要がない感情だったとしても、私は魔の力になど頼らずにありたい」
リアムは、昨日は自分のことでいっぱいで母のそぶりに気づかなかった。気づこうとしなかった。母の影を落とした顔を。
涙がリアムの頬をつたう。
「なぜ、あなたの瞳は涙を流せるの?」
ルシアはリアムの立ち振る舞いに驚きを隠せなかった。
「大変です!!リアム王子!!」
侍女が大慌てで息も絶え絶えになりながら、リアムの部屋に入ってくる。
「一体朝から、何用だ」
王子は寝間着の上から上着を羽織り、ベットから降りて、呆れた顔をしながら、跪く侍女の前に移動する。
「じょっ、じょ…っ、女王様が」
リアムは女王という言葉が出た瞬間、昨日ヴィエナのもとに魔女であるルシアが訪れていたことを思い出し、自室のドアを力強く開き、駆け出す。
(母様…っ)
リアムは生きた心地がしなかった。心臓は寝起きにも関わらず小さく鼓動が早まる。
「母様!!…うっ、ううううぅっ。うわああああああっ」
リアムが着いたときには時すでに遅し、だった。
母の部屋には、大きな翡翠色の綺麗な鉱石の中にヴィエナがいた。
聖母のような慈しみのある笑顔で。
(なんだ…この感覚は…)
リアムは悔しさや、悲しさの気持ちに溢れていたはずだったが、同時に心が洗われ、心が癒されているのを感じる。
リアムの大声、それに他の侍女達が呼んだのだろう、ぞろぞろと人が集まってくる。
そして―――人知を超えた力を持つ魔女、ルシアもその場に訪れた。
「きっさまああああああっ」
リアムは心で怒りを露わにしたわけではない。
―――こんな状況に置かれて、怒らない自分がいるはずがない。
彼の感情としての怒りは、魔力によって打ち消されていた。
彼は理性で怒りをルシアへぶつけた。
そんなリアムをルシアは不思議そうに見る。
「あなたにはなぜそんなにも抗うの?」
(やはり、これはルシアの魔法によるものか…)
「なぜ、こんなことをした、ルシア」
「私は人の望みを叶える魔女よ?望まれれば私は叶える、それが道理でしょう」
「では、ここで私が貴様に死ねと望めば死ぬのか」
「…えぇ」
ルシアは目を輝かせながら答える。
その顔にリアムは少し不気味に感じた。
「…どんな望みを叶えたんだ」
「彼女は永遠の美を求めました。彼女を見れば心に慈愛を感じるよう、癒しを感じるような美。それを私に望みました。そして、私はそれを叶えました」
「母上…」
リアムはヴィエナを見る。
父への理解を示していた母が、自己の欲求を満たすために魔法に頼るとは思っていなかったリアムは悲しみを覚えたが、またヴィエナの笑顔を見ると心が無理やり白塗りされるのを感じる。
「母上、私は悲しい時には悲しいと言いたい。怒りが湧いたときには怒鳴り散らしたい…。それが、子供っぽい感情だったとしても…、王として必要がない感情だったとしても、私は魔の力になど頼らずにありたい」
リアムは、昨日は自分のことでいっぱいで母のそぶりに気づかなかった。気づこうとしなかった。母の影を落とした顔を。
涙がリアムの頬をつたう。
「なぜ、あなたの瞳は涙を流せるの?」
ルシアはリアムの立ち振る舞いに驚きを隠せなかった。
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