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第3章 遠征先でも安定の溺愛ぶりです。
15 腕の中の安心感
しおりを挟む今回の遠征の目的は、魔物討伐兼調査。
西側の森の中での魔物目撃情報や、森を行く商人が襲われたという報告が上がってきた。それから、西の森近隣の村では、畑が荒らされたり家畜がいなくなったりしているとの報告もある、って聞いた。
距離的に王都にも近くて、一度討伐を兼ねた調査に向かうことになった。
確かに、王都に近いっていうのは色々と危険だもんね。魔物の危険度や種類によっては、王都が目茶苦茶になるわけで。そんなことになったら、国が機能しなくなる。
事前調査では、それほど驚異的な魔物は確認されなかったようだけど、足跡とか樹木の傷痕から、それなりの数がいそうなんだって。
だから、数には数を!ってことで、今回は冒険者ギルドへの依頼になったらしい。国の兵士を動かさないのは驚異度の問題。あと、冒険者ギルドとの関係性を保つため。そして、魔物に関しては、兵士よりも冒険者のほうがより実戦的な知識を持っているから……っていう理由があるんだって。これが、盗賊とかになると、話は変わってくるらしいんだけどね。
冒険者かぁ。どんな人たちだろう。やっぱりむさ苦しい男の人が多いんだろうか。……いや、でも、それは偏見だよね。エルフさんとか、ドワーフさんとか……、いるのかな?あ、リカント――――獣人とか!?
「ね、ね、クリス」
「ん?」
「この世界って、獣人さんとかいないの!?」
「じゅう……じん?」
「うん!獣が人形に進化した人。動物の特徴を持っていて、頭がまんま獣だったり、ぱっと見人だけど、獣耳とかしっぽがあったり!」
「ふむ……」
手綱を握りながら、クリスが考え込んでしまった。
「…期待を裏切るようで悪いが、そういった種族は聞いたことがない」
「そっかぁ」
「すまない…」
「え!?いや、クリスが謝ることじゃないでしょ!?ただ、いるなら会ってみたいなぁって思っただけだし」
「アキの国にはいたのか?」
「いなかったよ。俺がいたとこには、人間しかいなかったから」
そう言ったら、何故か頭にキスされた。
「……相変わらずアキの知識はよくわからないな……」
……これは、褒められていない。呆れられてる方だ。
「むぅ」
だってさ、獣人、かっこいいじゃない……。でも、だとしたら竜人とかもいなさそう。ま、聞きませんけど!
ちょっとクリスに体重を預けて、水袋を手に取った。飲みすぎないように、二口だけ。
クッションのおかげかお尻は痛くないし、かなりのスピードだけど寒くもなかった。
2つの太陽が中天に差し掛かった頃に、一旦休憩になった。
比較的平野が続いている場所で、街道から少し外れたところで足を止める。
あまり長い休憩は取れないから、食事は果物とか干し肉とか、簡易的なもの。
クリスに降ろしてもらって、そのまま横抱きで移動させられました。…ちょっと腰は痛くなってきてたから、助かるけど。
隊員さんたちは、食事の準備をする人、馬さんたちのお世話をする人、周囲の警戒に立つ人に分かれてる。何をするにもこの人たちは手際がいいし素早い。
クリスは俺を抱えたまま適度な場所に腰を下ろした。俺はクリスの膝の上。……微妙に恥ずかしいけど、もういいや。文句を言うのも今更って気がしてしまう。
「アキラさん、どうぞ」
「ありがとうございます」
オットーさんが手渡してくれたのは、葡萄もどきと干し肉。
クリスは俺の手元から葡萄もどきをちぎると、それを俺の口に押し当ててきた。俺はまぁ、躊躇いなくそれを食べるわけですが。
「美味しい」
甘くてみずみずしくて。やっぱりこれ好き。
何口かそうやって食べてたら、顎を掴まれてクリスにキスされた。
口の中に葡萄もどきを入れてたみたいで、舌と一緒に、半分くらいに砕かれたそれが入ってくる。
「ん……」
軽く咀嚼して、飲み込む。今朝ぶりのキス、気持ちがいい。
流し込まれる唾液も飲めば、身体の中にはどんどん温かいクリスの魔力が満ちていく。心なしか腰の痛みも引いていくみたいだった。不思議。
「クリス…」
唇が離れてからも少し甘えてしまった。クリスの服にしがみついて、ぎゅって抱きしめてもらう。
落ち着く。そして、やばい。眠くなる。
クリスの服越しに伝わる体温とか心音とか。体の内側から温めてくれる魔力とか。
朝早くて、それなりに緊張する乗馬で疲れて、眠くなるなという方が難しいよね…。
「眠れそうなら寝てていい。絶対に落とさないから」
「ん……」
クリスの魔力がポカポカすぎるんだよ…。
せめてヴェルに乗るまでは…と思って、目をこすっていたら、手を止められて目元にキスされた。
時間にしたら、多分30分くらいの休憩。
作業していた隊員さんたちも交代で食事を摂っていて、食事を終えた隊員さんから順次馬さんに乗り始める。
クリスの膝の上でそんな光景を見ていたら、クリスも立ち上がった。もちろん、俺は抱っこされたまま。
そのままヴェルのところに行くと、ヴェルは俺たちを見て前足をおって上体を低くしてくれた。
「ありがと、ヴェル」
首をなでて、クリスに乗せてもらう。
しっかり跨って落ちないように手綱を握ると、ヴェルはしっかりと立ち上がった。
「またよろしくね」
なでながら言えば、彼女は優しい目を俺に向けてくれた。
それから、クリスが俺の後ろに跨り、周囲を見渡す。
全員の準備が整ったのを確認して、すっと右手を上げた。
その合図だけで隊は動き出す。
「アキ、身体を預けてていいから」
「ん…でも」
「心配いらない。それとも俺とヴェルは信用できないか?」
「そんなことない」
「それなら、何も問題ないな?」
右手で頭を撫でられた。
スピードが出始めた馬上で、マントでぐるぐる巻にされて、お腹に回った腕に抱きしめられる。
俺は身体から力を抜いて、クリスにもたれかかった。
「クリス……好き」
「愛してるよ」
頭にキスを落とされて、俺は目を閉じた。
半日だけでも俺はかなり疲れていたみたいで、揺れる馬上で眠れるのか不安しかなかったけど、案外あっさりと眠りに落ちたらしい。
クリスの腕の中の安心感、半端じゃないね……。
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