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本編

友兄が俺に「愛してる」って……!!

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 仕切り直し……と言わんばかりに、小さく「おはよう」と口にした友兄は、指を唇から顎の下に這わせ、顔がくいっと上向きになるよう固定した。
 重なる唇。
 柔らかくて、温かくて、心地のいいキス。
 昨夜の、体中が反応してやばくなるようなキスではなくて、重なって、気持ちを伝えるだけの優しいキスだった。
 …『恋人とむかえる初めて朝』っていうには、ちょっと色気に欠けてるような気がしなくもない。昨夜はキスしかしていないし、……や、けっして「それ」を期待していたとか、そういうわけじゃない、けど。
 友兄に起こしてもらって、おそらく準備の整っているだろう朝食を一緒に食べて、朝の一時を大好きな友兄と過ごせるなら、それはやっぱり『特別な朝』かも。

「……何か考えてる?」

 唇を離した後、両手で頬を挟まれた。覗きこんできた目は、綺麗な光を放っている。

「……友兄が」
「うん」
「格好いいな、って」

 素直に言葉にすると、友兄は嬉しそうに笑う。

「ありがとう。嬉しいよ」

 友兄にもう一度キスをされた。

「それじゃ、朝食にしよう」
「うん」




 満足な朝食を平らげて、八時少し前に家を出た。
 もうすぐ学校に到着する車の中で、そういえば結局ほとんど話しができなかったことを思い出した。

「友兄、あのさ」
「お見合いのこと?」
「…うん」
「ちゃんと断るから、理玖は何も心配しなくていいんだよ?」
「……うん。それは…わかってるつもりなんだけど」

 そうは言われてもやっぱり不安が残る。
 大丈夫なんだって自分に言い聞かせても、こればかりはどうしようもない。

「……恋人が、自分以外の人と『お見合い』するんだから、いつも通りにするなんて無理だよ……」

 どうしたって拭えない不安が付きまとう。
 この人は、俺だけの大事な人なのに、どうして他の人とこんなことさせなきゃならないんだろう。

「理玖」

 俺の不安を余所に、友兄の声はどこか弾んでいた。

「理玖からそんな嬉しい言葉が聞けるとは思ってなかった」
「なんで?」
「理玖が本当に俺のことを好きなんだなって実感できるから。……恋人の独占欲がこんなに嬉しく感じるとは思ってなかった」

 人が折角真面目に話してるというのに。
 うだうだ考えてる俺がなんか情けなく感じる。

「……友兄の馬鹿」
「心外なんだけど。……こんなに理玖のことを愛してるのに」
「あい……!?」

 さらりと言われてしまった台詞。
 びっくりというか、どぎまぎしつつ友兄の顔を見たら、車が止まった。

「ついたよ、理玖」

 笑う友兄は、どこか意地悪そう……というか。
 気付けば確かに校門前だった。
 何かをはぐらかされたような気がして尖った口元を意識しつつ車を降りると、続いて友兄も降りてきた。

「理玖、今日は部活?」
「……雨が降らなければあると思うけど」
「それなら雨が降ったら昨日と同じ時間で、雨が降らなかったら六時くらいに迎えにくるから」
「……ほんと?」
「嘘は言わないよ」
「……わかった」
「それじゃ、いってらっしゃい」

 ごくごく自然に頬にキスをされた。

「うん、行ってきます」

 ひらひらと手を振って、人の流れに乗って校舎にむかった。




 習慣とは恐ろしい。友兄から頬にキスをされて、すごく平然と受け止めてしまった。
 ついでに、「衆人環視」という言葉を改めて認識することになる。


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