上 下
17 / 89
本編

友兄の視線に胸が締め付けられる

しおりを挟む



「理玖」
「ん…」

 額に、冷たい手があたる。
 それからすぐ、冷たい……冷たすぎるやつが貼られた。

「うひゃっ」
「暴れない」

 友兄は俺の額に冷却シートを貼ると、薄い肌掛けをかけてくれた。
 ……やさしい。
 やっぱり、やさしい。

「今飲み物を準備してくるから」
「うん…」

 ……肌掛けからも、友兄の匂いがする。
 かなり大きなもので、体がすっぽり包まれてしまうから、なんか、友兄に抱きしめられてるみたいで、すごく……嬉しい。

 それから、初めて入った友兄の部屋の中をキョロキョロ見てしまった。
 結構贅沢な部類に入るんじゃないかと思う間取り。
 居間にはテレビとソファと小さな書棚が置いてあって、書棚の上に……伏せた写真立てがあった。

「珍しいものでもあった?」

 キッチンから戻ってきた友兄の手には、マグカップと、氷の入ったグラスが一つずつ。

「……初めてだから」

 起き上がって、差し出されたグラスを受け取ってグビグビ飲み干してしまった。氷が入ってよく冷えたスポドリ。あー……沁みる。
 はー…って息をついたら、今度はマグカップを渡された。中身は、氷の浮いたココアで。

「小さいとき好きだったよね?」
「うん」

 今も好きだけど。
 というか、友兄が俺のために用意してくれるものは、全部、好き。
 両手でマグカップを持って飲んでいたら、友兄の大きな手が俺の頭をなでてきた。
 手元から顔をあげたら、友兄の優しい顔に会う。
 本当に、いつもの、優しい顔。

「友兄…」
「それを飲んだら送るから」
「え」
「外はもう暗いし…、母さんが心配する」
「友兄のところに来ること、ちゃんと連絡してある」
「理玖」
「俺……友兄とちゃんと話しがしたい」

 友兄がため息をついた。
 どうしよう。心がくじけそうだ。

「駄目」

 冷たい言葉に情けないが肩が震えた。

「さ、早く飲んで。急げば夕飯に間に合うだろうし」
「……友兄、やっぱり、俺のこと、邪魔、なんだ」
「理玖」
「さっきの女の人……………恋人、なんだよな。……俺、知らなくて……邪魔、した」
「違う」

 また、ため息。
 違うって、何が違うんだよ。
 あんなに親しそうに腕を絡めて、住んでるところに来るなんて、恋人以外ありえないじゃないか。

「彼女は恋人でもなんでない。……同じサークルメンバーってだけで」
「でもっ」
「彼女が勝手に押しかけて来ただけだから。…俺には恋人なんていないんだよ。もうずっと……想い続けてる人はいるけど」

 友兄は目を細めて俺を見る。
 その表情に…胸を締め付けられるような想いがした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!

ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて 素の性格がリスナー全員にバレてしまう しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて… ■ □ ■ 歌い手配信者(中身は腹黒) × 晒し系配信者(中身は不憫系男子) 保険でR15付けてます

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい

りまり
BL
 僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。  この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。  僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。  本当に僕にはもったいない人なんだ。  どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。  彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。  答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。  後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。

処理中です...