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第2章 お城でも溺愛生活継続中です。
40 お昼は甘えてます
しおりを挟むどういう手筈だったのか、メリダさんが昼食の準備をしてくれた。オットーさんは一旦隊舎に戻っているから、久しぶりにクリスと一緒の食事。
「アキと食べたほうが美味いな」
そんなことをため息と一緒に言うもんだから、どうしたってニヘラ…って変な笑みを浮かべてしまう。
「俺も、同じ。昨日一日だったけど、…寂しかった」
「アキ」
「あ、でも、メリダさんが一緒にお茶してくれたり、オットーさんもザイルさんも一緒に食べてくれたり、良くしてもらってたよ」
できる限りクリスに気を遣わせないように…って言ったのに、クリスがイラッとした表情を見せたものだから、慌ててしまった。
「えっと、クリス?なんか俺…」
「俺はアキと食事を共にすることすらできなかったのに、どうしてあいつらがアキと食事を楽しんでるんだ」
……凄く苦々しい顔で言われた内容に、一気に身体から力が抜けた。
「それは坊っちゃんが仕事を放棄していたからでしょう。オットーさんもザイルさんも、アキラさんが寂しそうにしていたから、私の提案を受けてくださっただけですよ」
…ピシリとメリダさんに指摘されて、クリスは軽く舌打ちする。
相変わらずメリダさん強い。
「アキラさんのことを思うなら、せめてお食事だけでも一緒に取れるように、時間を調整するべきです。昨日一日、アキラさんは、本当にとても頑張っていたんですからね」
「……知ってる」
クリスの手が俺の頭をなでていく。
「アキ、すまなかった」
「え」
「急ぎのものは片付けたから、これからは食事はアキと取れる」
「本当に?」
「ああ」
嬉しいな。
嬉しすぎて、食事中なのにクリスの左腕に抱きついた。
クリスは俺を離すようなことはなくて、果物を口元に運んでくれる。まあ、果物だけじゃなくて、パンも野菜も、全部食べさせてくれるのだけど。
メリダさんからは「やれやれ」って感じのため息が漏れるけど、指摘はされない。ちょっと視線が合うと、目を細めて微笑んでうなずいてくれる。
これは、思う存分甘えてていい、ってことかな。やっぱりメリダさん、俺には優しい。
自分の手を使わない食事を終わらせて、食後のお茶を飲み始めたあたりで、オットーさんとザイルさんが戻ってきた。
クリスは二人に向かい側のソファに座るよう促し、メリダさんは座った二人の前に淹れたてのお茶を出す。
「ザイル」
「はい。魔法師の数が少なくなったのは、大体三十年ほど前からです。そのあたりで、大規模な掃討戦が行われ、平民出自の魔法師が五名亡くなっています」
クリスの指示に対する報告だった。
午前中に調べてたんだ。
「以降、平民からの申告が減っています。ですが、年に数人の不審死がでてました」
「不審死……魔力暴走か?」
「記録を見る限りでは、そう考えるのが妥当かと」
そこまで聞いて、クリスは顎に指を当てて考え始めてしまった。
横顔は酷く真剣。頭の中で考えをまとめているような、そんな雰囲気。でもすぐに、ザイルさんに視線を合わせる。
「ザイル、報告書を。兄上に相談する。俺一人で動いてどうにかなる案件でもなさそうだ」
「至急用意します」
ザイルさんはお茶を飲みきってから立ち上がり、部屋を出ていった。休憩短いけど大丈夫かな?
クリスは天を仰ぎ見て、息をついてから、俺を見た。
「始めるか」
頬に手が添えられて、そのままキスが降りてくる。舌が入り込んでくれば、湿った音は出るし、吐息が漏れてしまう。
目の前のソファにはオットーさんがいるし、メリダさんもいるし、恥ずかしくないわけじゃない。けど、それ以上に気持ちが良くて拒絶することはできない。
「ん……」
俺の喉が鳴ったのを確認して、クリスの唇が離れた。
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