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「1つよろしいですか?」

 私の挨拶が終わると1人の少年が挙手した。歳は私よりも若そうで、身長も私と同じ。黒いスーツを着こなしたスリムな体型に整った銀髪。清潔感があり顔立ちも良い彼は真っ直ぐな瞳で私を見ていた。

「今までの説明ですと、我々は自分のやり方で行うことになります。ただ、そうなると統一感がありません。例えば、庭師の方々。バロワーク様式なのかロマック様式なのか。シェフで行けば、料理はオリエンタル風がいいのか、アイランド風がいいのか。今のままではわかりませんよ?」

「あっ、それは大丈夫です。ちゃんと用意したので」

「用意・・・?」

 私は用意していたマニュアル書を彼に見せる。

「ここに、王家直伝のマニュアルを用意しました。これをご覧いただければ、キリル様の求める水準が分かると思います」

「はっ、王家の物を勝手に持ち出すなんてっ」

「あぁ、自前です」

「はっ?」

「私が王家で聞いたり見たりしたことを思い出しながら書いたものです。私、メイドだったので、メイドのことはほぼ完璧に書いてあると思うですけれど、他のことは書ききれていないこともあります。なので、私に確認をとっていただければ、その都度お答えさせていただきます」

「そんな、こんな短期間で・・・・・・」

「短期間・・・?」

 なんで、この使用人はキリル様と私がこちらに来てから募集を掛けるまで短期間だと知っているのだろう。

(王家からのスパイ・・・・・・?)

「むむむむむっ」

「いや、なんだよ・・・・・・」

 私が睨むと少年は少したじろいだ。

「ケビンっ。もう分かっただろ? 彼女はこういう女性だ」

 キリル様が仲介に入ってくださった。

「メリッサもいつもありがとう。ボクも読ませてもらってもいいかい?」

「はい、もちろんです」

 私は一冊キリル様にお渡しした。
 キリル様は丁寧にページをめくりながらマニュアル書を読んでくださった。

「こんなに薄いのに、要点が分かりやすく書いてあるね」

「はい。注意書きにも書いてあるのですが、これは入門編です。覚えることがたくさんあるかと思いますので、とりあえず、お伝えしたいことをまとめました」

「いやそれでも、凄いよ。ありがとう」

 ニコッとするキリル様。
 お褒めいただいただけでもやった甲斐があった。

「じゃあ、みんな、よろしく頼む。キミたちの働きの成果が商いにも直結していると考えている。以上だ」

 キリル様の言葉に、私も含めみんながその言葉を真摯に聞き入り、深々と頭を下げた。
 解散すると、先ほどケビンがキリル様のところにやって来て何かを話し始めた。何の話なのか、二人の関係は深そうだけれどどういった関係なのか気になったので、失礼ながら、聞き耳を立てようかと思ったら、

「メリッサさまっ!!」

 先ほど、元気に返事をしてくれた女の子が声を掛けに来てくれた。
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