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本編

友兄の家に行く

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 走り始めてすぐ、友兄は俺の手を握ってきた。
 その手が意外と力強くてドキリとする。

「土曜日のことは、気にしなくていいんだよ」

 そう切り出されたコトに、また胸がチクリと痛む。

「俺は受けるつもりはなかったんだし」
「……でも、相手の人が友兄を気に入ったら……?」
「関係ないよ。俺が必要としているのは理玖だけで、他の誰でもないんだから」

 その言葉は嬉しかった。
 けど、言いようのない不安が胸の中にとぐろを巻いている感じがして落ち着かない。
 その後は無言になった。
 ただ、握られた手が離されることはなく、友兄と繋がっているその場所だけが酷く熱かった。






 二回目になる友兄の部屋は、何も変わっていなかった。
 とりあえず適当に荷物を置いて、促されるままにソファに座る。キッチンに向かった友兄はすぐに戻ってきて、甘い香りのするカップを俺に渡してくれた。

「どうぞ」
「ありがとう」

 温かいココアを一口飲む。温かくて甘いものは、どうしてこんなに気持ちを落ち着かせるんだろう。

「ここなら誰にも聞かれる心配はないし、何を言っても大丈夫だから」
「………うん」
「言いたいこと、あるんでしょ?」
「…言いたいこと…」

 沢山ある。
 俺のことだけ見ていてほしいとか、どこにも行かないでほしいとか、俺だけを呼んでほしいとか、もっとキスをしてほしいとか、抱き締めてほしいとか、……お見合いなんて行かないでほしい……とか。
 けど、言葉に詰まってしまった。
 呆れられたらどうしよう。
 我儘だって言われたらどうしよう。
 もし、否定されたら……。

「理玖」
「っ」

 責めるでもなく、諌めるでもない柔らかい声。
 考えがぐるぐるしてしまって、結局何も言えてない俺を、友兄は片腕で抱き締めてくれた。

「理玖が何を言っても、怒ったり呆れたりしないよ?」
「……でも」
「無理に聞きだすようなことはしないけど。…まずはそれを飲んで」
「……うん」
「それからお風呂に入ろう。気持ちも体もほぐれるから」
「…わかった」

 友兄は俺の額に音をたててキスをした。
 それから、いつの間に飲み終わったのか、自分のカップを持ってキッチンにむかって、そのまま別の部屋に行ってしまう。
 その部屋からはすぐにシャワーを出す音がして、そこが浴室だってことに気付いた。
 とりあえず、飲んでしまおう。
 まだ八時前。
 浴室のドアを見ながら、ぼーっと考えていた。……一緒に入るのかな、とか。

「……一緒?」

 言葉にしたら急に恥ずかしさが込み上げてくる。
 多分、こうなる前だったら普通に入ってたと思う。けど、今は自分の気持ちを自覚してしまったし、友兄からは、キス…以上のこともしたいって言われてる。そんな状況で友兄と一緒にお風呂に入るっていうのは……。

「……………無理だぁ…」

 思わず項垂れていたとき、友兄が戻ってきた。


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