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閑話 ①

閨事考察 ◆クリストフ

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*4章おわりくらいのお話です*








『夜の生活に刺激がなくなると夫婦は長続きしない』



 ………という話を聞いたことがある。
 正直、俺は今まで閨事に全く興味はなく、そもそも妻を娶るつもりもなかったから興味の持ちようもなかった。
 だが、今は違う。
 誰よりも何よりも愛しい者が腕の中にいる。
 体調を気遣うフリをして、毎夜その身体を求めてしまう。性欲とは無縁だったはずなのに。
 あの情欲に濡れた黒い瞳で見上げられるだけで、俺のペニスは硬く張り詰めていく。
 まだ婚姻関係を結んだわけではない。けれど、アキは俺との関係を『伴侶のようだ』と言ってくれた。ならば、世間一般的な夫婦と変わりはない。
 俺はどれだけアキを抱いたとしても、飽きることはないし、愛しさが増すばかり。
 だが、アキはどうなんだろう?




「ん……」

 兄上の婚姻式のあとから、抱く頻度が増えた。
 以前のように毎夜とは行かないが、アキの体調や様子を見ながら、己の欲をぶつけてしまう。
 今夜も数度アキをイかせ、自分も一度アキの中で果て、熱い吐息を漏らすアキを腕の中に閉じ込めていた。

「クリス…」

 アキは何かを言いたそうにしながらも、口をつぐみ、溜息を漏らした。
 それを感じた瞬間、『夫婦は――――』の言葉が脳裏を埋め尽くした。

「アキ?」

 覗き込めば、不機嫌な表情。
 背中をダラダラと冷や汗のようなものが流れる気がした。
 アキも悦んでいたように思えたのに、何か不満があるのか――――

 このまま今日は終わろうかと思っていたが、これは駄目だ。

 まだ埋めたままだったペニスを引き抜くと、アキはまた眉間に皺を寄せて不機嫌そうな表情をする。
 そんな顔はさせたくなくて、頬をゆっくり撫で、不満を表す唇に口付けを落とした。
 むすっと引き結ばれたままの唇を舐めれば、薄っすらと開いていき、舌を潜り込ませる。
 そのうち、まだ動かしにくい左手も俺の首に回されていった。
 溜まった唾液を飲み込む音がして、唇を啄むように離れると、アキの目元は朱に染まっていた。けれど、その目はまだ不満の色を湛えている。

「アキ」

 閨事――――身体を重ねることだけが愛情を確認する手段ではないし、それだけを望んでいるわけでもない。けれど、これも一つの手段だ。なのに、アキは何かを不満に思い、険しい表情のまま。
 ……誰かに相談することもできない。恐らく、レヴィに相談を持ち掛ければ、それなりの返答は戻って来るだろうが、ばれたらアキに何を言われるかわからない。
 やはり自分で解決しなければならないのだと思い直し、とにかくまずはアキを善くさせることにする。

「アキ」

 耳は、アキの弱いところの一つ。
 吐息を吹き込むように囁やけば、身体はしなり熱い吐息を漏らす。

「ん……」

 耳朶を甘噛みし、穴の中に舌をねじ込めば、身体は大きく震えた。

 ……そうだ。
 『刺激』が足りないというのなら、与えればいい。

 首筋に唇を這わせながら舌で舐めあげる。
 情愛の証として柔らかな皮膚に吸い付き、赤い痕を散らしていった。吸うたびにピクんと跳ねるアキが愛しい。

「ん……、クリス」

 吐息が甘い。
 まだ薄っすらと赤味の残る左肩にも口づける。

「んんっ、んぁっ」

 傷跡は更に皮膚が薄いのか、首筋よりも声が上がる。

 胸元まで唇で辿れば、早鐘のような鼓動を感じた。
 桃色を越して赤く色づく乳首を唇で食む。

「ん……んぅっ」

 艶を増していくアキの喘ぎ。
 舐めるよりも、優しく食むよりも、甘噛みされるのが好きだろう?
 痛くない程度に硬く勃った乳首に歯を立てる。

「ひあぁぁっっ」

 甘噛みして、敏感になった乳首を吸い上げて、また甘噛みを繰り返す。
 反対側の胸にも手を這わせ、全体に揉み込み、寄せるように乳輪の外側から乳首に向かってつまんでいく。

