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第4章 怪我をしたら更に溺愛されました。

11 ラルは深読みはしない ◆クリストフ

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「殿下、そろそろ左肩を動かそうと思うのですが」

 アキの治癒に来ていたラルが、そう告げてきた。
 ラルにはアキが起きてる時間が長くなり始めた頃から、昼前と夕方前の時間で来てもらっている。
 大体はアキが眠っている時間帯だ。

「動かしても大丈夫だろうか」
「大丈夫だと思います。ただ、かなりの激痛を伴うと思うので…、できれば店主さんにも来てもらいたくて」
「レヴィに?」
「はい…。こういうことは、店主さんが詳しいというか、慣れてるというか…。肩を動かすときに僕が癒やしの力を使い続けます。殿下だと、痛がるアキラさまの肩を動かし続けるなんて、できないでしょう?なので、殿下にもアキラさまに癒やしの力を流してもらいたいんです。あ、なだめるだけでもいいですけど」

 確かに、俺がやるとアキが痛がったらそこでやめてしまいそうだ。その点、レヴィなら……。

「わかった。ラルから伝えてもらっていいか?明日の昼食後で」
「はい」

 アキの肩に手を当てていたラルが、一度大きく息を付き、手を離した。

「それにしても……、アキラさまの肩、ここまできれいになるとは思っていませんでした…。僕、もっと酷い傷跡になると思ってたんです」
「……俺もだよ」

 昨日風呂場で全身を見たが、左肩はなんの違和感もなかった。あるとすれば、ほんのりと赤みが差していることと、右の腕に比べて左の腕のほうがやや細いことくらいだ。

「いくら癒やしの力を使ったとしても、あれほどの怪我がここまできれいになることなんて、普通ならありえないんですけど……、女神さまのご加護かもしれないですね」
「ラルが女神様に愛されているからだよ」
「そんなことないですよ」

 ラルは心の底からそう思っているのだろう。
 女神の使徒の色を持って生まれた、神官になるべくしてなった存在だというのに。
 まあ、それがラルフィンなのだから、とやかく言うことじゃない。……あの幼馴染たちが一番よく理解しているだろうし。

「あ、それから、殿下」
「なんだ?」
「長湯はだめだと申し上げたはずですが」
「………いや、長湯は」
「アキラさま、少し水分が足りていません。昨日よりも体調が悪くなっておりますよ?僕の目は誤魔化せませんから!」
「…………………すみませんでした」
「ほんとに気をつけてくださいね!久しぶりのお風呂が気持ちよかったのかもしれませんが、アキラさまのお身体にはかなりの負担になることをちゃんとご理解くださいっ」
「…………………………はい」
「明日はそれでなくてもお身体に負担がかかるのですから、今日はお風呂は駄目ですよ!全くもぅ……っ!」

 確かに、今日のアキはいつもより眠ってる時間が長い。体調が悪かったのかと、改めて気付かされた。
 …多分、アキの体調が悪いのは、風呂のせいじゃない。どう考えても、俺のせいだ。我慢しきれずに触れて、散々触れて、触り倒して意識まで飛ばさせてしまった。

 ラルは素直に「長湯した」と思ってるんだろうな。これがレヴィやあの幼馴染みたちなら、長湯したせいとは思わないだろうに。

 ……まあ、とりあえず、少しは反省しよう。

「では、殿下。くれぐれもお願いしますね。今日はそろそろ帰ります」
「ああ。ありがとう、ラル。二人にもよろしく」
「はい」

 ラルは怒ったときの表情とは裏腹に、すっきりした顔で頷き、寝室を出ていった。昼前から言いたかったんだろうな……恐らく。

「あのラル相手には隠し事なんてできないな……アキ」

 頬を撫でると、くすぐったいのか身をよじった。…起きる気配はないけども。

「女神様のご加護か…」

 アキが動けるようになったら、神殿に行こう。久しぶりに女神様に感謝の祈りを捧げてもいいか。
 あの神殿長は信頼できる。
 異世界から来たアキに、この国のことを、この世界のことをまた一つ知ってもらえる。
 この世界を好きになってほしい。
 自分がこれから先、住んでいく世界だと思ってほしい。
 これほど酷い目に合わせてしまったけれど、それでも嫌わないでほしい。
 命も繋ぎ止めたい。
 アキの存在そのものも、手放したくない。
 その思いは変わらない。

「アキ…」

 やりたいことが、一つ増えたよ、アキ。
 少し潤った唇を指で撫でる。

「ん……くりす……」

 眠りながらも微笑むアキに、そっと口付けた。


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