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「ごめんね、アリス」

 私は両手を合わせて親友でありライバルのメイド、アリスに謝る。

「いいわよ別に」

 明日もいつも通り、朝が早いにも関わらず、夜中にアリスは私の持ち場に応援に来てくれて、三つ編みの赤毛をゆらしながら一緒にモップをかけてくれていた。

「でも、珍しいじゃない。風邪でも引いた?」

「いいえ、体調管理を怠るなんてそんなの・・・」

「あーはいはい、メイド失格って言いたいんでしょ?」

 そう言って、掃除の手を休め両耳を塞ぐアリス。

「でも、午後のアナタはなんだかいつも別人だったわ。メイド長も心配していたわよ? 何かあったの?」

 メイドの多くはアリスのように噂が好きだ。私はそういうのは嫌いだけれど、手伝ってもらっている手前話すしかないと諦めた。

「私、プロポーズされたの」

「ええっ!?」

「しーーーっ」

 夜中にも関わらず、アリスが大声を出したので、注意すると、アリスも「ごめん、ごめん」と言って自分で口を塞いだ。

「誰からよ?」

「アーノルド様」

「えっ・・・むぐっ」

 小声になったアリスがもう一度叫びそうになったので、今度は私が手で彼女の口を塞いだ。そうすると、「叫ばないから」と言う目で私にアリスが訴えてきたので、私は手をゆっくりと放した。

「凄いじゃない? 第何の側室よ」

 そうか。
 側室という可能性を忘れていた。
 やっぱり、私は恋愛に関しては知識が欠如していることを痛感した。

(じゃあ、私も・・・・・・アーノルド様とキリル様を・・・・・・って、それは無理か)

 私は女。
 そして、メイド。

 どんなに暴君と言われた女王だって側室を持ったなんて話や文献はないし、メイドの身分で二人の男性と結婚するなんて法律も許していない。

(でも、もしかしたら、文献には残していないけど、何人かの男性を飼っていた女王なら・・・・・・一番暴君だった女王は・・・・・・)

「ねぇ、聞いているの?」

「あぁ、ごめんなさい。まったく、聞いていなかったわ」

 私が事実を伝えると、アリスは頭を抱える。

「はぁ・・・・・・なんで、こんな子にアーノルド様は・・・・・・」

「アリスは、アーノルド様を好きだったの?」

「違うわよっ! でも、アーノルド様と結婚すれば、こんな過酷な労働をしなくても、遊んで暮らせるじゃない」

「はあ・・・・・・?」

「はあ・・・・・・? じゃないわよ。間抜けな顔をして。アナタだってそう思うでしょ」

「まったく。だって、私メイドの仕事好きだもの」

 そして、メイド長になる女だ、私は。

 





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