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本編
友兄に会いたいことは用事に入る
しおりを挟む「お疲れ様でした!」
三年の引退まであと少し。
こんなふうに目一杯体を動かすことも、夏休みからはないのか……と、ちょっと感慨深い。今からしみじみしてても駄目なんだけど。
それにしてもやっぱり夏だよね。
最中もだけど、終わった途端汗がだらだら流れてくる。
「矢坂、帰りどっか寄って行かない?」
部室で着替えながら同級生の部活仲間が誘ってくれた。
でも頭の中には友兄のことばかりがちらついていて、他を考える余裕はなさそうだった。
「ごめん、今日用事あるからまた今度な」
「ああ、そっか。悪い。じゃあ、また今度誘うよ」
嫌味とかではなく、本心から「悪い」と思ってくれているのがわかるから、余計になんだか申し訳なくなる。
「いや……うん、次はちゃんと行くからさ」
「りょーかい」
そいつは笑って頷いて、それを確認してから着替え再開。
さて…用事があるとは言ったけど、用事らしい用事はないのが現実。時間は、五時すぎ。この時間なら友兄はもうフリーになってるかもしれない。どう、しようかな。
『お兄さんが理玖のこと抱きたいって思ってるってことだよ』
颯の言葉がずっとぐるぐる回ってる。
…別に、期待してる、とか、そういうんじゃないけど……、気になる、というか、直接聞きたいっていうか……。
「じゃ、お先!」
うだうだ考えるのはやめたんだから、単刀直入でいこう。
鞄とスポーツバッグを持ってダッシュで部室を出る。
自転車置き場に早足でむかう途中で、連絡くらいいれておこうかと携帯を取り出したのだけど。
「うわっ」
かけようとした瞬間に電話が鳴るとかなり心臓に悪い。
しかも、なんて言うタイミング。
表示された『友兄』に、大急ぎで通話ボタンを押した。
「……もしもし」
『部活、終わった?』
電話口の、ちょっといつもと違う声。
「終わったよ。これから帰るとこ。友兄は?」
『俺も後は帰宅するだけなんだけど……、どうせなら一緒に帰ろうかと思って』
「へ?」
『校門のところにいるから、自転車持って早く出ておいで、理玖』
ぷつっと切れた電話。
…なんてことだろう。
「い、急がなきゃ……っ!!」
いや別に急ぐ必要はないと思う。
友兄は多少遅くなっても待っていてくれるだろうし。
急ぐ必要があるとすれば、それは、俺が早く友兄に逢いたいだけで。
逢いたくて、仕方なくて。
「か、鍵っ」
人間、慌てると普段できることもできなくなるって本当かもしれない。
急ぎたいのに、鍵が出てこない。ようやく出てきた鍵を穴に突っ込むけど、どこかでひっかかっているのか鍵が解けない。
「~~~っ、だからっ!!」
一人悪態をついて、壊しそうな勢いで鍵を外し、大急ぎで校門にむかった。
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