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どうやら転生するようです
5 チートはいらない
しおりを挟む■side:篤紀
咲人かピリピリしてる。
うっかり咲人に抱き込まれてるけど、これって、抱かれる方が抱く方に守られてるっぽくないか!?ってことに思い至り、ぐいぐい胸を押したけど、びくともしなかった。
咲人ってこんなに鍛えてたっけ??
…胸板、厚いし。へらへらしてるようにも見えるのに、しなやかな筋肉に包まれてるし。一人称『僕』なのに、この身体は卑怯だ。俺はあんまり筋肉ないのに。
腕も力強いから、うっかりうっとりとしてしまう。はぁ。落ち着け、俺。
女神を名乗る出歯亀の人は、『転生』やら『異世界』やら『チート』やら、どこぞのラノベだと突っ込みたくなるような話をしてくる。しかも、「そんな話あるよね?」的な、軽いノリで。
なにそれ。
それより、もう少しで咲人に挿れることができたのに、台無しにした責任取ってくれよ。…もう萎えたけど…。
気がついたら白い布の服を着せられていたけど。…咲人の筋肉、格好いいなぁ。白い生地がよく似合ってる。
咲人の腕の中でちょっと現実逃避していたら、凛とすました無理した感じの声が、俺たちにかけられる。
「今から貴方方を私の世界へ転生させます。転生するにあたり、何か望みはありますか。女神の力の及ぶ範囲で、貴方方に祝福を授けましょう」
いや。
祝福とかいらないし。
面倒くさそうなことこの上ないんだけど。
…でも、俺たちを転生させる、ってことだよな?
思わず顔を上げた。
咲人がむすっとした顔してたけど、とりあえず確認しなきゃ。
「それって、俺たち一緒の世界に、ってことなのか?」
「ええ、もちろん」
「どんなとこ?」
「貴方方の世界風に言うのなら、『剣と魔法の世界』と言ったところかしら」
本気でファンタジーだよ。
魔法。……魔法ねぇ……。
……………拘束魔法とかあるかな。咲人の両手を頭の上に拘束して、勃起したペニスの根本も拘束して、喘ぎ苦しんでるのみながらアナルに挿れたら…………。
「篤紀、何かとんでもないこと考えてるでしょ。硬くなってる」
「うぁ!?や、なにも…っ」
「僕に嘘ついたってわかるよ。…やらしいこと考えてたでしょ」
後半、耳に息を吹きかけながら、舐めるように言葉を紡いできた。背中、ぞくぞくした…。
くすくす笑う咲人は、俺の顔にキスをする。いちいち格好いいなぁ…。
「あのさ、あんたのとこで生まれ変わるとして、僕達にデメリットは?」
「そうですね…。貴方方の世界にはいなかった『魔物』と呼ばれるものと戦うこともあるかもしれません」
「他には?篤紀のこと思い出せないとか、恋人にすらなれないとか」
「貴方方が望むのであれば、現世界での記憶は維持したままの転生は可能ですよ?生まれる先も、ある程度は操作できますからね。それに、私の世界では、同性婚は否定されません。流石に男性が妊娠できるようなことはありませんが」
微笑む不審者の言葉に、俺は目を見開いた。
それから咲人を見たけど、咲人も俺を見てる。
「あ…」
「篤紀」
「咲人、俺と」
「「結婚して」」
同じ言葉を同じタイミングで。
やばい。嬉しい。
答えはいらない。
だって、答えたって同じだから。
咲人は凄く嬉しそうに俺をまた抱きしめてくる。
それから、2人並んで手を繋いで、真っ直ぐ彼女を見た。
「なら、転生は受け入れる」
咲人が答えれば、彼女は微笑みを深くする。
「望みは?誰にも負けない魔法の力?何でも斬り伏せることができる剣士としての力?」
もしかしたら、普通の人ならそういうのを希望したのかもしれない。
でも、俺たちには、いらないもの。
「「記憶を残して」」
忘れたくない。
「「確実に出会える運命を」」
咲人が好きだから。
「ええ、いいでしょう。貴方方が確実に出会えるように、私から祝福しましょう。出会った瞬間に、貴方方には現世界の記憶が蘇ります。――――ですが、ここで起きたこと、私に出会ったことは忘れます。それでよろしいですか?」
「「はい」」
「本当によろしいのですね?望めば、一生苦労しない生活も手に入るのですよ?何者にも害されない肉体も、年老いることのない身体も」
「そんなのはいりませんよ。僕は、篤紀と同じ時を同じだけ過ごしたいだけだから」
「そんな『チート』より、咲人との思い出が残る方が、いい。俺にとってはそれに勝る望みはない」
握る手に力が入る。
「わかりました。では、貴方方を、私の世界へ迎え入れましょう。末永く、幸福であるように」
女神の微笑みが消えていく。
『女神アウラリーネの祝福を』
不思議な言葉が頭の中に響く。
俺と咲人は互いに視線を絡め、その『声』を聞きながら、唇を重ねた。
目を閉じて。
そのまま、深く、深く。
『ようこそ、我の世界へ』
沈む意識の中で、その声だけが強く響いた。
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