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if番外編:聖夜は異世界(日本)で

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 外套を脱いだクリスが、居間のソファに座ってる。
 置いてある物すべてが珍しそうで、いつもよりソワソワしてるみたいで面白い。
 しかし、なんだ。比較的質素なものを選んだと言っても、そこはほら。結局は王子サマなわけなんだよ。宝飾は殆ど無いけど、デザインがおとなしめってだけで、生地はいいものだし、何より着てる人が現役の本物王子サマ、で。
 なんかなー。浮きまくってるんだよね。
 背、高くて、脚、長くて。
 父さん、ぽかんとしちゃってるし。

 家に入った途端、めっちゃ違和感あった。
 一般民家に王子サマは駄目だ!
 まず、天井が低い。
 流石に頭をぶつけるほどではないけど、ドアのとこは危なかった。

 そして、母さん。
 外でココアって言ってたのに、「どうぞ」って言って出してきたの、湯呑に緑茶!
 いつも恰好よくティーカップを傾けてるクリスしか知らなかったから、ミスマッチすぎて悶た。
 日本だからね。
 確かに、おもてなしの心は生きてると思うけどさ!
 クリスは「ありがとうございます」と言いつつも、少し困った顔で、「どう飲めば?」って俺に聞いてきた。
 そりゃそうだよね!
 両手で湯呑の持ち方とかレクチャーしたら、すんなり飲めるようになったけど、果たして緑茶は口に合うのだろうか。

 ちなみに、クリスは今回の転移里帰りが決まってから、日本語を覚えたんだよ。すごいんだよ!書けないけど、話すのは問題ないんだよ!!半端ない俺の王子サマ!!

「ごめんなさい。ココアきらしてて…。あ、これもどうぞ。でも夜も遅いから召し上がらないかしら?」

 ……母さん、煎餅も出してきた。
 なに。
 湯呑に煎餅って、デジャヴしかないんだけど。流石、親子…。

「ありがとうございます」

 って、二度目のお礼。
 クリスは動じないなぁ。
 …困った顔すら格好いいから好きなんだけど。

 母さんが父さんの隣に腰掛けて、ようやく雰囲気が落ち着いた。
 何を話せばいいんだろ…って湯呑に視線を落としていたら、クリスがソファから立ち上がった。
 ん?って皆がクリスの方を見たんだけど、淀みのない所作で、クリスは床の上に膝をついたんだ。
 え?って思ってる間にも、クリスは真っ直ぐ父さんと母さんを見ていて。

「義父上、義母上」
「「っ」」

 す……っと、床に

「世界が違うことを言い訳に、今まで挨拶もなく、アキラを攫うように私の元に囲い込んだこと、心よりお詫びいたします」
「あ、ああ」
「私の国……世界では、常に剣を携えていなければ、自らの身も他者も守ることもできません。ですが、アキラのことは誰よりも何よりも優先して守ります」
「……」
「私がこの先、他の妻を娶ることはありません。生涯、私の伴侶はアキラだけです。アキラを愛し続けると誓えます」
「そ、れは」
「お二方がどれほどアキラを愛し育んできたのかよくわかっています。大切に育まれてきたアキラを、私が遠い場所に縛り付けてしまっていることも自覚しております。ですが、アキラは私の唯一です。どうか、私との結婚をお許しいただけませんか」

 とても真摯に言葉にしてるクリス。
 それに相槌を打つしかできない父さんと、目をうるませながら見守る母さん。
 もう結婚しちゃってるけど、後付でも許してほしい、って。
 こんな挨拶、ずっとずっと考えていてくれたんだ。

 でも。
 でもね。

「……もちろん、そこまで瑛を思ってると言うなら、私達は君と瑛の結婚は認めるよ。むしろ、最初から認めてる」

 父さんの、柔らかな笑顔と肯定の言葉に、クリスからやっと、力の抜けた雰囲気がした。

「不束者ですが、今後とも宜しくお願いいたします」

 ……ってさ!!!
 三つ指ついて、不束者、って!!!
 どこの花嫁さんですかね!?

 絶対これリアさんの仕込みだよね!?
 折角の感動的な、惚れ直しそうな場面なのに、俺、笑いがこみ上げてきて大変なんだけど…!!

 ほら、父さんも母さんも、どーしたらいいの、って戸惑った顔してるし!!

「ク、クリス」
「ん?」
「それね、花嫁側の台詞……っ」
「え?」
「三つ指……、その、指ついて頭下げるのも、多分花嫁さん側の挨拶……っ」

 って、結局俺がバラしたら、色々理解したクリスの顔が一気に赤くなって、きちんと正座してた足を崩してあぐらをかいて、「あ゛~~っ」って、顔を手で覆って天井を見上げる、珍しい、とっても珍しい仕草を披露した。

「多分、リアさんにからかわれたんだよ…」
「くそ……っ、セシリア嬢………っっ」

 でも、顔真っ赤にさせて照れた(というか羞恥心?)クリスは貴重なので、そこだけは感謝?

「あー……あの、義父上、義母上……」
「まあ、いいんじゃないかな」
「そうね。所作がとても綺麗。とても様になっていたわ」

 ……と褒められて、クリスもようやく笑顔になった。
 その後は改めてソファに落ち着いて、父さんと母さんが聞いてくる向こうの生活とか、世界について色々話した。

 でもいい加減夜も更けたし、風呂入って寝よう……って話になってから、俺が使ってた部屋に行ってみた。
 そこは、俺が向こうの世界に行ったときに、机だけ残して何もかもなくなった部屋。けど、今もちゃんと残してくれていた。
 布団を持ってこなきゃ…って話をしてたら、目の前に、俺が使ってたベッドがいきなり出てきたもんで、皆、目を丸くした。俺も、クリスも。

「女神様だな」

 っていうクリスの言葉に、俺は納得しちゃったよ。
 なんでもありだな、女神様。
 ベッドは、一人で寝るには十分な大きさのシングルサイズ。
 当然、二人で寝るには狭いから、母さんが布団を一組床に敷く話をしたんだけど、クリスがやんわり断った。

「アキが腕の中にいないと眠れないので」

 ……って。
 堂々と。
 両親に。
 一つのベッドで眠ります宣言をかました。
 クリスはそういうとこ、なんも感じないだろうけど、俺としてはそんな生々しい話は親にしてほしくなかった、って言うか、知られたくなかったと言うか…っ。
 案の定、両親ともどう言えばいいのか困ったようで、「落ちないようにね…?」と、微妙な言葉を貰ってしまった…。
 もうもうっ、クリスのばかあ!!



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