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8話 成長している君、お子様の私
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「いらっしゃいませ、何名ですか」
「一人です」
店員のお兄さんは私の顔を見て何かに気づいたようだが、優しい顔をして席へと案内してくれる。
(目が腫れているかな・・・?)
いや、サングラスだったわ。私。
さっき恥ずかしいからって、サングラスを付け直したんだった。
店内でもサングラスをかけているなんて、トップアイドルを気取っている女の子だと思えば、少し気になるか。
窓際の席を案内されたけれど、遠慮する。
私の欲しいのは美味しい食事じゃない。
終わりに相応しい言葉だ。
私は店員さんにショータとマリコの近くの席を依頼すると、店員さんは笑顔で対応してくれた。私は席に着く。
植木を挟んだ向こう側には私の彼氏と私の親友がいる。
追跡を始めてから1時間と少し。
一番ショータに近づいた。
しかし、私とショータの距離は・・・出会ってから一番遠いかもしれない。
「・・・でね、この頃なんか、アオイの奴。こーんな顔をして怒ってんのっ」
「ははっ、ウケる」
(私をダシにして盛り上がるわけか・・・)
私には怒りはない。
「ご注文は?」
「カプチーノで」
「カプチーノ一つでよろしいですか?」
私が頷くと店員さんは頭を下げてキッチンへ向かう。
私は再び二人の会話に耳を傾ける。
「んで、エステはちゃんと行ってきたの?」
「あぁ、モッチモチだぜ」
「どれどれ・・・うわ、ほんとだ。こいつめ~、女の私よりもキレイになるなんてゆるせねー」
「よぉ、よぉめてくれぇ」
マリコがほっぺを弄っているのだろうか、ショータの変な声が聞こえてくる。
「お待たせしました、カプチーノです」
店員さんがすーっとカプチーノを出してくれる。
「伝票置いておきますね」
そう言って一礼した店員さんに私は軽く会釈をしてカプチーノの香りを嗅ぐ。
いつもなら心が穏やかになる香りだけれど、ちっとも今は心は反応しない。
「んで、アオイは気づいてた?」
「んー、気づいてないんじゃないかな・・・」
「はははっ。鈍感だからねあの子。ヒョン様以外アウトオブ眼中って感じだから」
興味津々に聞くマリコの言葉にだるそうに答えるショータ。
(マリコ・・・)
いつも一緒にいたマリコ。
信頼していたマリコ。
マリコ、マリコ、マリコ、マリコ―――っ!!
再び怒りに包んで悲しみを忘れようとするけれど、どうやら駄目らしい。
私の心は何を感じるのも嫌になってしまったようだ。
「俺・・・勝てっかな?」
「んーーー、難しいかもね」
何の話だ?
「結局努力しても、韓流スターになんか・・・」
「いやいや、弱気になんなよ、ショタ君。君は君で十分素敵だから」
「だから、ショタじゃないですって」
「あっ、そうだったね。ごめんごめん」
私は息を吐いて吸う。
少し世界が明るくなった気がした。
「でも、そのうち。ショタ君が一番になれるよ。あの子も馬鹿は馬鹿だけどちゃんとわかってるって」
「俺、頑張る。もっとカッコよくなってちゃんとアオイに俺が一番好きって言わせたい」
トックンッ
心臓の鼓動と共に感情が花開くように目を覚ましだす。
心は頭にあるんじゃない、心臓にあったんだ。
「でも・・・アオイは今日も元気にライブっと」
「マリコさん、俺をイジメるの楽しいですか?」
「もちっ!」
マリコの元気な声が聞こえた。
「でも、負けません、俺。俺が好きって聞かなくても、好きってアオイが甘えてくるような男になる」
私ってなんて馬鹿なんだろう。
ショータに甘えて、韓流スターにずーっと、ずーっと熱を上げて。
ショータが着いてくるのが当たり前だと思って、ちゃんと言うべきことも言えなくって・・・。
「今日もお向けに行くの?」
「もちろんです」
「さすが―――」
私はカプチーノを飲み干して、レシートを持ってレジへ向かう。
「お客様・・・大丈夫ですか」
レジの店員さんが私を心配している。
「はい、大丈夫です。今元気になりました」
私はサングラスをしながら涙を流していた。
けれど、涙は拭かなかった。
だって、胸を張っていたいと思ったから。
「一人です」
店員のお兄さんは私の顔を見て何かに気づいたようだが、優しい顔をして席へと案内してくれる。
(目が腫れているかな・・・?)
