上 下
95 / 247
幼馴染み二人と僕の15歳の試練

2 15歳の朝

しおりを挟む



 起床の鐘だから、廊下を行く人は少ない。
 時々会う人に朝の挨拶をしながら礼拝堂に向かったら、神殿長さんと、現在神殿にいる中位、高位神官さんたちが勢ぞろいしてた。
 三の鐘のあとの勉強会や奉仕活動、儀式とか色々な場面で会った人ばかり。

「おはようございます。すみません。遅れましたか?」
「おはよう。遅くないよ。こちらへおいでラルフィン君」

 神殿長さんを皮切りに、皆さんからおはようと、返される。
 僕、何かしでかしたんだろうか。

「ラルフィン君、そこで祈りの姿勢を」
「はい」

 神殿長さんに促されて、彼の前で膝をつく。
 たったこれだけで、ざわついた心が落ち着いた。

 いつものように、目を閉じる。
 そしたら、頭に神殿長さんの手が置かれた。

「ラルフィン君――――ラルフィン、本日、秋の二の月、二十一の日。十五歳となった君に、中位の神官位を認めるものとする」

 あ、忘れてた。
 そっか。
 僕、今日が誕生日だ。
 今月の一の日に二人に会ったときに当日は会えないから、ってお祝いされてたのに。すっかり忘れてた。

 そして、誕生日以外に何か、重要なことを聞いた気がする。

「異義のある者は?」
「ありません」
「異議なし」
「歓迎します」

 ……っていう、神殿長さんの言葉の後に続く、他の神官さんたちからの言葉。

 ……ん?

「え、と……?」

 思わず目を開いて神殿長さんの方を見てしまった。そしたら、神殿長さんの苦笑と周りの人たちから笑い声。

「こんなに締まらない授位式は初めてだ」

 怒らせてしまったかも…と思ったけど、礼拝堂の中にはのんびりとした空気が漂っていて、僕の肩からは力が抜けた。

「ラルフィン、君は今日から中位神官として、その責務を果たすように」
「え」
「とは言え、不慣れなうちは誰かが君に付き添うから。あまり身構えず、今まで通り皆の心に寄り添えばいい」

 あまりのことに少し呆然としてた。
 僕、まだまだわからないことも多いのに。
 中位…ってことは、勉強会では、教わる方ではなくて教える方。奉仕活動でも、神殿内ばかりでなく、外に出ることも多くなる。……まあ、今までも同行してたし。

「あ……もしかして、外に出ることが多かったのは」

 そういえば、キリル君とか、他の見習いさんや下位の神官さんの姿は見なかった。いつも、中位、高位の方々と一緒で…。

「ラルフィン、一年前、君がここに来たときに、私は伝えたよね?君には既に中位神官としての力があると」
「はい……」
「けれど、何も知らない君にはまず色々と知ってもらわなければならない。それに、ここにいる神官たちにも、君の力を認めてもらわなければならない。…この一年で良く学んだね。君は間違いなく、女神様の愛子いとしごだ」

 僕は神殿長さんから、まわりに視線を移した。……確かに、みんな笑顔で、その裏もなさそうに感じる。嫌な人に会った時に感じる、黒いモヤっぽいものがなにもない。
 さっき神殿長さんの言葉に同意していた言葉は、本心からだとよくわかる。

 認められて、受け入れられた。
 僕のやってきたことは無駄じゃなかった。

 何かむず痒いような暖かな気持ちになって、僕はすっと目を閉じる。
 色々大混乱していた心の中はシン…っと静まり返った。
 優しい笑い声に包まれていた礼拝堂の中も、水を打ったように静かだ。

「僕の祈りが、女神さまの御力が、大勢の方に届くように尽力します。これからも女神さまの御手をお借りして、――――祈り、続けます」

 もしかしたら、受ける側としての正式な文言があったかもしれない。
 けど僕はそんなこと聞かされてないし、そもそも、今日こんなことになるなんて思ってもいなかった。
 だから、僕の言葉で。
 大切な、人のために祈り続けることを、宣誓の様に口にした。

 ふわりと光が舞う。
 それは、女神さまが、僕の言葉に喜んでくれているように見えた。


しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

物語なんかじゃない

mahiro
BL
あの日、俺は知った。 俺は彼等に良いように使われ、用が済んだら捨てられる存在であると。 それから数百年後。 俺は転生し、ひとり旅に出ていた。 あてもなくただ、村を点々とする毎日であったのだが、とある人物に遭遇しその日々が変わることとなり………?

星は五度、廻る

遠野まさみ
キャラ文芸
朱家の麗華は生まれ落ちた時に双子の妹だったことから忌子として市井に捨てられ、拾われた先の老師に星読みを習い、二人で薬売りの店をきりもりしていた。 ある日、捨てた筈の父から、翠の瞳が見たいという皇帝の許に赴くよう、指示される。 後宮では先住の妃が三人いて・・・?

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

【完結】今宵、愛を飲み干すまで

夏目みよ
BL
西外れにあるウェルズ高等学園という寮制の夜間学校に通うリック。 その昔、この国では人ならざる者が住んでいたらしく、人間ではない子どもたちが夜間学校に通っていたそうだ。でもそれはあくまで昔の話。リック自身、吸血鬼や悪魔、魔法使いを見たことがない。 そんな折、リックの寮部屋に時期外れの編入生がやってくるという。 そいつは青い瞳に艷やかな濃紺の髪、透き通るような肌を持つ男で、リックから見てもゾッとするほどに美しかった。しかし、性格は最悪でリックとは馬が合わない。 とある日、リックは相性最悪な編入生のレイから、部屋を一時的に貸して欲しいとお願いされる。その間、絶対に部屋へは入るなと言われるリックだったが、その約束を破り、部屋に入ってしまって―― 「馬鹿な奴だ。部屋には入るなと言っただろう?」 吸血鬼✕人間???の人外BLです。

罪人の僕にはあなたの愛を受ける資格なんてありません。

にゃーつ
BL
真っ白な病室。 まるで絵画のように美しい君はこんな色のない世界に身を置いて、何年も孤独に生きてきたんだね。 4月から研修医として国内でも有数の大病院である国本総合病院に配属された柏木諒は担当となった患者のもとへと足を運ぶ。 国の要人や著名人も多く通院するこの病院には特別室と呼ばれる部屋がいくつかあり、特別なキーカードを持っていないとそのフロアには入ることすらできない。そんな特別室の一室に入院しているのが諒の担当することになった国本奏多だった。 看護師にでも誰にでも笑顔で穏やかで優しい。そんな奏多はスタッフからの評判もよく、諒は楽な患者でラッキーだと初めは思う。担当医師から彼には気を遣ってあげてほしいと言われていたが、この青年のどこに気を遣う要素があるのかと疑問しかない。 だが、接していくうちに違和感が生まれだんだんと大きくなる。彼が異常なのだと知るのに長い時間はかからなかった。 研修医×病弱な大病院の息子

処理中です...