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本編

友兄に会いたくないと思ってしまった

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「おはよう……って、またすごい顔してるね、理玖」
「んなに酷い顔してる?」
「うん。昨日の幸せモード全開の顔から、今日は奈落の底に突き落とされたような顔してる」

 翌日。
 いつも通りに起きて、いつも通りに登校してきて、いつも通りに颯と挨拶を交わしたのだけど、昨夜のダメージはやっぱり顔に出てるらしい。
 そういえば、母さんも何か変な顔していたし。

「…はぁ」

 出てくるのはため息ばかりだった。

「何かあったのかい?」
「何もないって言えば何もないけど、何かあったと言えばあった」
「…理玖、それじゃ全然わからないよ…」

 だろうな。
 俺だって頭の中ごちゃごちゃで、何をどうしたらいいかわからないんだから。

「もしかして、お兄さんと何かあった?」
「………あったっていうか………」
「兄弟喧嘩?随分珍しいけど」
「喧嘩はしてないよ、多分」

 喧嘩になんて、ならない。
 というか、喧嘩をしたことがない。

「……『小さな子供じゃないんだから、聞き分けろ』って言われた」

 言った声は酷く小さかった。
 それでも颯にははっきり聞こえたようで、随分驚いた顔をしていた。

「…もしかして、昨日の吉川さんの件で言われたのかい?」
「違う。そっちは、それでいいって言われた」
「それじゃ…」
「友兄のとこに行きたいって言ったら、…そう言われて」

 ……言葉にしたらまた落ち込んできた。
 颯はようやく「わかった」って顔で頷く。

「……前はよく遊びに連れて行ってくれたのにさ……、最近は休みの日になると大学のサークル活動だ、とか、色々理由つけてでかけてくれないし、部屋に遊びに行きたいって言ってもいいよって言ってくれないし…」
「だから、そんな倦怠期の恋人同士のようなことを……」

 颯のため息交じりのあきれた声。

「お兄さんだってもう大人なんだし、色々付き合いがあるってことじゃないの?就活だってはじめないとならない時期だろうしさ」
「…………そう、だけど…」

 颯の言っていることはものすごく正しいってわかってる。
 けど、頭で理解していてもすぐ納得できるものじゃない。
 俺が高校生になってから、友兄の態度が変わったんだよな。どこかよそよそしくて、一線引かれてるような。
 友兄が、すごく遠く感じる。
 ……今日、来る…って、言ってたけど。
 どうしよう。

 ――――会いたく、ない。

「………っ」
「理玖?」

 教室の中で、こんなことみっともないと思いつつも、止められなかった。
 流れてしまった涙は少しだけだったけど。

「…理玖…」

 慰めるように頭をなでていった颯の手。
 それがなんだか、すごく優しく感じた。



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