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本編

友兄のお迎え

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 昼間では晴天だったのに、午後の授業が終わる頃になって雨が降り始めた。
 空もどんどん暗くなって、すぐに本降りになる。
 この分じゃ部活は今日中止だな…って思っていたところに、案の定、中止の連絡が入った。
 傘は持ってきていないし、自転車はそのままだし、この雨の中濡れて帰るのはちょっとやだな。
 鬱々と教室の窓から外を眺めていたら、ポケットに入れてたスマホが揺れた。
 通知を確認したら友兄からで、『今すぐ迎えに行くからね』っていう一言だけ。
 つい、口元が緩んでいた。
 鞄を持って玄関に急ぐ。
 丁度下校時間だから、帰宅する生徒も多くて玄関は結構混雑していた。
 そこで邪魔にならないように十分くらい待っていたら、また通知が。
 それを確認して、玄関を出て雨にあたらないぎりぎりのところまで出る。
 薄暗い雨の中、校門の方から生徒に逆行して来る人影が見えた。
 途端、俺の周りが騒がしくなる。
 すれ違う女子生徒はほぼ全員が振りかえってその姿を見ていた。
 雨の中でも格好いいと思う。見惚れる。それは間違いない。

「理玖」

 俺に向かって微笑まれる顔。はぁ……ドキドキするっ。

「友兄」

 もっと近くまで行くと、もう一本の傘を渡された。
 周りの視線が集まってるのはわかるけど、あまり気にならない。友兄は自慢の兄ちゃんだし。俺だけの恋人だし。

「自転車どうしようか」
「あー……」

 できれば持ち帰りたい。
 明日の登校が面倒になるし。
 俺が悩んだのがわかったのか、友兄は俺の頭を一度撫でると、とびきりの笑顔を向けてくれて、車の鍵を手渡してくれる。

「俺が取ってくるから、理玖は先に行って待ってて?」
「え」

 友兄がすぐに自転車置き場の方に足を向けようとしたから、その腕をつかんで引き止めてた。

「自転車はいいから、行こ?」
「そう?」

 自転車を押しながら傘をさすとかあまり楽なことじゃないし、車に積むときだって友兄が雨に濡れてしまう。…だったら、自転車は置いていっていい。友兄が濡れて風邪なんてひいたら……悲しくなる。
 友兄は笑って頷くと、俺の手から鞄をあっさりと奪っていった。
 …滅茶苦茶視線が集まっている中でのこの甘やかされっぷり。………ちょっと、気持ちがいい。
 傘をさしているから、肩を並べて…ってわけにはいかないけれど、できるだけ傍に寄って歩き始める。
 背後で女子生徒の間からきゃあきゃあっていう黄色い悲鳴が聞こえてきたけれど、無視。
 歩きながら友兄を見上げると、友兄も俺の視線に気づいたのか、優しい目を向けてくれる。
 この目が見るのは俺だけだから。
 誰も近づけたりしないんだから。


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