64 / 83
婚約者様、疑ってごめんなさい
64 早く治ってほしい
しおりを挟む夕飯が運ばれてくるまでの間、キスを繰り返していた。
離れたくなくてずっと嘉貴の傍にいた。
午後六時すぎに部屋にノックの音がして、慌てて嘉貴から離れてドアを開けると、看護師さんが笑顔で夕飯をもってきてくれていた。
「あ、俺もらいます」
「じゃあ、お願いします」
トレイを二つ受け取って、ソファの方に向かうと、ドアが閉まる音。
こぼさないようゆっくり歩いてテーブルにトレイを載せたところで、嘉貴がベッドから降りて歩いてくるのを見た。
「歩いて平気?」
「ええ。それほど痛みませんから」
嘉貴は点滴スタンドを動かしてソファに座る。
俺もその隣に座って、箸やらなんやら準備した。
「いただきます」
何もしていなくても普通に腹は減るもんだ。
それに、病院食にしては見た目もいいし、味もいい。
「……退院したら何が食べたい?」
「退院してもすぐには無理じゃないの?」
「痛くなければそれくらいは多分平気かな。鎮痛薬は飲んでるしね」
嘉貴は食事に手をつけるまえにお茶を飲んでいた。
食べないのかな…ってじーっと顔を見ていたら、苦笑されて、頬にキスをされる。
「……食べたいのは、ないけど…」
「けど?」
「……嘉貴が淹れてくれる紅茶が飲みたい」
素直にそう言うと、嘉貴はまた笑った。
「いいですよ。お望みのままに」
肩を抱き寄せられて額にキスが降りてくる。
こうしてるのもいいけど、好きだけど。……ご飯、食べようよ。
七時過ぎ、嘉貴の点滴がなくなった。
そのあとに来た看護師さんは、嘉貴の腕から針を抜いた。
「ようやく身軽になったかな」
「痛みはありませんか?」
「ええ。今は大丈夫です」
「もし痛みが強くなったらすぐに呼んでくださいね」
嘉貴と看護師さんの会話をなんとなくぼーっと眺める。
看護師さんは手際よく物を片付けてから、血圧を測ったり手首を握ったりする。…それが仕事なんだってわかっていても、少しムっとした。
知らず知らずそれは顔に出ていたようで、目が合うと嘉貴に笑われた。
…笑わなくたっていいじゃん。
「ところで、お風呂には入っていいかな」
「シャワーだけなら大丈夫ですよ」
「シャワーね。ありがとう」
嘉貴はすごくいい笑顔で看護師さんに礼を言う。
結構若い看護師さんは、見るからに頬を赤らめて……嬉しそうにしていた。
……やっぱりムカツク。
「嘉貴っ」
思わずそう口にしていたけど、用事なんてない。
「なに?」
俺の反応を見て楽しんでるんだ、この顔っ。
「鼻の下伸びてて格好悪い」
「心外ですね。伸ばしてませんよ?」
「伸びてる!」
俺らのやりとりを聞いていた看護師さんはくすくす笑うと「何かあったら呼んでください」って言い残して部屋を出て行った。
彼女がいなくなってドアがしまった途端、嘉貴が腕を伸ばしてきて俺をあっさり捕まえてしまう。
「妬いたの?」
からかうような声が、耳元でして背中がゾクゾクした。
「そ…じゃない」
「妬いたんだ?」
耳元の声が熱い。
どうしよう。体が震えてしまう。
「ねえ、浩希…」
くちゅり…って音に快感を引き出される。
耳……って、弱い。
「あ……や、ぁ……」
「教えてくれないと………このままだよ?」
「ん………いじ、わる…っ!」
「浩希のことはどうしてか苛めたくなるんですよ」
体がびくびくして、耐えきれなくて嘉貴の腕にしがみついた。
舌が耳を舐めたり、中に入ったり………、目の前に霞がかかるようだった。
「……しごと、って、わかってるけど……」
「ん?」
「……けど、……嘉貴に触っていいの、おれ、だけなのに、…あのひと、べたべた触ってるから……っ」
「浩希」
嘉貴の声が弾んでいた。
嬉しそうな声。
「可愛いね」
「嘉貴…っ」
「浩希があんまり可愛いから……もうもたないよ」
首筋に触れた唇に、また体が震えた。
「嘉貴……」
「一緒にシャワー使おうか」
それほど広くはない浴室の中に、湯煙が満ちていた。
シャワーを流したまま、裸で嘉貴と抱きあってキスをする。
お湯の流れる音と、舌が動く濡れた音が混ざり合う。
キスの最中にも、濡れた髪からは雫が顔に落ちてくる。
「よしたかぁ…」
嘉貴の身体にはあちこちに痣ができてる。それは事故のときのもので、赤かったり、紫色だったり、上半身に集中してるそれは痛々しい。
でも、嘉貴は生きてる。
今、俺の眼の前にいる。
抱き合って、キスをして、互いの鼓動を感じることができる。
嘉貴の手が俺の頭をなでた。
もっと、嘉貴を感じたい。
さみしい思いをもうしなくていいよ、って。
