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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

63 緊急案件なので暁亭に行きます

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 マシロは子猫として振る舞ってもらうことに落ち着いた、結婚式まであと六日に迫った四の日。
 俺たちは午前中の仕事を放り出して、西町に向かった。
 マシロも一緒。何故か俺の頭の上にへばりついてる。
 クリスの仕事しない宣言に、笑顔を顔に張り付かせたオットーさんが、「馬鹿ですか。何言ってるんですか」って言ってきたときには、背筋がゾクゾクしました……怖くて。
 クリスがその笑顔の圧にも屈しない笑顔返しで「レヴィの所に行く緊急案件ができた」と伝えたら、オットーさんは溜息をついて外出の許可をくれた。
 なので、いつもどおりのメンバーで、西町に向かってる。
 俺は相変わらずのクリスの縦抱き。疲れ過ぎたら午後のダンスレッスンに支障がでるからだって……。
 頭に乗ってるマシロの尻尾は結構長くて、俺の項を直撃してくる。しかも微妙に揺らされるから擽ったい。

「……いい加減冒険者登録してもいいですよね殿下」
「俺は構わないが」

 護衛…と言っても、慣れ親しんだ道のり。
 朝の九時くらいのこの時間は、まだそこまで人通りも多くない。
 だから、警戒はしつつも、オットーさんもザイルさんも、少し気を抜いてる。
 というか、ザイルさん、この間も冒険者登録したいみたいなこと言ってたよね。……あ、俺も登録したかったの忘れてた。

「じゃ、一緒に登録しよう、ザイルさん」
「そうしましょう、アキラさん」

 二人で笑って約束したら、オットーさんさんから溜息が。

「ザイルは駄目ですよ」

 おう……デジャ・ブ。
 前も反対してたよね、オットーさん。

「なんでっ」
「冒険者の中には貴方より腕の立つものもいます。一人でそんな場所にいたら手籠めにされて終わりです」

 ……て、ごめ。

 思わずオットーさんをまじまじと見てしまった。
 え。
 てごめ、って、襲われるとか、そういう意味の手籠め?

「……何言ってるんですか」

 やや呆然気味だったザイルさんが立ち直った。

「あの店主殿の宿で、そんなこと起きるわけないじゃないですか」
「冒険者の活動は基本的には『外』ですよ?店主の目がそこまて行き届くわけないじゃないですか」

 前の、一方的な否定とはまた違う方向性の否定だ。
 もう。
 クリス、笑ってばかりいないでなんかどうにかしてよ。

「なら、オットーと二人で依頼を受ければいい」
「…は。そうですよ。殿下の言うとおりですよね?どちらにしても私は不慣れなんですから、オットーがいてくれないと冒険者としての活動なんてできませんよ」

 ザイルさんが「その手があった!」と言わんばかりにオットーさんに詰め寄る。
 オットーさんは少しだけ考え込んで、「ああ」と声を出した。

「それならいいですよ。殿下の許可付きですし」
「よし!」
「というわけで、殿下。同じ日に休ませていただきますね?」

 にこにこのオットーさん。
 今度は逆にクリスの顔が渋った。

「……お前達がいないと色々滞るんだが」
「殿下の提案でしょ?それに、私達がエーデルに出向いたときはブランドンがどうにかしたんですから、どうにかなるでしょ?私達がいるときよりも真面目に仕事をしていたと聞いてますけど?楽しみですね。冒険者への依頼は一日で終わらないものもありますしね」
「………」

 あ、これは。

「……ザイル、諦めろ」
「え」
「お前たちに長期で休まれると俺の身が持たない」
「そんな……」

 クリス、オットーさんに負けた。
 わっかりやすい手の平返ししたわ…。
 クリスに裏切られたザイルさんは、呆然として、それから、溜息。ごめんね…。ザイルさん。

「えと…、あの、ほら、クリス、なんだかんだ言って二人に甘えてるだけだし…」
「いいんですよ……アキラさん」

 ザイルさんが不敵な笑みを見せた。珍しい表情……。

「殿下にがっつり仕事を進めてもらって、殿下も休みを取れる時に私達も休みますよ。殿下が仕事に追われている間に団員を順に休ませれば、不公平感もないでしょう?」
「あー……」
「なにも、何日もかかるような依頼に行きたいわけじゃないですから。オットーと二人で朝から依頼を受けて行動してみるのも楽しそうでしょう?」

 見事な正論。
 しかも、ちゃんと他の隊員さんのことも考えた発言。

「それに、万が一剣が扱えなくなったときの身の振り方も考えておかなきゃ駄目ですからね。私にしてもオットーにしても、絶対はありえませんから。まあ、私もオットーも、蓄えはそれなりにありますけどね。二人で生活するにも困らないでしょうけど」

 やっぱりザイルさんは考え方がしっかりしてるなぁ。
 クリスにしっかり仕事させる宣言もしてるし。
 ………?
 二人?

「それに、平民にはやはり身分を証明するものが必要なんですよ。冒険者の身分証は、その点でも重宝しますから」

 ……まって。
 『平民』て??
 貴族の人って特別な身分証みたいなものがあるんじゃないの??

「ク」
「ついたぞ」

 ……目の前に、暁亭のドア。
 クリスは苦笑しながら宿の中に入った。
 宿の中には、何人か顔見知りの人もいて、手を振ったり挨拶したり、和気あいあい。

「いら………、ああ、なんだ。お前らか。どうした?」

 奥から出てきたギルマスは、俺たちを見たらお客対応から普通の対応に戻った。

「どうした?」
「緊急案件だ、レヴィ」

 真剣なクリスの声。
 子猫を頭に乗っけた俺を縦抱きしてるから、どうにも締まらないけど……。

「緊急ねぇ。――――オットー、また頼むわ」
「ええ。……ああ、レヴィ殿、ザイルの冒険者登録をしてもいいですか?」
「やり方わかるだろ。いいぜ。お前の連れだし、クリストフんとこの奴に問題のある奴はいないからな。じゃ、頼むわ」
「ありがとうございます」

 ギルマスがくいくいっと奥の部屋を指差すので、俺たちも部屋に入った。
 宿の方では定番のオットーさん店番。なんだかんだ、オットーさんもザイルさんが冒険者になるの良しとしたんだぁ。

「……連れ?」

 さっきのギルマスの言葉がなんか引っ掛かる。

「連れ、って??」

 クリスにソファの上に降ろされながら、二人に聞いた。
 連れ。
 俺の認識では、パートナー同士とか、恋人とか、夫婦とか、そういう特別な二人に使う言葉だけど。

「……クリストフ、坊主に言ってないのか」
「まあ、あえて言わなくてもいいかな、と」
「なに?」
「あいつら結婚しただろ?」
「へ?」
「ザイルは平民になったんだったか。まあ、それでも貴族としての立ち居振る舞いは身についてて、普通の平民に比べれば仕草も綺麗だからな。見た目は貴族のままだが」
「……平民?」

 固まった俺を見て、ギルマスが、笑い始めた。

「クリストフお前、それも言ってないのか」
「貴族でも平民でも変わらないだろ。別に、それで対応が変わることでもない」

 ザイルさん、いつの間にか平民になってて、いつの間にかオットーさんと結婚してて…?
 ……二人、そういう関係だったの……?俺、全然全く気づかなかったんだけど……。

「……言ってよ」

 頭にマシロが乗ってたのも忘れて、テーブルに突っ伏した。
 ちゃんとテーブルの上に着地したらしいマシロが俺の頭をたしたし撫でてくれた……。



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