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竜司と子猫の長い一日
僕の『理想』のデートを竜司さんが叶えてくれた件
しおりを挟む「映画にでも行くか?」
って、突然の提案をされた。
何故映画。
竜司さんが観たいものがるのかと思ったけど、そういうことでもないらしい。
「興味ないなら別にいいよ。僕もそんなに映画とか見ないし」
「そうなのか?」
「うん。あんまデートとかしたことな、い、し……」
無意識に言葉に出してわかった。
そっか。
僕、そう感じてたんだ。
竜司さんが優しくて、僕と手を繋いでくれて、一緒に買物をして、お揃いのものを買って身につけて、ケーキを食べさせ合って。
顔の距離も近くて、顔を上げてすぐ飛び込んで来るのは僕に向けられた笑顔で。
僕の、理想だった。
最初に行ったお店はあれだったけど、そこだって竜司さんが僕のことを信用して連れて行ってくれたように思えるし。
ただ、憧れてた。
どこか特別な場所に行かなくても、ぶらぶらと街を歩いて目についたものを寄り添いながら見て。
竜司さんが行きたいところ。
僕が見たいもの。
お互いのやりたいことを盛り込んで、計画性はないけどただただ、ぶらぶらと、二人並んで、手を繋いで。
僕が、したかったこと。
ドライブに行こうと言われて乗り込んだ車の中で裸にされて縛られたり、ゲイバレするから手なんか繋がないって拒否されたり、隣じゃなくて後ろを歩いてって命令されたり、男二人で映画なんて行けないって言われたり。
これがデートなのかな、って疑問に思ったのに、彼がすることだから間違い無いんだって思い込んで。
そもそも、ほぼ一週間続かない相手ばっかりだったから、外に出かけるなんて片手で足りるくらいしかなかったけど。
……そうだ。ほとんど部屋で過ごした。ほとんど裸で、舐めたり挿れられたり、セックスばっかり。
樋山君とは一ヶ月続いたから、元彼たちよりは出かけたりもした。何したっけ。…彼が行きたいお店に行って、彼が欲しい物を見て、彼が食べたいものを食べて。
手は繋がなかった。
外で僕に触れることはなかった。
人混みの中でもそうだったから、はぐれたこともあった。
樋山君のことが好きだと思っていたから、セックスだけじゃなくてお出かけしてくれるのが嬉しかったし、彼の行きたいところに行くのが正しいことだと思ってた。
……でも、やっぱり、堂々と手を繋いで歩く恋人たちが羨ましくて。カフェで笑いながら食べさせ合ってる姿が羨ましくて。
だから、きっと、このまま関係が続いたら、そういうデートが出来るんだ……って、何故か思ったりもしてた。
ま、そんなの、結局なかったけど。
僕の理想。
僕がしたかったデート。
それを、竜司さんが与えてくれた。
僕は何も言わなかったのに。
けど、竜司さんにしたら、それが普通なのかもしれない。今まで抱いた子たちにも、同じことをしてたのかもしれない。
勘違いしないように、って自分に言い聞かせていたのに、竜司さんが相手だとどうにも自分の感情がコントロールできてなくて困る。
そんなつもりない竜司さんに、図々しいやつって思われたくない。出てしまった言葉はもう取り返しがつかないけれど、誤魔化すことはできる。
「えと、あの、なんかはしゃいでて、ごめんなさい……」
離したくなかったけど、腕から手を離した。
「のぞみ?」
竜司さんの、怪訝そうな声。
「ただの買い物なのに、楽しくて甘えちゃってた」
悟られないように、精一杯の笑顔になるように。
竜司さんに呆れられるのがすごく嫌だ。
面倒なやつって思われたくない。
半歩分くらい体も距離を取ろうとしたら、竜司さんが思い切り僕の手を掴んできて、心臓が飛び跳ねた。
「デートだろ」
「え」
いきなりでてきた言葉に、僕はそれ以上言葉が出てこない。
「いちゃいちゃして、買い物して、肩を寄り添わせながら歩いて、揃いのものをつけて、喫茶店で食べさせ合って。のぞみもデートだなって感じたんだろ?俺はそもそもそのつもりだし。デートってことでいいだろ」
竜司さんが、真剣な顔で言う。
そのつもりだったって。
「デート……」
ふつふつと、思いが込み上げてくる。
嬉しい。
嬉しい。
僕が欲しかった理想のデートを、竜司さんが実現してくれた。
僕の、初めての、ちゃんとしたデート。
竜司さんの大きな手を握り返した。
嬉しすぎて心臓が爆発しそう。
「竜司さん」
「ん?」
「……他の子ともデート、するんでしょ?」
「あ?」
する、って言われてもいい。
だって今は僕のための時間だから。
「しねぇよ。面倒くさい」
「え」
意外な答え。
眉間にしわまで寄せて、不機嫌そうな顔になってる。
「のぞみとしかしない。……学生の頃には何度かしたけどな。他の誰かと出かけたって楽しくないだろ」
「僕、だけなの?」
「そう。なんか不満?」
「……ううん」
「のぞみ、行きたいとこある?」
僕の頭の中は軽くパニック。
また、『僕だけ』って言われた。
え、なに。
本当に、デートって思っていいの?
「のぞみ?」
「あ、うん」
頭の中の整理がつかなくて呆然としてた気がする。
そしたら竜司さんが、僕の顔を覗きこんできた。
……唇が、触れそうな距離まで。
「デートの続き。しない?」
まっすぐ、まっすぐ、僕を見る目。
握ってた手が持ち上げられて、指先にちゅってキスをされた。
「する」
……竜司さん、僕ね、心臓が破裂しそうだよ。
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