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第3章 遠征先でも安定の溺愛ぶりです。

12 俺も、守りたいから。

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 現状、治癒魔法は無理な気がする。だったら、抑える方に全力出さなきゃ。自分にできることを、全力で。

「鍛えていい?」
「それは構わない。アキはもう少し筋肉をつけたほうがいいだろうし。……ああ、だが」
「なに?」
「俺のようにはならなくていいからな?…騎士並みの筋肉質な身体のアキは、正直想像ができない…」
「う、ん。多分、俺も、そこまでにはなれないと思うし、ならなくていいよ…」

 全く想像できない。
 俺としては、こんなふうにクリスの腕の中にすっぽり包まれる今の大きさがいい…。筋肉もりもりな身体になったら、こんなふうに甘えられないよ…。
 あー、でも、お腹ちょっと割れるくらいがいいなぁ…。ちなみに、クリスは綺麗にシックスパック。

 なんとなく、ぐりぐりと頭をクリスの胸に押し付けてから、傷が…!って思い出した。
 傷を抉るような動きだと思って、慌てて離れたら、クリスの手に引き寄せられてしまった。

「クリス、ごめん」
「ん?」
「傷のとこ…痛かったよね?」

 抱きしめられたまま項垂れていたら、クリスの笑い声。

「擽ったいだけ。痛くないからそんな顔するな」
「でも…」

 言い淀んでいたら、軽いリップ音を立てて、唇にキスをされた。

「本当に大丈夫だから」
「ん」

 クリスがそう言うなら信じよう。
 ……くっついていたいし。

 クリスは俺の背中や腕を触ってくる。
 そして、苦笑交じりの声。

「俺としてはこのままのアキでいいんだけどな」

 それは身体を鍛える云々のことですか。
 今の俺のまま…だと、あまりにも……。

「弱っちょろいじゃん。今の俺」

 背だってそんなに高くない。…平均身長体重はあったはずなんだけど、この世界の人はガタイが良すぎる。だから、余計俺が小さく感じる。
 …もしかしたら、俺の周りにはクリスを始めとした身体を鍛えてる職業の人ばかりだから、そう感じるのかもしれないけど。

 せめてもう少し筋肉が付けば…、体力が付けばいいんだけど。

 クリスは俺の葛藤を知ってか知らずか、微笑んで、俺の顔を挟み込むように、両手を頬に当ててきた。

「アキを見てると『守らなきゃならない』って気分になる」

 優しい目。
 クリスの本心なのはわかる。

「守ってもらってるのは…わかってるよ。でも、嬉しいけど…俺もクリスのこと守りたい」
「ん…。それなら、二人でなんとかしよう。アキだけの問題じゃない。俺の問題でもあるんだ。アキが鍛えたいと言うなら、俺も邪魔はしないし、手伝う。ただ、な?」
「うん?」
「一人で突っ走るなよ?アキは一人じゃないからな?俺を頼ってほしい」
「うん!」

 やっぱり、クリスは俺がほしい言葉をくれる。

「クリス、大好き」

 膝立ちになって、クリスの首にしがみついた。
 ぽんぽんって背中を撫でられて、思わず「ふふ」って笑ってしまう。

「遠征中も筋トレはずせない………あっ」
「アキ?」
「クリス、今日、出発……!!!」

 ひっついてぐだぐだしてたけど、もう結構日が高い。確か、早朝に出発する予定だったはず。時間…やばい…!!

「大丈夫だから」
「大丈夫って、何が!?あ、もしかして、俺、暴走したから、魔力安定してない?もしかして、魔法使えない?」
「まあ、魔力はまだ回復してないだろうな」
「……じゃ、じゃあ……、俺、留守番……かな……」

 行きたかったのに。
 クリスの傍で、できるだけのサポートしたかったのに。
 悔しくてじわっと涙が浮かんできた。

「ごめん……、クリスだけ遅らせてくれたんだね。俺、もう大丈夫だから……」
「アキ」

 うなだれてた俺の頬を両手で包んで、上向きにされた。
 目の前に、苦笑したクリスの顔。

「出発は明日になった」
「……そっか。うん。わかった…。怪我……しないでね……」
「一緒に行かないのか?」

 言われた言葉を何度も頭の中で繰り返してしまった。

「…だって、俺、魔力が…」
「アキはどうしたい?行きたくないなら留守番してていい。兄上が面倒を見てくれる」
「……だって、だって」
「アキの本音は?」
「……行きたいっ、クリスの傍にいたい……!」
「なら、俺の傍にいたらいい」
「うん……!」

 いてもいいんだ。完全な足手まといにしかならないのに。

「もともと、お前にはあまり魔法を使わせる気はなかったからな。それより、お前の魔物知識の方を当てにしてる」
「魔物知識…」
「お前の知識で俺たちを助けてくれ」
「……うん、それならいくらでも……!!」

 よかった。クリスの役にたてるの、魔法だけじゃなかった…!

「クリスっ」
「お前がいれば俺のやる気も上がるしな」

 大事だろ?…って。
 うん、うんうん。嬉しいっ!クリスが俺のことを必要としてくれてるから。

「クリス…クリスっ」

 嬉しすぎて、唇を重ねた。
 チュ、チュ、って、音を出しながら、舌を絡めた。
 クリスの腕はしっかりと俺を抱き締めてくれてる。

「お前の魔力のことは心配しなくていい」

 キスの合間に、吐息にまじりながらクリスが呟いた。
 なんで…?って首を傾げたら、今度はクリスから唇を重ねてくる。

「ん……、んっ」
「明日までに十分補充できるだろ?」
「ぇ……」
「今日一日俺は休みだからな。アキとずっとこうしていられる」

 ほんのわずかに唇を離して、クリスの唇は楽しそうに笑みの形をとった。

「俺の魔力をお前に注いでやる」

 そんな言葉に俺が速攻陥落したのは……、言うまでもない……。


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