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上ばかりを狙う転生前

プロローグ

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「「お前が好きだ!!」」

 秘めた想いを叫び合った。
 咲人と篤紀はお互いを穴が空くほど見つめ合う。

「「好き…?」」

 お互いに「信じられない」とでも言うような不思議な顔をし、互いに指を差し合う。

「「嘘っ」」

 言葉も行動も見事なまでのシンクロ。

「「嬉しい…っ!!」」

 中学3年の男子な2人。
 自分たちしかいない咲人の部屋の中。
 部屋の真ん中にお互い立ち尽くしたまま、恐る恐る相手の頬に手を伸ばす。
 お互いに経験などない。
 恋心を自覚してから詰め込んだ知識を総動員しながら、どちらからともなく顔を近づけ唇を触れ合わせた。
 身長はほぼ同じ。
 本当に軽く触れるだけで離れた2人は、赤く染まった互いの顔を見て、微笑み合い、また顔を近づける。

「「ん……」」

 お互いに薄く唇を開き、震える舌を伸ばす。舌先が触れ合えば、それまでの探るような慎重さは欠片もなくなった。

「「ん……は、ぁっ」」

 くちゅくちゅと室内に水音を響かせながら、激しく舌を絡め合う。
 音と気持ちよさにお互いに興奮し、体を抱き寄せ、服を脱がせ合う。
 ピタリと重なったお互いの股間が、既に勃起しているのを感じ取り、深い口付けは更に激しさを増す。

 お互いに気持ちを確認し合い、想いが通じ、他に誰もいない部屋の中。2人はそれが当然…というように、お互いのズボンを下着ごとずりおろし、触れたかった陰茎を手の中に収めた。

「んぅ……きもち、いい……っ、あつき…っ」
「俺も……すごくいい、さくと…っ」

 2人の脳裏に、詰め込んできた男同士のセックス知識が浮かんでいく。
 今まで何度もこれを想像しながら自身を慰めてきたのだから。挿れて、何度も突き上げて、奥に射精したい……と、思ってきたのだから。

「あつき……っ」
「さくと……っ」

 抱きたい。
 挿れたい。
 ドロドロにしたい。
 喘ぎ声が聞きたい。

 そんなことをお互いに考えていたとき、篤紀の手が咲人の尻に触れて、窄まりを撫で始めた。
 突然のその行為に、咲人はキスをやめてしまう。

「え、待って、なんでそこイジるわけ?」
「はぁ?抱くからに決まってんじゃん」
「なんでお前が抱く方とか決まってんの?篤紀の方が僕より可愛いんだから、篤紀が抱かれる方だろ?」
「いやいやいや、俺は『俺』で咲人は『僕』なんだから、『僕』って言ってる方が抱かれる方だろ?」
「はぁ!?意味分かんないっ。僕は篤紀を抱きたいの!!」
「俺だって咲人を抱きたい!!」

 お互いに言い切ってから、まじまじと顔を見合う。

「「……絶対挿れる」」

 宣言は同時。
 舌打ちも同時。

 顔を寄せ合いキスを始めたのも同時。
 お互いの陰茎を手の中に収めて、扱きだしたのも、同時。

「「………っ」」

 イったのも同時。

 ……これほど何もかもが同時に始まり終わってしまうと、がつかない。

 2人とも荒い息のまま、身体を寄せ合った。

「「……すき」」

 仮に、5センチ程でも身長に差があったなら。
 仮に、どちらかが甘い吐息を漏らしていたのなら。
 仮に、どちらかが先に達していたのなら。

 あっさりと上と下が決まっただろうに。
 お互いに譲れないその立ち位置に、『折れる』という選択肢は一切なく。
 折れるか、落とすか、落とされるか。
 お互いにそんな状況に、焦る様子もない。
 見つめあい、微笑み合い、互いの頬を何度も撫でる。

「「覚悟して」」

 詰め込んだ性知識は十分に発揮されないまま。
 それでもお互いを想う気持ちは本物で、それから数ヶ月、蜜月とも呼べる日々を過ごしていた。
 いつもべったりとくっついていた2人だったため、周囲から見れば何も変わりはなかったが。




「いいこと思いついたんだよ」

 馴染みのコーヒーショップの道路に面した窓際の席で、咲人がワクワクした顔で篤紀を見ていた。

「なに」
「毎回じゃんけんで決めるってのはどう」
「……じゃんけん、って」
「流石にそういうので決めれば、お互い文句ないだろ?…それに、固定じゃなくて、毎回じゃんけん」

 お互いに、相手に下になると言ってほしいと思ってた。けれど、それは叶わないまま今に至る。
 好きだから触れたい、セックスがしたい――――
 最近はその思いも強くなり、身体を弄り合うときに、つい互いの蕾に指を伸ばしたりもしている。

 咲人の提案に、篤紀は顎に指を当てながら考え込む。
 即答で、「そんな決め方は嫌だ」と突っぱねることができないくらいには、篤紀も限界を感じていた。

「……わかった。それで、咲人は後悔しないんだな?」
「もちろん」
「負けても『なし』とか、なしだからな?」
「もちろん。…篤紀もだよ?負けても駄々こねないでよ?」

 互いを見つめる視線は熱い。
 2人とも、鼓動が早くなっていくのを感じていた。

 不意に篤紀が立ち上がる。
 座ったまま自分を見上げる咲人の頬に手を伸ばし、耳元に顔を寄せた。
 …もちろん、店内には他にも客がいる。
 なんとなく2人を観察していた女子学生から、更に熱い視線が注がれていたが、咲人と篤紀はそんなことを気にする余裕はなかった。

「俺の家に行こ」
「……うん」

 咲人が妖艶な笑みを浮かべたときだった。
 折角、一歩前進するはずだった2人だったのに。




 その出来事は突然だった。
 操作を誤った大型トラックが、蛇行しながらコーヒーショップに突っ込んだ。
 上がる悲鳴。
 物が壊れる音。
 手を繋ぎ、店内だというのに唇を寄せ合っていた2人は、振り返ったのも、はっと目を見開いたのも同時。
 ――――そして。
 暴走トラックに跳ね飛ばされ、赤く染まる視界の中にお互いの姿を映す。
 咲人の虚ろな瞳が。
 篤紀の昏い瞳が。
 同時に少しずつ閉じられていく。
 繋いでいた手には力が込められ、離れないとでも言うように。

 田宮咲人と宮川篤紀。
 15年という短い人生に幕を下ろした瞬間だった。


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