「あっ、あぁんんっっ、それ、だめっ、やぁっ」

 こうやって乳首を責めるだけで、アキのペニスは硬く起立し、先走りを流し始めることを、俺はよく知っている。
 指でいじっていた乳首を口で愛撫し、背筋が弓なりに反った所で、背中に手を回し、背筋を腰から上にかけて指先で辿った。

「ひぅ……ん」

 感じ始めたアキは、どこに触れても喘ぎを漏らす。背中も、例外ではなく。
 ぶるりと震える身体は、快感を得ている証拠。
 アキの目元に涙がにじみ始めた頃、唇をまた移動させた。
 丁寧に。
 脇から側腹に。鳩尾から臍まで。

「やぁ……なんか、くりす……っ」

 擦り合わせていた膝に手をかけ、足を開かせる。
 濡れそぼったペニスにむしゃぶりつきたくなるが、その衝動には耐え、足の付根に何度も吸い付き痕を残した。

「も……やぁ……んんっ、や、やぁ」

 ここも、感じるのか。
 指先で撫でながら、唇で吸い付いていると、こぷりと愛液が溢れ出してくる。
 目の前にさらされている蕾は、ひくひくと蠕き、次を待っていた。
 ……こんなに俺を求めているのに、不満そうな顔をするのか?

 見れば見るほど小さな蕾。
 ここが俺のペニスを飲み込み、ギリギリまで広がるのか。
 閉じた蕾に指を這わせれば、そこは柔らかく、簡単に指を咥え込もうと蠢いてくる。

「やぁ……くりす、やら、やらぁ……」

 改めて指を舐めて濡らし、最初から二本を蕾の中に潜り込ませる。

「ひぁ…んっ」

 さっきまで俺のを咥えていた場所だ。
 中は俺が放った精液で濡れ、吸い付いてくるようだ。
 アキが感じる場所は、もう覚えている。
 指で届く場所にある痼を、押しつぶすように指先で弄れば、息を詰めたアキが長く吐息を漏らす。

「あー…、やぁ、ん、んん……」

 痼を指で挟むとどうだろうか。爪で引っ掻けば?
 思うように指を動かすと、アキの身体はビクビク震え、軽くイっているようだった。

「くりす……やぁっ」

 流石に指では奥のす窄まりまでは入らない。
 水音をさせながら内腔を指でかき混ぜる。
 アキのペニスは震え、シコリに触れるたびにコポコポと蜜を溢れさせた。
 アキはどこが一番感じるだろうか。
 シコリを弄るときの反応はいい。そこだけでイけるほどに。
 奥の窄まりに埋め込めば、一瞬意識を飛ばすほどの快感を得ているようだし。
 そういえば、いつも蕾を散らすことばかりで、臀部にはあまり触れてないな。
 指を引き抜きそのまま割れ目を辿り、両手で臀部を揉んでみた。
 柔らかいのに程よく弾力があり、心地いい。小ぶりで形もいい。今度じっくり見てみるか。

「くりす……ねぇっ」

 ……それにしても本当に気持ちいい。
 ペニスを挟み込んで寄せれば、内宮とは違う快感を得られそうだ。
 いや、それなら太腿はどうだろう。
 うつ伏せにして腰を高くさせて、足を閉じさせる――――ああ、駄目か。今のアキには辛い体勢だろうから…。
 もう少し身体がよくなれば、試してみてもいいかもしれない。
 閉じた太ももの間にペニスを挟み込んで動かせば、陰嚢の裏やアキのペニスの裏筋を擦り上げることができるはず。シコリを嬲るような快感はないだろうが、普段やらない方法で刺激を与えれば、アキもいつもと違う快感を得られるだろうし。

「くりすってば……っ」

 裏筋……アキの弱いところの一つだな。
 下から指先でなでるだけで、先端からは蜜をこぼし始める。ピクンピクン震えるのが可愛い。
 アキのペニスは手に馴染む。小さいとかそういうことではなくて、触れるだけで吸い付いてくるように感じる。
 舐めるのもいい。
 亀頭に吸い付けば、短い呼吸を繰り返し、シーツをこれでもかと握りしめる。快感と羞恥をこらえているのだろうが、その様子に唆られるから、余計にしたくなる。
 亀頭を吸いながら鈴口に舌先をねじ込むように動かせば、また身体が跳ねる。
 狭い穴には舌も指も入らない。
 それは当然なのだが、この中に挿れることができる淫具があれば、アキはどれだけよがり乱れるだろう。
 閨指導の時に、相手を楽しませる一つの手段として、淫具を使うこともできると言われたが、興味もなかったから深くは聞かなかったな。……確か、ゲールデンでは色々な種類が作られているのではなかったか。
 乱れるアキは綺麗だが、アキの中に俺じゃない物は挿れたくないな…。いや、でも、一度くらいゲールデンから取り寄せてもいい、だろうか――――

