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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

29 セクハラ、駄目、絶対!

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 素材は取り出して、死骸は一纏めにして、エアハルトさんの土魔法であっさりと、処理終わり。
 念の為、クリスが地面を浄化して、完了。

「……殿下は神官位を……」
「この国の者なら、大概は知っていますよ。子爵家の情報網では調べられなかったんですかね」
「騎士団の優秀さが有名でしたから」
「ああ。なるほど。他国には随分と誤った情報が流れているようで、困ったものですね」
「何が誤りだと言うんですか?」
「私達は『騎士団』ではないんですけどね?」
「え」

 ………オットーさん、エアハルトさんのこと嫌ってるよね……。あからさまに……。
 オットーさん、まだ何か聞きたそうにしてるエアハルトさんに気づいているのに、にこりとクリスと俺に笑いかけた。

「アキラさん、他の魔物は?」
「え?……んー……」

 クリスの腕の中からざっと周囲を見渡したけど、それっぽい気配は感じられなかった。

「戦闘の音とかで逃げたかな…。とりあえず大丈夫みたいです」
「わかりました。殿下、そろそろ出ますか?」
「…アキは休まなくても大丈夫か?」
「うん」

 答えて、クリスに抱きついた。

「こうしてたら平気ー」
「そうか」

 クリス、心做しか嬉しそう。

「では、出発しますね」

 オットーさんも表情を緩めた。

「ね、クリス」
「ん?」
「俺、自分でヴェルに乗りたい」
「それは…」

 クリスの表情がこわばってしまった。
 でも、じっと俺を見てから、軽くため息をつく。

「上から引っ張り上げるのと、下から支えるの、どちらがいい?」

 って、諦めた感じで。

「じゃあ、上!」
「わかった」

 左手の踏ん張りは効かないので、クリスの右側から。
 右手で手綱を掴んで、右足を鐙にかけて、勢いつけて馬上に上がって、うっかりクリスを蹴り上げないように左足を向こう側に下ろせば。
 それで、ほら、うまく乗れる……乗れる、はず、なんだけどね。

「ううう」

 周りから、笑い声が聞こえる。
 上からも、苦笑する声が。

「ア…アキラ様……どうか私を足台に……!!」
「いらないっ」

 右足はかけれる。
 右手で手綱は握れる。
 あとは自分の体が少しでも上にあがれば、クリスが引っ張ってくれる。
 なのに、もう、どうしてくれようか、俺の身体。
 左手はまだ力が入らないからとか、もうそんなの関係なかった。
 いくらやっても身体が持ち上がらないんだよ…!!右足だって右手だって、十分力入れてんのにさぁ!?
 なんか、俺を見るヴェルの目まで、オロオロしてるように見えてしまう…。

「アキ、ちょっと待ってろ」

 ひとしきり笑ったクリスが、ひらりと降りてきた。

「上がりたいんだろ?」
「…うん」
「あちこち筋肉落ちてるからな…。支えてやるから。もう一度、な?」
「うん」

 なんか、反対側にオットーさんとザイルさんが立った。あれか。万が一要員か。
 よしやるぞ……ってまた力を入れて、左足で地面を蹴ったら、身体が浮いた。

「ちょ……っ」

 ぐいっとね、クリスの手がね。俺のね、尻をね……絶妙な位置で押し上げてくるんだよ。
 確かに正しいさ!?『上に押し上げる』んだから…!
 でもね、尻だからね!?
 しかも、微妙に指を谷間に食い込ませ気味だしね!?
 恋人でも婚約者でもセクハラ駄目なんだからね!?

「~~~~~っ!!」

 だからといって文句も言えない。恥ずかしいけどっ。
 ちょっと勢い付きすぎて反対側に傾きかけたけど、オットーさんとザイルさんの手で支えられて、落馬はしなかった。

「ありがとです……」
「いえ。落ちなくてよかった」

 爽やか笑顔で言われたけど、落ち着かない。尻がもぞもぞする。
 クリスはさっさと騎乗してきて、ピタリと俺の後ろに座る。

「感じた?」
「っっ」

 耳元で、ごくごく小さな声で言われたこと。
 ですよね!確信犯ですよね!!

「クリスに弄ばれた……」
「助けただけだろ?」

 笑いながら。きゅってお腹に手が回る。俺とクリスの間に、少しの隙間もないくらいに抱き締められて。

「出立――――」

 なんだろ。とても和やかに、隊、再出発。

「私が……足台に……ああ……でも……魔法で………」

 がくりとうなだれて独り言を連発する変態さんは、とりあえずおいておこう。






 走り始めて、少し経ってから。
 耳元で結構大きなため息をつかれた。

「クリス?」

 何かあったのか心配したんだけど。

「……アキを抱きたい」

 ぼそっと言われて、心臓跳ねて、それから、冷静になった。

「……昨日沢山したもん」
「足りない。……尻を揉むんじゃなかった……」
「やっぱり揉んだんだ!!」
「偶然」
「絶対狙ってたっ」

 あくまでも小声でね!?
 こんなん、聞かれたら恥ずかしいどころの騒ぎじゃないからさ!?
 ふんすふんす怒ってたんだけど、怒りってのは長くは持たない。
 すぐにクリスに身体を預けて、リラックスタイムに入った。
 それから、なんとなく、クリスを見上げたら、クリスも俺を見てくれて、ちょっと首を伸ばしたら、クリスはなにか気づいたようで、頭を下げてくれた。
 だから、近くなった耳元で、こそっと言う。

「夜、舐めてあげる」
「っ!!」

 びっくりしたクリスの顔。
 やったぜ。
 って思いながらまた前を向いたら、俺の肩口に額を載せてきた。

「アキ……反則。……………勃った………」
「え」

 ごり……って、腰のあたりになんか当たってるし……っ。
 これは………想定外だ……。







 うん、なんていうか。
 馬上なんだよね。みんなの真ん中というか。
 仲良く二人乗りで乗馬しながら、いちゃいちゃしてるただの恋人同士……に、見えたって。
 そんなこと、きれいに失念してたけど。
 重ね重ね、ごめんなさい…。






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