上 下
26 / 89
本編

友兄に会いたいことは用事に入る

しおりを挟む



「お疲れ様でした!」

 三年の引退まであと少し。
 こんなふうに目一杯体を動かすことも、夏休みからはないのか……と、ちょっと感慨深い。今からしみじみしてても駄目なんだけど。
 それにしてもやっぱり夏だよね。
 最中もだけど、終わった途端汗がだらだら流れてくる。

「矢坂、帰りどっか寄って行かない?」

 部室で着替えながら同級生の部活仲間が誘ってくれた。
 でも頭の中には友兄のことばかりがちらついていて、他を考える余裕はなさそうだった。

「ごめん、今日用事あるからまた今度な」
「ああ、そっか。悪い。じゃあ、また今度誘うよ」

 嫌味とかではなく、本心から「悪い」と思ってくれているのがわかるから、余計になんだか申し訳なくなる。

「いや……うん、次はちゃんと行くからさ」
「りょーかい」

 そいつは笑って頷いて、それを確認してから着替え再開。
 さて…用事があるとは言ったけど、用事らしい用事はないのが現実。時間は、五時すぎ。この時間なら友兄はもうフリーになってるかもしれない。どう、しようかな。

『お兄さんが理玖のこと抱きたいって思ってるってことだよ』

 颯の言葉がずっとぐるぐる回ってる。
 …別に、期待してる、とか、そういうんじゃないけど……、気になる、というか、直接聞きたいっていうか……。

「じゃ、お先!」

 うだうだ考えるのはやめたんだから、単刀直入でいこう。
 鞄とスポーツバッグを持ってダッシュで部室を出る。
 自転車置き場に早足でむかう途中で、連絡くらいいれておこうかと携帯を取り出したのだけど。

「うわっ」

 かけようとした瞬間に電話が鳴るとかなり心臓に悪い。
 しかも、なんて言うタイミング。
 表示された『友兄』に、大急ぎで通話ボタンを押した。

「……もしもし」
『部活、終わった?』

 電話口の、ちょっといつもと違う声。

「終わったよ。これから帰るとこ。友兄は?」
『俺も後は帰宅するだけなんだけど……、どうせなら一緒に帰ろうかと思って』
「へ?」
『校門のところにいるから、自転車持って早く出ておいで、理玖』

 ぷつっと切れた電話。
 …なんてことだろう。

「い、急がなきゃ……っ!!」

 いや別に急ぐ必要はないと思う。
 友兄は多少遅くなっても待っていてくれるだろうし。
 急ぐ必要があるとすれば、それは、俺が早く友兄に逢いたいだけで。
 逢いたくて、仕方なくて。

「か、鍵っ」

 人間、慌てると普段できることもできなくなるって本当かもしれない。
 急ぎたいのに、鍵が出てこない。ようやく出てきた鍵を穴に突っ込むけど、どこかでひっかかっているのか鍵が解けない。

「~~~っ、だからっ!!」

 一人悪態をついて、壊しそうな勢いで鍵を外し、大急ぎで校門にむかった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!

ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて 素の性格がリスナー全員にバレてしまう しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて… ■ □ ■ 歌い手配信者(中身は腹黒) × 晒し系配信者(中身は不憫系男子) 保険でR15付けてます

処理中です...