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第6.5章 それでも俺は変わらない愛を誓う(side:クリストフ)

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 まだ早い時間なのか、メリダも部屋に来ない。
 メリダに頼んでおいたヴェールの手配を進めよう。
 ソリアにも依頼をかけなければ。
 アキには白に近いもの…銀か。だとしたら、俺は黒で整えるべきだな。

「…三ヶ月くらいか。意外と時間がないな」

 早々に準備に取り掛かろう。

 クローゼットを開けた。
 半分くらいはアキの服で埋まっている。
 いつ戻ってくるだろうか。
 あの様子では一旦作り直さなければならないだろう。
 春用の新しいものも作らせよう。
 そうして眺めながら、違和感に気づいた。
 何かが足りない。

「……ああ」

 アキが最初に着ていた服がなくなっていた。
 いつからなくなっていた?
 メリダが処分したとは思えない。

 その後部屋に来たメリダに聞いてみたが、やはり処分はしていないという。
 服だけじゃなく、見慣れない形の靴もなくなっていた。

「綺麗にして修繕も出来るだけしていたのですけどね…。申し訳ありません」
「いや、問題ない」

 恐らく、アキが消えたことに関連あるのだろう。
 本来の身体が向こうにあったと言うなら、こちらに来た時点で何かしらの力が働いた結果の存在だったのだろうし。

「俺の方で調べておくから」
「…はい」
「それよりメリダ、アキの婚礼用の衣装の準備を進めたいんだ」

 紅茶を注いでいたメリダの手が止まった。
 明らかに動揺した表情を見せる。

「……坊ちゃん、それは……」

 アキが生きていることは、俺と、レヴィと、セシリア嬢しか知らないことだ。
 死んだ者の婚礼衣装を用意する――――気が触れたと思われるだろうか。

「メリダ、頼むよ。春の二の月に、俺はアキと婚姻を結ぶ。約束したんだ。準備を整えておくから、と」

 メリダは止まっていた手を動かし、紅茶を淹れる。
 今朝のはアキが好きだった甘い香りのするものだった。

「わかりました。……アキラさんも、きっと、お喜びになられますね」
「ああ」
「……坊っちゃんは」

 メリダは言葉を切った。
 それから、頭を軽く振る。

「メリダ」
「はい、坊っちゃん」
「俺の伴侶はアキだけなんだ。他の誰も、代わりにはなれないんだ」
「………ええ。ええ、そうでしたね。坊っちゃんの伴侶はアキラさんだけですものね」

 メリダの瞳が揺れた。
 …また、己を責めているのだろうか。

「ソリアさんをお呼びしましょう。もう時間がありませんからね」
「ああ。……メリダ、これからも頼むよ」
「先の短い老人に、何を仰っているんでしょうね。…ですが、このメリダ、最後まで坊っちゃんにお仕え致しますよ」

 涙は落ちることはなかった。
 メリダは笑顔をみせてくれる。

「ああ……、そういえば。坊っちゃん、私の後継についてですけど」
「ん?」
「行儀見習いの一環で、セシリアお嬢様に来ていただいたらどうでしょうか。彼女でしたら、坊っちゃんに色目を使うこともないでしょうし」
「……メリダ、頼むから彼女だけは候補からはずしてくれ……」

 オットーが言ったことが現実になりそうで怖い。
 俺が大真面目に言えば、メリダは楽しそうに笑った。

「彼女は領地の経営に忙しいんだよ。後継など考えなくていいから。メリダが働けなくなったと言うなら、専属の侍女はいらないと思っているほどだ」
「それはなりませんよ、坊っちゃん。ただでさえ、私一人では不足しているのですから。身分も心持ちもしっかりした方がどこかにいらっしゃらないでしょうか…」
「……それは、俺には全くわからないことだな……」
「本当に。ええ、全くもってそのとおりで御座いますね。坊っちゃんは剣士として、騎士として、その実力を持つものを見抜く才能は十分すぎるほどお持ちですが、女性を見抜く力はないと申しますか……」

 溜息を付きながら、メリダは俺の向かいに腰掛けた。

「仕方ないだろう。……それこそ、兄上のための手駒としか思っていなかったんだから」
「そこからして間違いなのですよ。……アキラさんが来てくださって、どんなに安心したことか……」

 メリダは自分のカップに口をつける。
 数口を飲み、ほっと息をつく。

「……まあ、私も坊っちゃんのことは言えませんね。自分の後継として教育したはずの侍女が、まさか坊っちゃんに色目を使っていたなんて……」
「メリダの責任じゃないからな?」
「それでも、彼女の本質を見抜けなかった私の落ち度でございますよ」

 ……責任感が強い。
 だからといって、セシリア嬢を招くことはしたくない。

「……坊っちゃん、貴族の方々から、婚約の打診が来ていると聞きましたが」

 メリダが口にするということは、それなりに噂になっているのだろう。

「来てるな。……アキが亡くなったと聞いて、すぐに行動に移してくる貴族が多すぎる。……数を揃えればどうにかなるとでも思われているらしい。中には十歳の子供までいた」
「まあ……」
「あとは、次男や三男もいたか。……本当に貴族というのは逞しいものだな」
「王族と繋がりが持てれば、それだけで一族の繁栄にも繋がりますからね」
「繁栄も何も、子を成さぬのだから、全くの無意味なものだがな」

 断り続けるうちに少なくはなったのだが。

「……夜会では囲まれるでしょうね」
「義姉上に失礼のないようにさっさと退場するさ」
「ほんとに、仕方のない……」

 責められているわけではなさそうだ。
 メリダは笑っている。
 兄上も義姉上も、俺が途中退場しても気分を害することはないだろう。

 その後、アキの婚礼服の色や形についても語り合った。
 メリダと穏やかな朝の時間を過ごした。



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