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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。
25 私の女神様……!!! ◆エアハルト
しおりを挟む自由の国リーデンベルグの子爵家に生まれた俺は、まあ、それなりに不自由なく生活してきたと思う。
三男という立場上、家を継ぐことはまずない。まぁ、兄たちが何かしらのやらかしをしなければ、まず爵位は回ってこない。
それならそれでいい。
それなりに見れる容姿のためか、「婿に!」という申込みは常にあった。どの令嬢も慎ましく嫋やかで、可愛らしく綺麗。それでも俺には何も響かず、面倒になって家を出た。
外の世界のほうが自由で、学ぶことが多く、生きていると感じられそうだったから。
『自由の国』なのだから、自由に行こう。
たまに家によって近況を報告しながら、最終的に冒険者として身を立てることにした。
自由の俺には丁度いい。
家を出て十年。
冒険者としてもそれなりに名がしれて、収入はかなりあるから日々の生活には全く困らない。
豊穣の国に立ち寄ったとき、偶然、幼い頃の魔法の師に会った。
彼は豊穣の国で冒険者宿の店主をしており、何度も交流を持った。
懐かしく、頼りになる彼のもとに思わぬ長居をしてしまったのは、偶然。
……今思えば、それは偶然ではなく、必然だった。
何故ならここで、私は私が求める理想そのものに出会えたから。
「お前に向いてる仕事の依頼が来てる。この国の第二王子からだ。………受けてみるか?」
レヴィ殿から見せられた依頼書の内容。確かに、私に向いていると思う。報酬も上々。
「レヴィ殿の紹介なら受けますよ」
「そうか。……ああ、一応言っておくが、殿下の婚約者には絶対に手を出すなよ」
「出しませんよ」
軽く受けた依頼。
レヴィ殿からの忠告も、「手を出すわけがない」と、軽く思っていた。
彼は第二王子の腕に抱かれて私の目の前に現れた。
彼を見た瞬間、私の世界は一変した。
つい、レヴィ殿の忠告を無視して手を握り抱きしめそうになって……、その場にいた四人から牽制を受けた。
だがしかし。
私の理想――――女神様のような存在のアキラ様を諦めるわけに行かない。
もちろん、殿下から奪い取りたいとか、私のものにしたいだとか、そんなことは望まない。
アキラ様が殿下のことをとても大切に思われているのは、見ていてよくわかるからだ。
最初のあれは、まぁ、仕方ない。いきなりの衝動に耐えられなかった故の愚かな行為だった。
けれど、けれどけれど、お側でお仕えしたい、侍りたいと願うことの何が悪いのか。
言っちゃ何だが、私は魔法も扱えるし剣の腕もそこそこある。十分、クリストフ殿下の元で力を振るえると思うのだ。
なのに、どんなに願っても「却下」と言われる。本当に、何がだめなんだ……!!
南へ出る日、殿下の騎士団の方々と手合わせしたが、私の力は示せたはずだ。殿下どころか、アキラ様にも、恐れ多いことに王太子殿下にも見てもらうことができた。
なのに許されない入団。
誰か、入団するための条件を教えてくれ……!!!
遠征一日目の野営。
ここで私は驚愕の事実と向き合った。
天幕から殿下に抱かれて出てきたアキラ様は、左手を布で吊っていたのだ。
それは明らかに怪我をしているものなのに、団員の誰一人としてそれを指摘しない。何故だ!?
どうしても気になってしまって夕食時に側に寄り、聞いてしまった。
左手を吊って、常に殿下に抱かれて移動し、食事も皆とは違うもの……となると、気にならないほうがおかしい。
そこで聞いたのは、以前の遠征の際にアキラ様が大怪我を負われたこと、神官による癒やしは既に受けていること、だった。
それでようやく納得する。全てではないが。
殿下の独占欲だけで、抱き上げ移動ではないのだと、ストンと、理解した。
「……アキラ様のお怪我は、それほど酷かったんですか?」
夕食後、明日の打ち合わせが終わり、天幕に入っていったアキラ様たちを見てから、オットー団長に聞いてみた。
団長は眉間にシワを寄せながらため息をつくと、リクシー副団長に何か指示を出し、私と向き合ってくれた。
「私から全てを話すことはできませんが、生死の境を彷徨うくらいの大怪我でしたよ。ああやって笑って話すことも、動くことができるようになったのも、食事を摂ることが出来るようになったのも、ごく最近です。……なので、くれぐれも、アキラさんの負担になるようなことはしでかさないでいただきたい」
流れるように言われたことを頭の中で咀嚼した。
……そんなことがあったなんて。
殿下は、よくアキラ様を同行させる決断をされたものだ…。私なら、城の奥深くに閉じ込めておきたくなるだろう。
「カーラー殿」
「はい」
「……くれぐれも、殿下方の天幕には近づきませんよう願います」
「……ええ、それは、はい」
怪我をしていたとはいえ愛しい婚約者が傍にいるんだ。男としてはそうすることは必然。私もそこまで馬鹿じゃない。
………………と、思っていたのだが。
まぁ、なんだ。
好奇心というか。
寝付けなかったというか。
天幕の中には団長と副団長の姿はなく、深夜に交代する関係もあり、休める者は既に休んでいる。
私は夜警に関しては振り当てられていないため、朝まで休んでていいのだが、足音を忍ばせて天幕を出た。
殿下方の天幕は、私達の天幕から少し離れた場所に設置してある。
周囲には十分警戒しながら、なんとなく……なんとなく、殿下方の天幕に歩み寄った。
……まあ、静かだった。
私が想像していたようなことはなかったのかと思いながら、もしかしたらアキラ様の寝顔が見られるんじゃないかと邪な思いにかられ、天幕の入り口の重い布を僅かに開けた。
「あ、あ」
その途端、聴こえてきた艶のある声。
薄っすらと灯されたランタンの明かりに照らされた、アキラ様の綺麗な背中。
喉が鳴った。
暗がりで細部は見えなくとも、殿下の上に跨がり、殿下の一物の上にその細い腰をおろしていく姿ははっきりと目に捉えることができた。
すぐに立ち去ればよかったのに、私の足は動かなかった。
あの艶やかな姿を、もっと、もっと見ていたい。
理性を失わせるほどの美しい肢体。背中だけでなく、全身をこの目に映すことができたなら――――私は死ぬのかもしれない。
はっと我に返ったときにはすでに遅かった。
暗がりの中、明らかに殿下と目が合った。その頃にはアキラ様の美しい背中は肌掛けで隠され、艶やかな声も口付けの中に閉じ込められていて。
――――ああ、まずい。
殿下の視線にぞくりと悪寒が走り、入り口の厚布を戻し駆け出した。
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