上 下
53 / 83
婚約者様、疑ってごめんなさい

53 恋人っていうか、婚約者なんだけど

しおりを挟む



「浩希、何かいいことあったんだろ」

 どこからどう調達してくるのか、三角パックの牛乳を飲みながら、いつものごとく俺の前を陣取った良一が眼鏡をくいくい直しながら言ってきた。

「…いいこと、っていうかさ」

 昨日一日ズル休みをして嘉貴のところに泊まった俺は、今日は嘉貴のところから登校したから弁当ではなくて、昼休みに入ってすぐに購買でパンを二つほど買ってきていた。

「じゃあ、恋人でもできた?」

 いきなりそう言われて、盛大にむせた。

「ちょ………なんでそんな…っ」
「同じ学部の女子がさ、浩希が今朝とんでもないイケメンが運転する車で登校してきたって騒いでたから」

 良一はごくごく普通の会話……って感じに話す。

「……で、どうなのさ」
「…………恋人っていうか…」

 婚約者なんだけど。
 でも、それをどう説明したらいいんだろうか。
 一昨日両親に会って挨拶して……正式に、ちゃんとした「婚約者」になった。
 ついでに入籍の日取りも決まってしまったとか……そんなこと言えないっ。

「まあどっちでもいいか。僕としては……うん、まあいいか」
「なんだよ」
「…浩希に年上の恋人ができていて、ご両親との挨拶も済んでいて、ついでに入籍まで秒読みとか………まあ、そんなことは僕に関係ないし」

 俺の手からパンが落ちた。
 なんていうか……何故それをお前が知ってるんだ!?それも、そんな事細かに……っ!!

「でもさ、浩希」

 正直硬直したまま動けないでいた。
 知ってたんなら俺に恋人ができたかどうかを確認する必要なんてないじゃないか。いや、そもそも、良一はどこからどうやって知ったんだ!?
 硬直したまんまの俺に箸を向けた良一。

「浩希に恋人ができたとしても……僕が親友ってことには変わりないよね?」
「……変わらないだろ」
「だよね。うん、ならいいかな、ってさ」

 良一は一人頷き、うどんを再びすすり始めた。
 俺の頭の中はまだパニック中だ。
 そりゃ、隠しておくつもりでもなかった(言いふらすようなことでもないのだけど)。
 けど、自分が知らないところで知られてるってのは……どうしてもあれやこれやと考えてしまうものだ。

「僕としては誰かに譲るつもりはなかったんだけどね……。相手の方が一枚も二枚も上手って言うか…」
「何の話だよ?」

 そこで初めて良一がため息をついた。

「僕が、浩希のことを好きなんだ、って話」
「俺も好きだよ」

 俺だって良一のことは好きだ。好きじゃなけりゃこんな風につるんだりしてないし。

「………………報われない……」

 だから、何だっていうんだよ…っ
 盛大にため息をついた良一に問いただそうとしたとき、少し荒く良一の隣の椅子が引かれて、荷物をドサリと置いた人物が。

「僕にも仕事の都合があるってあれほど言っているのに…!!」

 なんだなんだとそっちを見ると、頬を赤くして怒りながら優弥が立っていた。
 おいおい、学校の備品なんだから、もう少し丁寧に扱えよ。

「何かあったのかい?」
「……何かってものじゃない。この間、すぐ上の兄の婚約披露パーティをすると言っただろ?」

 優弥は引いた椅子に腰掛けて、手にしていたペットボトルのお茶をぐいっとあおった。

「そういえば言ってたね」
「それを、今週の土曜日にすることにしたと、さっき母から連絡が来て…、スケジュール調整に頭が痛いんだ」

 優弥のところもか。
 狭い狭いとは思っていたけど、こんなに身近に婚約披露パーティをしようだなんて考える人が二人もいるとは。本当に世間は狭い。

「行かなきゃいいんじゃないの?」

 軽くそう言葉にすると、優弥は大きくため息をついた。

「……母が乗り気だから無理だな」

 なんだかんだで母親には優しいんだよな、こいつ。……頭があがらないとも言うけど。

「まあ…それはそうと、今日の放課後、新しくできたケーキショップに行かないか?コウ、今日は部活休みだろ」
「そうだけど」
「男三人でケーキショップ?」
「美味いと評判になってる店なんだが……」