いや、サングラスだったわ。私。
さっき恥ずかしいからって、サングラスを付け直したんだった。
店内でもサングラスをかけているなんて、トップアイドルを気取っている女の子だと思えば、少し気になるか。
窓際の席を案内されたけれど、遠慮する。
私の欲しいのは美味しい食事じゃない。
終わりに相応しい言葉だ。
私は店員さんにショータとマリコの近くの席を依頼すると、店員さんは笑顔で対応してくれた。私は席に着く。
植木を挟んだ向こう側には私の彼氏と私の親友がいる。
追跡を始めてから1時間と少し。
一番ショータに近づいた。
しかし、私とショータの距離は・・・出会ってから一番遠いかもしれない。
「・・・でね、この頃なんか、アオイの奴。こーんな顔をして怒ってんのっ」
「ははっ、ウケる」
(私をダシにして盛り上がるわけか・・・)
私には怒りはない。
「ご注文は?」
「カプチーノで」
「カプチーノ一つでよろしいですか?」
私が頷くと店員さんは頭を下げてキッチンへ向かう。
私は再び二人の会話に耳を傾ける。
「んで、エステはちゃんと行ってきたの?」
「あぁ、モッチモチだぜ」
「どれどれ・・・うわ、ほんとだ。こいつめ~、女の私よりもキレイになるなんてゆるせねー」
「よぉ、よぉめてくれぇ」
マリコがほっぺを弄っているのだろうか、ショータの変な声が聞こえてくる。
「お待たせしました、カプチーノです」
店員さんがすーっとカプチーノを出してくれる。
「伝票置いておきますね」
そう言って一礼した店員さんに私は軽く会釈をしてカプチーノの香りを嗅ぐ。
いつもなら心が穏やかになる香りだけれど、ちっとも今は心は反応しない。
「んで、アオイは気づいてた?」
「んー、気づいてないんじゃないかな・・・」
「はははっ。鈍感だからねあの子。ヒョン様以外アウトオブ眼中って感じだから」
興味津々に聞くマリコの言葉にだるそうに答えるショータ。
(マリコ・・・)
いつも一緒にいたマリコ。
信頼していたマリコ。
マリコ、マリコ、マリコ、マリコ―――っ!!
再び怒りに包んで悲しみを忘れようとするけれど、どうやら駄目らしい。
私の心は何を感じるのも嫌になってしまったようだ。
「俺・・・勝てっかな?」
「んーーー、難しいかもね」
何の話だ?
「結局努力しても、韓流スターになんか・・・」
「いやいや、弱気になんなよ、ショタ君。君は君で十分素敵だから」
「だから、ショタじゃないですって」
「あっ、そうだったね。ごめんごめん」
私は息を吐いて吸う。
少し世界が明るくなった気がした。
「でも、そのうち。ショタ君が一番になれるよ。あの子も馬鹿は馬鹿だけどちゃんとわかってるって」
「俺、頑張る。もっとカッコよくなってちゃんとアオイに俺が一番好きって言わせたい」
トックンッ
心臓の鼓動と共に感情が花開くように目を覚ましだす。
心は頭にあるんじゃない、心臓にあったんだ。
「でも・・・アオイは今日も元気にライブっと」
「マリコさん、俺をイジメるの楽しいですか?」
「もちっ!」
マリコの元気な声が聞こえた。
「でも、負けません、俺。俺が好きって聞かなくても、好きってアオイが甘えてくるような男になる」
私ってなんて馬鹿なんだろう。
ショータに甘えて、韓流スターにずーっと、ずーっと熱を上げて。
ショータが着いてくるのが当たり前だと思って、ちゃんと言うべきことも言えなくって・・・。
「今日もお向けに行くの?」
「もちろんです」
「さすが―――」
私はカプチーノを飲み干して、レシートを持ってレジへ向かう。
「お客様・・・大丈夫ですか」
レジの店員さんが私を心配している。
「はい、大丈夫です。今元気になりました」
私はサングラスをしながら涙を流していた。
けれど、涙は拭かなかった。
だって、胸を張っていたいと思ったから。
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