上 下
31 / 560
第1章 魔法を使ったら王子サマに溺愛されました。

30 愛しくて仕方ない ◆クリストフ

しおりを挟む



 アキを抱き上げたまま部屋を出た。
 身体を重ねたというのに、これくらいのことに恥ずかしがる。

 腕の中でジタバタ暴れるアキに口づけた。口内も感じやすいのか、丁寧に愛撫していくと抵抗はなくなり、体から力が抜け落ちる。…中心部分が僅かに反応することもよく知っているが、やめられない。

 唇を離すとほんのり上気する頬が目に映る。

 とろんとした目元を見ているだけで、己の欲が起き上がりそうで、苦笑してしまった。

「……クリスのばか……」

 ぽそりと呟いて、俺に体を預けてくれる。
 そんな悪態も可愛らしい。

 階下に降りると、既に兄上が朝食を摂っていた。
 俺たちに気づくと、ひらひらと手を振ってくる。

「おはよう。体調はどう?」
「おはようございます。多分、昨日よりいいと思います。昨日はご迷惑をおかけしてすみませんでした」

 兄上の向かいの椅子におろした途端、バカ丁寧に頭を下げるものだから、俺も兄上も苦笑してしまった。
 アキは俺たちを見ながらキョトンとしている。

「いや、アキラの問題ではなくて、私達が気遣えなかった結果だから。そんなに謝らなくていいんだよ」

 兄上がそう言っても、アキはあまりわかっていないようで、複雑な表情をしていた。

 そんな話をしている間に、朝食が運ばれてきた。俺には普通の食事が用意され、アキの前にはパン粥が置かれる。

「アキ」

 スプーンで掬って口元に運ぶと、むっとした表情をしながら、口を開けた。

「…自分で食べれるのに」

 一言目の文句は忘れない。微笑ましいし、ほんのり朱に染まる頬を見ていると愛しさがこみ上げてくる。

「美味しい」

 不機嫌な顔はすぐに綻んだ。口元に笑みが浮かび、本当に美味しいと感じていることがよくわかる。
 アキは一口目をよく味わい飲み込むと、なんら疑問もなくまた口を開けてくる。

 ……兄上がこらえきれずに笑い出した。

 二口目もなんの躊躇いもなく食べ始めたアキは、兄上のそんな様子を不思議そうに見る。

「気にするな。ほら」
「ん」

 アキは、何をするにも文句ははじめだけだから。

「食べ終わったら出発するよ」

 笑いすぎてたまった目元の涙を指で拭いながら、兄上が告げてきた。

「わかった」
「それじゃ、私は先に戻るかな。二人の邪魔はしたくないしね。ああ、それと、クリストフ」
「ん?」
「仕方ないとは思うけど、ここは城じゃないからね?壁が薄いんだから気をつけてほしいよ。夜中とはいえ、誰が聞くかわからないんだから。それとも、アキラの可愛い声をみんなに聞かせたいのかな?」

 …アキがむせた。
 顔を真っ赤にしたアキの背中をさすりながら苦笑する。

「それは…すまなかった」

 兄上は呆れた顔で肩をすくめて、ひらひらと手を振り部屋へと戻っていった。

「………穴に埋まりたい………」

 テーブルに突っ伏したアキの頭を撫でて、笑いをこらえた。
 ……本当に。可愛くて、愛しくて、仕方がない。
 俺はまだまだアキを好きになるんだろう。


しおりを挟む
感想 541

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

処理中です...