悲しい思いももうしなくていいよ、って。
「よしたか」
「浩希?」
唇を離して、嘉貴の首筋に当てた。
お湯が辿り流れるそこには、どくん、どくんって鼓動をうつ場所がある。
唇を押し当てて、その鼓動を感じる。
それから、嘉貴の左胸に。……ああ、やっぱりしっかりとした鼓動を感じる。
痣ができてる肩とか、胸とか、腹部とか。痛くないように、唇で触れるだけのキスをする。早く治ってほしい。
それから浴室の床に膝をついて、もうかなり上を向いてる嘉貴のソレの先端にも、キスをした。
「浩希……、しなくていいよ」
「……俺が、したいから」
止めるのは言葉だけ。それだって、優しい声音。
俺がやりたいこと。
嘉貴はちゃんと理解して、それ以上は止めなかった。
19
お気に入りに追加
676
あなたにおすすめの小説
双子攻略が難解すぎてもうやりたくない
はー
BL
※監禁、調教、ストーカーなどの表現があります。
22歳で死んでしまった俺はどうやら乙女ゲームの世界にストーカーとして転生したらしい。
脱ストーカーして少し遠くから傍観していたはずなのにこの双子は何で絡んでくるんだ!!
ストーカーされてた双子×ストーカー辞めたストーカー(転生者)の話
⭐︎登場人物⭐︎
元ストーカーくん(転生者)佐藤翔
主人公 一宮桜
攻略対象1 東雲春馬
攻略対象2 早乙女夏樹
攻略対象3 如月雪成(双子兄)
攻略対象4 如月雪 (双子弟)
元ストーカーくんの兄 佐藤明
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています
奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。
生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』
ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。
顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…?
自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。
※エロは後半です
※ムーンライトノベルにも掲載しています
彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた
おみなしづき
BL
小学生の時に母が再婚して義理の兄ができた。
それが嬉しくて、幼い頃はよく兄の側にいようとした。
俺の自慢の兄だった。
高二の夏、初めて彼女ができた俺に兄は言った。
「ねぇ、ハル。なんで彼女なんて作ったの?」
俺は兄にめちゃくちゃにされた。
※最初からエロです。R18シーンは*表示しておきます。
※R18シーンの境界がわからず*が無くともR18があるかもしれません。ほぼR18だと思って頂ければ幸いです。
※いきなり拘束、無理矢理あります。苦手な方はご注意を。
※こんなタイトルですが、愛はあります。
※追記……涼の兄の話をスピンオフとして投稿しました。二人のその後も出てきます。よろしければ、そちらも見てみて下さい。
※作者の無駄話……無くていいかなと思い削除しました。お礼等はあとがきでさせて頂きます。
BLしたくない伯爵子息は今日も逃げる
七咲陸
BL
目覚めると、そこは男性同士で妊娠可能な世界だった。
偏見はないが、自分は絶対にBLしたくない伯爵子息のお話
□オリジナル設定です
□妊娠表記あります
□r-18は※で注意を促します。自己責任でお願いします。タイトルの都合上、だいぶ先です。
転生したらいつの間にかフェンリルになってた〜しかも美醜逆転だったみたいだけど俺には全く関係ない〜
春色悠
BL
俺、人間だった筈だけなんだけどなぁ………。ルイスは自分の腹に顔を埋めて眠る主を見ながら考える。ルイスの種族は今、フェンリルであった。
人間として転生したはずが、いつの間にかフェンリルになってしまったルイス。
その後なんやかんやで、ラインハルトと呼ばれる人間に拾われ、暮らしていくうちにフェンリルも悪くないなと思い始めた。
そんな時、この世界の価値観と自分の価値観がズレている事に気づく。
最終的に人間に戻ります。同性婚や男性妊娠も出来る世界ですが、基本的にR展開は無い予定です。
美醜逆転+髪の毛と瞳の色で美醜が決まる世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる