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第6章 家族からも溺愛されていました。

23 幸せの涙

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 体調が、上を向き始めた。
 無気力に過ごして、食欲も無くしてた俺は、父さんと母さんがクリスを否定しないとわかった途端、食欲が戻ってきたし、吐かなくなった。
 夜はまだ薬を飲まないと眠れないけど。

「それで、その、クリストフ……君?は、どんな人なんだ」

 君、って。
 初めて聞いたよ、父さん。

「んと……、背が高くて、強くて、銀髪だけど何故か青いメッシュが入ってて、意味分かんないけど地毛で、筋肉質だけどマッチョってわけじゃなくて、甘すぎるものは好きじゃなくて、自分の兵団を持っていて、魔物討伐とか率先してやってて、国内一の剣の使い手で、二十四歳で、エルスターの第二王子殿下、かな」
「な」
「王子様?」
「うん」

 お粥を、よく冷ましながら、食べて。
 夕飯時の会話は、主にむこうの話で。

「王子…?」
「あらあら、そんな大物ひっかけたの?瑛」
「ひっかけた……って、人聞き悪い……」
「王子………。瑛が、王族?王政の国……なのか。それにしたって、王子?」

 父さんがぐるぐるしてるらしい。
 手元が完全に止まって、同じこと繰り返してる。

「王子だけど、王子ぽくないし。王子より騎士団団長ぽいし」

 威張りくさったところもないし。

「……人がいい……って言うか、あの国の王族って、お父さん陛下からしてそうだけど、温和っていうか、おおらかというか……」
「…………」

 父さんが更に黙ってしまった。
 じっと俺を見て、何か言いたそうに、でも、躊躇っている、ような。

「……瑛」

 話す決断をしたのか、父さんは至極、真面目な顔で、俺を見る。

「多分、だがな、王族なんて、優しいだけじゃ務まらない。その王子も含めて王族の人たちは、お前に接しないときの顔があるはずだ」
「……わかってるよ」

 俺が見せられているのは、表部分だけだろう。
 でも、クリスが何も言わないから、俺はそれでいいと思ってる。必要なときはクリスが教えてくれる。

「……メリダさん……、えと、クリスの専属侍女の人がね、言ってたんだ。クリスは、俺に、人の死とか、惨状とか、見せたくないんだ、って」

 そうやって俺は守られてた。
 お父さん陛下だって、お兄さんだって、きっと、裏の顔がある。
 それでも、俺にとって、あの国の王族のみんなは、優しいし、穏やかだし、おおらかな人たちなんだ。

「その……、瑛、その世界……瑛がいた国は、安全なのか」
「え、と」
「戦争、とか」

 ああ、そっか。
 日本にいたら、心配しなくて良さそうなことだけど、地球っていう『世界』でみれば、今もどこかで、理不尽な争いに巻き込まれてる人はいるわけで。

「戦争は、ないみたいだよ。今は。でも、魔物がいて。魔物に襲われる人や、村とかが、ある」
「……大丈夫、なの?」
「大丈夫、だよ?」

 ……多分、大丈夫ではない、けど。
 でも、みんなのために動いているんだから、きっと、大丈夫。

「俺も、魔法使うし」
「……瑛が魔法を使うのか……」
「子供の頃一度は憧れたわよね。呪文唱えてみたり」
「決まった呪文はないけどね」

 ……なんか、不思議だなぁ。
 親と、こんな話ししてる。

「瑛」
「……なに?」
「むこうの世界に行ったら、こちらには帰ってこれないのか」

 父さんの、真剣な顔。
 多分、一番気にしてること。

「……多分、だけど。前に転移した人がいて、その人は帰ることはできなくて、向こうの国で寿命で亡くなったって、聞いたから」
「そうか…」
「何時頃…とか、わかるの?」
「わかんないんだ。行けるかどうかも。でも、俺、絶対帰らなきゃならないから……」
「『帰る』か」

 溜息のような短い言葉と、寂しそうな顔。
 また少し胸が痛くなるけれど、俺は立ち止まるわけに行かないから。

「……うん。『帰る』よ。クリスは、俺がついてないとだめなんだ」

 俺にも、クリスが必要だから。
 だから、仮に『行くな』と言われても、それは聞けない。

「……あの」
「娘をお嫁に出す気分だわ…。息子なのに」
「え」
「まあ、あながち間違いじゃないだろ。……まさか、娘を嫁に出す父親の気分を味わうとは思ってなかった」
「えと」
「息子だから安心してたわ…。一人息子なんて、なんだかんだで家を出ること少ないじゃない。母親にべったりな子だって多いし」
「だよな…。異世界じゃ、挨拶一つ来ないのはどういう了見だ……って詰ることもできない」
「会ってみたかったわ。イケメンさんの王子様」
「……私は殴っていたかもしれない」
「お父さん、意外と熱いから」
「しょうがないだろ。勝手に結婚まで決められて、しかも、世界をまたぐ移住だなんて。本人目の前にしたら我慢できるわけがない」
「お父さん、瑛のこと大好きだから」
「それは母さんもだろ」
「そりゃそうよ。大事な一人息子だもの。できれば側にいてほしかったけど。……でも、この子の幸せはこちらでは得られないんでしょう?だったら、認めてあげるしかないわ」
「瑛が幸せになることが第一優先だからな」
「そうね」
「だからな。万が一にでもクリストフとかいう奴が浮気なんぞしたら、女神?をはっ倒してでも、こっちに帰ってこい。行けるんだから、帰ってこれるだろ」
「えっ」
「そうそう。悲観するようなことじゃないわよね。行けるんだから、道があるんでしょ?」
「え……と……?」

 ……考えても見なかった。
 一方通行だと信じ切っていたから。

「………すごいね、父さん…、母さん…」
「我が子のためならどうにでもするもんだ」
「そうね」

 吹っ切れたらしい両親の考え方に、俺のほうが目からウロコ。
 やってみなきゃ、わからない、ってことだよね。

「ほんと……すごい。……大好き。父さん、母さん」

 嬉しくて。
 やっぱり、涙が出た。
 でもこれは、いいよね。
 幸せの、涙だから――――



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