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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

43 更に合流!

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 クリスがヴェルから降りた。俺を抱きかかえたまま。うーん…、格好良すぎて胸が苦しい。けど、それだけ俺がまだまだ軽すぎるってことか…。
 クリスは俺を立たせてから、ラルフィン君の方を見た。

「ラル、すまないがアキの左手を診てくれ。癒やしきれなかった」
「わかりました」
「左手?」

 なんのことだと思ったら、服に血がついてた。
 ……俺、そういや制服着てない。ティーナさんとお茶してそのままここまで来ちゃったからなぁ…。

「いいよ、これくらい」

 百足の足か何かに触れたのか、避けた袖の下にはまだ血の滲む傷があった。
 さっきのキスで多分塞がり始めてるし。

「駄目だ」
「クリス」

 ぐい…っと右手を引かれて、耳元にクリスが顔を寄せてくる。

「婚姻式も近いんだ。お前の身体に傷一つ残したくない」
「んん……っ」
「細かいのはこれが終わったら俺が全部癒やしてやる」
「~~~っ、わか、ったから、耳、やめて……っ」

 くすっと耳元で笑ったクリスは、耳を一齧りしてから離れていったけど。
 なにしてんの、こんな時なのにっ。

「アキラさま、腕を」
「はい…」

 耳を抑えてバクバクする心臓にため息を付きながら、ラルフィン君のあったかい癒やしの力を腕に感じてた。
 落ち着け俺。
 クリスが通常運転で何よりなんだから。
 飛行型も迫ってるし、虫魔物だって少ないわけじゃない。
 そこまで長時間戦っていたわけでもないけど、みんなの疲労も重なってる。
 けど、クリスにはどこか余裕すら感じる。

「僕、もう少し前に出ます」

 そう言ったラルフィン君は、表情を引き締めて前線ギリギリまで進んでいく。
 祈りの言葉を口にした彼から、光の粒子が弾け飛んだ。その光はこの戦場にいるみんなの上に降り注いでいく。
 ゲームなら、複数PTが参加する同盟バトル…レイドって感じの。けど、回復役はラルフィン君ただ一人。これだけの人数なのに、ラルフィン君は慌てた様子もなく落ち着いて状況を見ていた。

「お前らいい加減にしろよ」

 ラルフィン君と入れ違うように前線から抜けてきたのはギルマスだった。
 呆れたような物言いだけど、ギルマスの顔にも余裕が見て取れる。

「危険な状況で転移を忘れるアキが悪い」
「……返す言葉もありません……」

 項垂れてたら、ギルマスの笑い声がして、頭をまたぐしゃぐしゃに撫でられた。

「なぁ、クリストフ。ありえない光景だよな」
「全くだ」
「?」

 なんのことだと思いながら頭を上げたら、二人は門から見える町並みに視線を流していた。
 何が『有り得ない光景』なんだろう?俺には普通の町に見えるのに。あえて言うなら、避難が終わったのか、住人の人たちの姿が見えないってだけで。
 あ、もしかして、『ゴーストタウン』ぽいとか?あのいつも賑わってる西町が、戦闘の音だけが響く場所になってるから?
 感慨深げに町を見る二人を見ていたら、かなり接近した魔物の気配を感じた。
 はっとして空を見れば、四体の飛行型魔物がはっきりと肉眼で姿形を確認できる距離まで迫ってきていた。
 蟻と言い、ワイバーンのと言い。
 嫌な記憶が蘇る…ってより、あのときの俺より確実に魔法の技能は上がってるし、「やってやる」って気持ちのほうが強い。
 地上ではまだミミズと百足が暴れてる。
 蟻も蟷螂も蜘蛛も、ほとんど残ってない。

「来るよ」

 空の一点を眺め、二人に声をかける。

「空は厄介だな」
「ここで落とさないとあいつらは王都の上空をどこまでも移動できるからな」

 なんで魔物の群れが一定方向から押し寄せてくるのかよくわからないけれど、地上を来る魔物たちはとにかく西門を目指してる。
 もっと散開して攻めてくれば、こちらの守りも薄くなるから、攻めやすいと思うけど、魔物はそうしない。ひたすら一点攻め。
 でも、飛行型はそれよりも自由のはず。
 どうしようかと考えていたとき、魔力が動いた。

「ギルマス、エルさん、上空に障壁……!!」
「………っ!!」

 俺が先に張った障壁はワイバーンが空中から吐いたブレスを受けて、一瞬で砕けた。
 ギルマスとエルフィードさんの障壁がその後すぐに張られて、大ダメージには至らなかったけど、すべてを防ぎきったわけじゃないから、負傷者は出てる。

「空のやつを落とせ!!」

 ギルマスの声が響く。
 冒険者さんの中でも数人が、前線から数歩下がって弓矢に持ち消えた。

「アキ、頼む」
「わかってる」

 門近くに障壁を張りながら、二発目のブレスを吐こうとしてるワイバーンの口の中に、特大の氷を押し込めば、ブレスのエネルギーがそのままワイバーンの体内で爆ぜたらしい。
 致命傷にはなってないけど、この方法なら味方へのダメージが減らせる。

「ワイバーン一体落とします!!」

 今ならできると確信が持てる。
 前回は羽根を凍らせた。
 けど、より確実に。
 手の中には小さな障壁。
 それをまた変質させて、鋭利な風の刃に。
 ……いける!

 狙うのは羽根の付け根。多少ずれても誘導できる。
 初撃にしては、威力もスピードも十分だった。
 片側の羽根をなくしたワイバーンは、うめき声を上げることなく落下する。

「エアハルトさん、拘束!!」
「御意!!」

 地に落ちたワイバーンに、土属性魔法で拘束をかけてもらえば、簡単には動けない。
 それを確認したギルマスが、改めて剣を抜き、前線へと駆けていく。

「クリスも――――」

 言いかけたとき、また魔力のゆらぎを感じた。
 乱戦の戦場の上でホバリングしたグリフォン二体が、魔法を放とうとしている。

「障壁……!!!」

 咄嗟に張った上空への障壁。
 それに気づいてギルマスもエルフィードさんも、また障壁を重ねがけしてくれる。
 ブレスとは違う、魔法の発動。
 口を開けてるわけではない。羽根を落とせば発動が止められるのか、確実に首を落とさなきゃだめなのか、頭の中が混乱する。
 まだワイバーンだっている。空中に三体。ミミズはあと少し、百足はまだ時間がかかる。
 どうしようどうしよう……って頭の中でぐるぐる考えていたとき、俺とクリスの後方から、風を切る音がした。
 それは矢が放たれた音。
 矢は寸分のズレもなく、グリフォンの目に突き刺さった。

「え」

 更にもう一撃。
 両目を潰されたグリフォンからは、魔法の発動の気配が消えた。
 ……この正確な射撃。
 俺、知ってる。

「殿下!」

 馬で駆けてくるのは、エーデル領に行っていた二人。

「ザイル、オットー、両名今戻りました。前線に加わります!!」
「ああ」

 先に下馬して前線に駆けたのはザイルさんだった。

「殿下、遅くなりました」

 俺達のいるところから少し離れたところで下馬したオットーさんは、クリスの前で膝をつく。
 ……なんか、前よりすっきりした顔をしてる。

「報告はあとだ。前線へでろ。俺も行く」
「御意」

 オットーさんは立ち上がると同時に駆け出した。

「……オットーさん、ヒーローみたいじゃない?」
「ヒーロー?」
「うん。ピンチになると絶対助けてくれる主人公……」

 あのタイミングでグリフォン一体落としちゃうんだよ?おかげで俺も冷静になれたし。
 グリズリーさんのときだって、オットーさんの正確な射撃があったから、クリスが俺を攫う時間ができたんだから。

「……それは……、気に入らないな」
「ク」

 なに……と思っていたら深くキスをされた。
 流し込まれる甘い唾液に、頭の中が別な意味で混乱してくる。

「あと二体だ。何も考えず落とせ。俺がすぐ片付けてやる」
「……ん」
「お前を助けるのは俺の役目だ。忘れるなよ?」

 ……って言ってから、クリスも前線に向かったけど。
 なに。
 俺がオットーさんを褒めたから、ヤキモチ焼かれた?

「もぉ……クリスのばか……っ」

 濡れた唇を少し手で拭って、補充された魔力に笑みを浮かべた。

「そんなの……俺が一番良く知ってる……!!」

 手の中に、ありったけの魔力を込めた。



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