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本編

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 一年後の春に、世継ぎになるだろう長男が生まれた。次の年の秋には、長女が。それからも子を成し、二男三女の子宝に恵まれた。
 長男が五歳になったとき、父王が退位し、俺は王位に就いた。
 側妃は娶らなかった。
 王位に就いてから、媚薬が効かなくなった。これ以上量を増やすわけにもいかず、王妃となったカサンドラを抱かなくなった。
 ……もういいだろう。二人の王子に三人の王女がいれば何も問題ない。
 カサンドラは勃たなくなった俺に、「疲れているのね」といたわりの視線を向けてくる。都合がいいのでそういうことにした。
 心配した側近たちは、王妃に飽きたのか何なのかと、娼婦や男娼を俺にあてがったが、俺の陰茎は一切の反応もしなかったから諦めたらしい。
 深夜、マティの髪に口付けながら、たった一度の閨を思い出しながら扱けば、あっさりと硬くなり溜まったものを吐き出した。
 俺は本当にマティにしか反応しないらしい。喜ばしいことだ。

 長男が十五歳になったとき、王太子として立てた。
 十八歳で学園を卒業し、見初めた子爵家の令嬢との婚姻も認めた。
 幸福になれ。
 愛したものと共に。
 俺は子供たちを国のために使うことはしなかった。
 愛し愛される者と、夫婦となればいい。
 それが幸せなことだから。

 右手首の小さな跡は、俺が繰り返し跡を残したことで、痣のように手首に残った。
 マティのぬくもりが残っているはずもないのに、そこに唇を寄せるとマティのぬくもりを感じることができた。

 一年に一度、王都のアードラー家の屋敷を訪れ、墓石に花を手向けた。両手にあふれるほどの花を贈った。
 遠乗りに行った報告もした。
 王都にある菓子店の話もした。
 城の裏にある丘から見上げた星空が、どれほど綺麗だっかも話した。
 俺の息子が確かに俺よりも優秀だということも報告した。

 長男の王太子が二十歳になったとき、王位を退いた。
 まだ早いと引き止められたが、俺はもういいんだと、若い王を祝福した。
 隠居生活を送る離れで、椅子に揺られながらマティの髪を手に取り、最後の手紙に目を通すのが日課になった。

 翌年の春。
 暖かな日差しが降り注ぐ中庭に設置したベンチで、俺は目を閉じた。

『ヴィル!』

 あの日のように。
 でも、あの日とは違って。

 いつもの中庭でベンチに座っていたマティが、振り返り、笑顔で俺を呼んだ。

『凄い顔してますね。そんなに、疲れたんですか?』
『……ああ。疲れた。私に――――俺に、また歌を歌ってくれないか』
『ふふ…。いいですよ。ヴィルのためなら、いつだって歌います』

 マティはポンポンと自分の足を叩く。
 俺は笑みを隠さず、その膝の上に頭を預けた。

『~~~♫』

 俺の好きな歌声。
 俺を見下ろす赤い瞳。
 髪を束ねるのは、俺の瞳色と同じ色のリボン。

『マティ……愛してる』
『はい。私も愛してます。今までも、これからも』

 ふわりと微笑み、再び歌い始めたマティに、身を委ね目を閉じた。





「父上、ちょっといいですか?この案件なのですが――――、父上?…父上…!?誰か、誰かいないか!!王宮医を早く呼べ……!!!」




 息子の声を聞いた気がした。
 けれど俺は目覚めることはなく。
 マティの膝の上で微睡み、最愛の人の歌声を聞き続けた。



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