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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

17 種明かし

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 部屋に戻ってからもクリスの腕の中に閉じ込められたままだった。

 クリスの左手は、執務室でオットーさんが治療してくれたけど、包帯が巻かれて痛々しい。それを視界に捉えるたびに、俺はずーんと落ち込んでしまう。
 前回、同じようなことをクリスがしたときは、俺に向かってきた火球を斬ったもの。でも今回は俺が調子に乗って放った火球を斬ったもの。

 …同じようで全然違う。今回のは直接俺が迷惑かけた形だもん。落ち込み具合が全然違う。
 クリスが俺を腕の中から出さないのも、それがわかってるからだと思う。
 ずっとキスされて、喉の奥に溜まったものを飲むように促されて、メリダさんが用意してくれた果実水も飲まされる。

 クリスの腕の中は俺が一番安心できる場所で、一番好きな場所。だから、気持ちはだんだん落ち着いていく。
 絡めた舌とか、唾液とか、口移しとか。そういうことをされて、身体の中にクリスの魔力が溶け込んでいく。そうされてやっとわかったんだけど、自分で思ってたより魔力を消費していたらしい。
 倒れるとかだるくなるとか、そういうことはないから、まだ大丈夫な範囲での消費だとは思うけど、比較できないからなんとも言えない。急にパタリと行くのかもしれないし。

「身体は?」
「ん……大丈夫」

 結局執務も途中になっちゃったし。
 ほんとにごめんなさいとは思うけれど、俺を甘やかしてくれるクリスから離れたくないのも事実で。
 身体が『もっと』って言ってる。
 もっと、クリスの魔力がほしい、って。

 メリダさんが夕食に関して声をかけてくれるまで、ずっとクリスの膝の上で魔力をもらってた。
 キスがあまりにも気持ちよくて、ちょーっと兆してたのは、まあ、クリスにはすぐバレてたと思う。

「…随分楽しそうに魔法を打ってたな」

 少し俺が落ち着いた頃、クリスが俺に聞いてきた。

「ん…。炎系の魔法ってさ、ゲームじゃ凄くポピュラー……えーと、普通?当り前?のものなんだよね。火球だけじゃなくて、槍みたいに出したり、弓矢のようにしたり」
「友人としたと書いていた『てれびげーむ』とかいうものか?」
「うん、そう。…………ん?」
「魔法の練習でもするものなのか?」
「いや、主人公になって、悪いやつから国を救ったり………、クリス、『書いてた』って、なに??」
「書いてただろ?」
「ん??」

 なにに?
 俺がわかってないのを察したのか、クリスは俺を片腕抱きして、寝室から居間の方に移動した。
 居間の壁は本棚が並んでいて、色々な背表紙が見えるけれど、その中に細くて頼りない背表紙のものが何冊も並んでた。
 ……というか、まって。それ、すごく見覚えがあるんだけど。
 クリスはその並んだところから数冊を手にして、ソファに腰掛けた。
 表紙を見て、愕然とする。
 ノートだわ。使い慣れ親しんだ、有名メーカーの大学ノート。束売り六百円の品物。

「え」
「たしか、これに」

 ……って、クリスがパラパラめくり始めたそこには、歪な文字が、ぎっしり……。

「うぎゃあああ!!!」

 中身を見て確信した俺は、恥ずかしさのあまり変な雄叫びのような叫び声を発して、クリスの膝の上から逃れてノートたちを奪還した。

「アキ?」
「え、なんで?なんでこれがここにあるの…!?」
「なんでと言われても」

 それでクリスが教えてくれた。
 ある日突然このノートが部屋にあって、俺の文字で(下手すぎて特徴的すぎてすぐに俺が書いた物だとわかるらしい)、日付とその日の出来事らしきものが書かれていた、って。
 中には読めない文字もあったけど(そりゃ俺がわからない言葉は全部日本語で書いたから)、だからこそそれが俺が書いたものだと確信を持ったとか。
 気づけばそれは一冊、また一冊と増えていて、もしかしてと思ってそのうちの一冊をリアさんに見てもらったら、異世界のものだとはっきりして、だからクリスは俺が生きてることを確信したんだ、って。

「ノート一冊分全てに俺への想いが綴られているものもあった」
「うああああ~~~!!!返して、返してっっ」

 あれはっ、あの中身は、「どうせ見られても誰も意味がわからないから」、安心して書きたいこと書いてたんだよ…!だから、なくなったとわかったときも、そんなに慌てなかったのに…!!
 なんてことしてくれてるの!?女神様!?

「焼く…!もう全部燃やすから!!」
「何を言ってる。あれは俺のものだ」
「ちーがーうー!!あれは俺の!俺のなの!!恥ずかしすぎて死ねるから!だから返して!燃やすから!!」
「お前が俺への想いを綴ったものを、手放すと思うか?」
「手放してください!!」
「いやだ」
「クリス!」
「俺にとってこの上ない贈り物だ。ほら、返せ」
「やーーー!!」

 俺の抵抗なんて、クリスの前では小さな子供同然。大体、体力も体重も、元通りになってないんだから、抵抗成功するわけもなく。
 右手で荷物のように抱えられて、手からノートを奪われ、残ってたノートもまとめて、本棚の一番高いところにひょいと載せられた。

「あ゛~~~!!!」
「これで手は届かないだろ」
「そ……そんな……」

 でも、どんなに高い場所、って言ったって、所詮天井までの高さ…!机とか椅子とか駆使すれば、手は届くはず…と、クリスに抱えられたまま(荷物のように脇に抱えられてる感じで)ジタバタしてると、部屋のドアが開いた。

「あら?」

 ワゴンを押したメリダさんが、目を丸くしてる。

「何なさってるんですか、坊っちゃん」
「ああ。なんでもないよ。気にしなくていい。ほら、アキ、腹が減っただろ?」
「すいた……けどさ……!!」
「メリダ、奥で準備を」
「ええ」

 メリダさんは可笑しそうに笑うと、ワゴンを押して寝室の方に向かった。

「アキ」
「おろしてっ」
「諦めろ」
「むー!!!!」

 魔法で張り切りすぎて、ジタバタ暴れすぎて、お腹はすごくすいた。すいたさ。
 だから、食べたよ、夕食!美味しかったよ!!クリスの膝の上で食べさせてもらったよ!!
 けど、これとそれとは違うの!!

 大体、なんでそんなノートの話になったのか思い出せないまま、風呂に入れられて、しっかりほぐされて、ベッドでイかされまくって……寝てしまった。

 翌朝、はっと目が覚めた俺は、そろーっとベッドを抜け出して居間の方に向かい、本棚を見上げたのだけど。
 そこに置かれたはずの俺の恥ずかしいノートたちは、すでにその姿を消していた…。
 ……なんてこと。
 その場で崩れ落ちた俺を、クリスが笑いを堪えながら抱き上げてまたベッドに寝かされて。

「くりすのばかぁ…」

 ぐすぐすしながらクリスに抱きついて二度寝した。



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