 俺達の反応が薄かったせいか、優弥は黙り込んだ。
 まあ、ちょっと行ってみたい気はするけど、今日も嘉貴のところに行きたいし。
 ……とか思っていたら、スマホが震えて慌ててポケットから取り出した。

「三人とも四講がないタイミングなんて今日くらいなものだろ?ほら、ケーキだけじゃなくてピザとかもあるらしいし」
「何がなんでも行く気なんだね……」
「嫌なら良一はこなくていい。僕とコウだけで行く」
「心配しなくても僕も行くよ」
「心配などしていないっ………コウ?」
「浩希、どうかした?」
「え?あー……」

 ……全然、話を聞いてなかった。

「うん。大丈夫。なんでもない。そのケーキショップ、学校終わったら行こっか」

 俺が笑い返したら、二人が変な顔をしつつも頷いた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

寝込みを襲われて、快楽堕ち♡

すももゆず
BL
R18短編です。 とある夜に目を覚ましたら、寝込みを襲われていた。 2022.10.2 追記 完結の予定でしたが、続きができたので公開しました。たくさん読んでいただいてありがとうございます。 更新頻度は遅めですが、もう少し続けられそうなので連載中のままにさせていただきます。 ※pixiv、ムーンライトノベルズ(1話のみ)でも公開中。

「こんな横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で横取り女の被害に遭ったけど、新しい婚約者が最高すぎた。

古森きり
恋愛
SNSで見かけるいわゆる『女性向けザマア』のマンガを見ながら「こんな典型的な横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で貧乏令嬢になったら典型的な横取り女の被害に遭う。 まあ、婚約者が前世と同じ性別なので無理~と思ってたから別にこのまま独身でいいや~と呑気に思っていた俺だが、新しい婚約者は心が男の俺も惚れちゃう超エリートイケメン。 ああ、俺……この人の子どもなら産みたい、かも。 ノベプラに読み直しナッシング書き溜め中。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ベリカフェ、魔法iらんどに掲載予定。

BL r-18 短編つめ 無理矢理・バッドエンド多め

白川いより
BL
無理矢理、かわいそう系多いです(´・ω・)

【本編完結】溺愛してくる敵国兵士から逃げたのに、数年後、××になった彼に捕まりそうです

萌於カク
BL
この世界には、男女性のほかに第二性、獣人(α)、純人(β)、妖人(Ω)がある。 戦火から逃れて一人で草原に暮らす妖人のエミーユは、ある日、怪我をした獣人兵士のマリウスを拾った。エミーユはマリウスを手当てするも、マリウスの目に包帯を巻き視界を奪い、行動を制限して用心していた。しかし、マリウスは、「人を殺すのが怖いから戦場から逃げてきた」と泣きながら訴える心の優しい少年だった。 エミーユは、マリウスが自分に心を寄せているのがわかるも、貴族の子らしいマリウスにみすぼらしい自分は不似合いだと思い詰めて、マリウスを置き去りにして、草原から姿を消した。 数年後、大陸に平和が戻り、王宮で宮廷楽長として働くエミーユの前にマリウスが現われたが、マリウスには、エミーユの姿形がわからなかった。 ※攻めはクズではありませんが、残念なイケメンです。 ※戦争表現、あります。 ※表紙は商用可AI

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

【完結】イヴは悪役に向いてない

ちかこ
BL
「いい加減解放してあげて下さい!」 頬を叩かれた瞬間に、自分のこと、ここが以前に遊んだことのあるBLゲームの世界だと気が付いた。 次の瞬間には大勢の前で婚約破棄を言い渡され、棄てられると知っている。どうにか出来るタイミングではなかった。 この国を守っていたのは自分なのに、という思いも、誰も助けてくれない惨めさもあった。 けれど、婚約破棄や周囲の視線なんてどうでもいいんです、誰かに愛されることが出来るなら。 ※執着×溺愛×家族に愛されなかった受 ※攻同士でのキス有 ※R18部分には*がつきます ※登場人物が多いため表を作りましたが読む必要は特にないです。ネタバレにならないよう人物追加時にメモ程度に追記します 第11回BL小説大賞奨励賞頂きました、投票閲覧ご感想ありがとうございました!

処理中です...