「もー……っ、くりすっ!!!!」
「ん?」

 突然大声で呼ばれ、亀頭から口を離した。
 アキのペニスは固く張り詰めたままだが、どうにもアキの表情は不機嫌丸出しで、また背筋が冷たくなる。

「あのねぇ、する気がないなら触らないで!!俺に触りながら心ここにあらずで何考えてるわけ!?焦らすだけ焦らして、それだけって、焦らされる俺の身にもなってよ…!!」
「え?」
「バカクリス……っ!!俺のこと抱くつもり無いなら、もう触んないで…!!」
「アキ、落ち着け…」

 確かに、今日はもう抱かないように…と思っていたが、抱きたくないわけでもない。
 焦らしたつもりもない。ただ、アキがどこで感じるのか確かめていただけで。
 考え事…に関しては、それは、そうなのだが…。

「俺のこと嫌になったならそう言ってよ…。面倒なら面倒って言ってくれなきゃわかんないよ…」
「俺は一度だって、面倒だとか嫌だとか思ったことはない。いつだって触れたくて仕方ないんだ。……だが、アキだって、俺とのこの行為に不満があるんだろう?」
「不満…?」
「ああ。だから、あんなに不機嫌そうな顔をして……」
「あ、あれは……っ」

 言いよどみ、顔を赤くさせながら、アキが俺から視線を外した。

「……っ、だ、って、クリス、………して、くれないから……っ」
「ん?」
「俺の体調がまだ良くないとか、治りきってないからとか、すぐ熱を出すからとか、そんなことばっかり気にして、い、一回出しただけで、お、おわらせようと、する、から…っ」

 ……思っていた内容と違う。
 アキの表情を見ていれば、嘘ではないとわかるが…、どういうことだ。

「……もっと、抱いてほしいのに……っ」
「抱いていいのか……?本当に、俺に抱かれるのがつまらなくなったわけではなく?」
「ど、どしてそんなことになるのさ…!」
「いや……、だから、閨事に刺激がなくなると、夫婦は不仲になるのだろう…?アキとはまだ婚姻は結んでいないが、気持ちの上では既に伴侶だ。……だから、アキが不機嫌なのはその刺激が足りないからだと…」
「それって要はエッチがマンネリ化すると仲が悪くなるってやつだよね?」

 アキの世界の言葉らしいもので意味がよくわからないが、恐らく、俺が言ったことと中身は同じなんだろう。
 アキは俺を見てはぁとため息をつくと、両手で俺の頬を挟んできた。

「あのね」

 アキが俺に口付けてくる。

「俺ね、クリスが好き」
「アキ」
「それから、クリスが俺にしてくれること、全部好き」
「……ん」
「マンネリとか……そんなの、ないから」
「……アキ」
「確かにまだ、身体……、全部良くなったわけじゃないけど……、それでも、いっぱい、だ、いて、ほしい、し」

 顔を、真っ赤にしながら。

「……何度も言うけど、本当に、誤魔化してるとかじゃなくて、……クリスが
すぐやめちゃうのが、不満……だっただけで」
「ん」
「いつものように、抱いて?」
「アキ」

 まだ動かしにくい左手を、必死に俺に絡みつかせ、耳まで赤く染めてねだってくる。

「ん……アキ、愛してる」
「俺も……、大好き」

 なんだ、そういうことかと納得しつつ安堵しつつ。
 唇を触れ合わせ、舌を絡め、一方的に弄り倒した身体に手を這わせる。
 仕切り直し、の、ように。

 ……ああ、でも。
 万が一は、起こるかもしれないから、ゲールデンには問い合わせておこうかな。






**********

クリスハヘタレ…

ベッドサイドの棚に玩具が追加されるのは遠くない未来……。


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