7 / 16
本編
僕はファビ様の抱きまくら兼………?
しおりを挟む少しだけ足に力が入りにくかったけど、そんなの気にしてる場合じゃない。
ファビ様がなにか言っていたけど、今はファビ様のためにいかなきゃ…!!
小走りになるとお尻から注がれた子種がとろりと落ちてきたけど、気にしてる場合じゃない。
廊下をペタペタと走り抜けて、厨房近くでふぅ…って息をついて、少し壁に背中を預けた。
『シュリ』
『可愛い』
『一生私の抱きまくらだ』
「はう」
ファビ様の言葉が頭の中一杯になって、顔がどんどん熱くなってく。
僕が奥方様。
ずっとずっと、ファビ様のお傍にいていい。
愛してくださらなくても、ファビ様が僕を必要としてくれてるなら、僕は嬉しい。体だけでも御慰みできるなら、僕は幸せ。
「…大好きです」
僕の言葉が届かなくてもいい。
だって、僕の気持ちは、たくさんたくさん溢れているから。
「……はっ、朝食……!」
僕はシーツを巻いた格好で厨房に飛び込んで……、僕を見て慌てふためいた料理人さんたちが、執事様を呼びに行って、執事様は笑顔で僕を浴室に連行して、昨日の侍女さんがこれまた笑顔で僕の体を洗ってくれた。
急いでいるから僕のことは後回しでいい、って言ったのに、執事様も侍女さんも、誰も『はい』とは言ってくれなかった。
巻き付けてたシーツは当然のように取られて、昨日と同じようにお尻の中も綺麗に洗われた。
手触りのいい下着をつけられて、やっぱり手触りのいい服を着せられる。…まるで、貴族の子供のような格好。
身支度を終えて浴室を出たら、執事様が待っていた。
「シュリ様、旦那様の下にお送りいたしますよ」
「え」
「こちらです」
今更案内されなくても大丈夫なのに…って思ったけど、大人しくついていった。
執事様が案内してくれた部屋は、やっぱりファビ様のお部屋だった。
何がなんだかわからなくて執事様のお顔を見たら、「大丈夫ですよ」って微笑まれた。
執事様がドアを開けると、椅子に座って項垂れてるファビ様と、ファビ様の隣に腕を組んでとっても怖いお顔の弟君のラウドリアス様が立っていらした。
「え、と…?」
「おはよう、シュリ」
「お、おはようございま…す?」
ラウドリアス様は僕にはとっても優しい笑顔を向けてくれた。
「さ、シュリ様はこちらにおかけください」
「え、は、はい」
執事様がファビ様の真向かいの椅子を引いてくれて、座るように僕を促した。
僕はよくわからないまま、椅子に座ってファビ様に向かい合った。
「シュリ」
「は、はい」
「シュリは、今の自分の立場は何だと思ってる?」
「立場…?」
ラウドリアス様は、優しくて労るような視線だ。
なんだろう。何かあったのかな。
「あの…」
「うん。いいよ。何をいっても咎めることはしないから、正直に話してご覧?」
「はい……、えと、僕は、ファビ様の抱きまくら…です」
ファビ様…って言ったとき、ラウドリアス様の目元がぴくりと動いた。
「抱きまくら?」
「はい。ファ……、旦那様が、僕は一生、旦那様だけの抱きまくらだ、って……。僕がいないと眠れないから……って」
「うん、それで?」
「あの……、奥方様ができたと思ったのですが、でもそれは、抱きまくらの僕の役目で」
「う、ん?」
「旦那様はご婚姻されてませんから……、奥方様というのは、旦那様が安眠されるために抱きまくらの役を果たすという意味なのだと……」
僕は奥方様の代わり。
でも、一生って言われたから、きっとファビ様はご婚姻される予定はないんだと思う。
だから、僕は傍にいていい。ファビ様には僕が必要だから。
「はぁ……」
ラウドリアス様の盛大な溜息に、僕の肩がびくりと揺れた。
でも、ラウドリアス様の視線は項垂れたままのファビ様に向けられてた。
「兄上、これでわかりましたか?」
「………ああ」
「シュリには何一つとして伝わっていません。…二日連続で毛布やらシーツやら纏っただけの姿で屋敷の中を走らせることになるなんて……、伯爵家始まって以来の醜態です。おわかりですか?」
「………わかって、いる」
「何故駆け出す前に捕まえるなり誤解を解くなりしないのですか。なんのための魔力なんですか。行動を阻害することなど、宙を飛ぶよりも遥かに簡単なことではないですか」
「……ああ、そうだ」
「では兄上。私と執事がしっかりと監視していますので、今ここで、シュリの誤解を解いてください」
なんか、ファビ様が怒られてる。
僕のほうがドキドキしてしまうのだけど。
僕の誤解…って、なんだろう…?
「……シュリ」
「は、はい」
ファビ様が僕を見た。
…とっても、泣きそうなお顔。
どうしてファビ様がこんなお顔をされてるんだろう。
緊張してきた。
ズボンを握りしめてる手が、じわりと汗ばんでくる。
「シュリ」
「………はい」
「愛してるんだ」
「はい。………ええ?」
「愛してるんだ、シュリ」
愛してる、って、なに?
や、言葉はわかる。
でも、ファビ様は僕に愛してるなんて一度も言ったことがない。
愛されなくても、でも幸せだから、それでいいと思ってて。
え、どうしたらいいの。
おろおろしてたら、ファビ様の手が伸びてきて僕の頬を撫でた。
「シュリ、愛してる。私と婚姻を結んでくれ」
「え、え」
「今日にでも神殿に提出したい。私の名前はもう書いてある。あとはシュリが名を書いてくれれば、すぐに提出してくる」
「あ、の」
ファビ様が僕の前に金字で装飾された用紙を出した。
細部まで見る余裕がなかったけれど、一箇所だけ『ファビラウス・アーデルグレイス』とファビ様のお名前が書かれてた。
「うそ」
「シュリ、私はお前を愛してるんだ。抱きまくらとしても感謝してる。シュリを抱いて眠ると本当によく眠れるんだ。だがな、シュリ。それだけじゃ足りないんだ。お願いだから頷いて。私の生涯ただ一人の伴侶になって欲しい」
*****
弟と執事に監視されながらじゃないと、求婚も満足にできない旦那様……。
46
お気に入りに追加
630
あなたにおすすめの小説
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
愛人少年は王に寵愛される
時枝蓮夜
BL
女性なら、三年夫婦の生活がなければ白い結婚として離縁ができる。
僕には三年待っても、白い結婚は訪れない。この国では、王の愛人は男と定められており、白い結婚であっても離婚は認められていないためだ。
初めから要らぬ子供を増やさないために、男を愛人にと定められているのだ。子ができなくて当然なのだから、離婚を論じるられる事もなかった。
そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。
僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。
そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる