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元自称婚約者な恋人に会いたいので、初めて合鍵を使ってみました

43 婚約披露パーティー……

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 食卓に並べられた料理は、どれもおいしかった。

「おかわり!」
「はい」

 威勢良く突き出したお茶碗を、嘉貴は笑顔で受け取ってくれた。
 その間にもそれだけ分量間違えたんじゃないの…って突っ込みたくなる量のエビチリに箸を伸ばす。

「…うまぁ」

 エビがぷりぷりしていて、辛さや甘さも丁度いい。

「そんなにあわてなくても逃げませんから」
「でも、アツアツのうちに食べたいし」

 差し出された茶碗を受け取りながらまた箸を伸ばしていたら、嘉貴はくすっと笑う。

「浩希、ソースがついてる」

 身を乗り出したかと思ったら、口の端をぺろりと舐められた。

「っ」

 食事中になにすんだよ…!!
 と思ってはいても、行動には移せない。
 固まっていたら、嘉貴は唇まで舐めてきた。

「なに……っ」
「味見」

 って、なんじゃそりゃ!
 味見なんてとっくに終わってるじゃん!!
 てか、それ以前にもう食事してるんだから、味見も何もないじゃん!!

「っん……」

 強引に唇を割られる。
 そうされても、拒みきれない。
 気持ちがいい。よすぎる。

「ちょ………嘉貴っ」

 それでもなんとか腕を伸ばして嘉貴を押しのけた。

「もっと欲しいな」
「駄目っ」

 目の前にはアツアツの料理が並んでて、しかもまだ食べ足りない。

「折角の料理が冷めるだろ…!」

 キスだけで、目元に涙がたまる。
 顔が熱い。
 絶対真っ赤。
 わかってるけど、これも譲れない。
 嘉貴は笑ったまま俺の目元を指で撫でて席に座り直した。

「美味しそうに食べる浩希が可愛すぎて困るね」
「……その美味しい料理を作ってくれた嘉貴が俺に構い過ぎで困る」

 そうして二人で笑い合った。
 エビチリだけじゃなくて春巻きとかナッツの炒め物とか。とにかく全部、美味しかった。



 本当は今日も泊まりたかった。
 けど、明日は嘉貴がうちに挨拶のために来る予定で、俺は今日中に帰宅するように言われてる。
 明日嘉貴と一緒に帰ればいいだけじゃん…と思わなくもないけど、けじめ的にそれは駄目だと諭された。嘉貴から。
 なので微妙に時計を気にしながらの食後の時間。
 ソファで寄り添いながら、旅行雑誌をめくる嘉貴の手元を覗き込んでた。

「浩希はどこか行きたい場所はありますか?」
「……思いつかないけど」

 嘉貴と一緒ならどこでもいい。

「嘉貴が決めて」

 そう言ったら、少し困ったように笑われた。

「二人で決めないと」
「なんで?」

 具体的に何処かに行きたいって思ってない俺が考えるより、嘉貴の方に何かしらのプランがありそうだから、嘉貴が考えてくれればいい。
 そう、思ったんだけど。

「新婚旅行なんですから、二人で決めましょう?」

 って言葉に数秒後、顔中どころか耳も首もカァっと熱くなった俺だ。

「し、」
「新婚旅行、行きましょうね」

 にこりと笑う嘉貴。
 俺、絶対、この笑顔には勝てない。




 嘉貴が俺の腰をガッチリ掴んで、ここはこうで、あそこはどうで、って楽しそうに話す。
 近い、近いよ…って内心悲鳴を上げながら嘉貴の話を聞いていたら、テーブルの上の嘉貴の黒いスマホが震えた。
 嘉貴は眉をひそめてスマホを手にとって、画面を見て表情を変えた。

「珍しいな。――――はい」

 珍しいと呟いて、嘉貴は通話を始めた。
 左手は俺の腰を捕らえたままだ。

「お久しぶりです。――――ええ。俺も父も特に変わりは――――、あー……、ええ。もちろん、紹介しようと思ってましたけど」

 くいっと左手に力が入った。
 嘉貴はどこか楽しそうな、どこか困ったような表情だ。
 電話の相手、誰だろう。

「随分急な話ですね」

 何が急?
 さっぱりわからなくて(当然なんだけど)、ただじっと嘉貴の顔を見るだけになった。
 嘉貴は腰から左手を離して、俺の肩を引き寄せた。

「…わかりました」

 そして苦笑。
 多分、悪い内容の電話じゃない。

「そうですね。……ええ。父の休みも調整しておきます。場所は――――ああ、そうですね。ガーデンパーティなら丁度いい」

 なんだそれ。
 ガーデンパーティって。

「はい。俺の方も調整しておきます。――――はい、それでは」

 って言葉で通話が終わった。
 嘉貴は切れた画面を見ながら、少しだけため息をつく。

「……何かあった?」

 プライベート……というか、もしかしたら仕事の関係かもしれない内容に俺が口を挟む理由はないけど、やっぱり気にはなるから。
 濁されて終わるならそれならそれで……って思いながら聞いたけど、嘉貴は俺の頬を撫でると普通に話してくれた。

「母からだったんですが」
「お母さん?」
「ええ」

 そしてまた苦笑。

「母がどうしても婚約披露パーティーをやりたいと。…それほど大きなものではないし、場所は俺の家で」
「って、ここ?」
「ああ、ここではなくて実家の方です」

 婚約披露パーティー……って、なんだか最近どこかで聞いたような気がしつつ、すごい勢いで頭の中がぐるぐるし始めた。

「広い庭があるし、立食形式で身内だけで行う予定らしいです」
「………俺も出るの?」
「俺たちの婚約披露パーティーなんですから、浩希が出なくてどうするんですか」

 嘉貴はそう言って笑うけど。

「俺、そういうの全然経験ないし、マナーだって……」
「立食なのでマナーはそれほど気にしなくていいですよ。身内だけですし……浩希は俺の傍にいてくれればいいですから」

 そ、それにしたって……。

「ああ、でも、永祐さんや百合恵さんにも予定を確認しないとなりませんね。……明日ご挨拶に伺ったときに尋ねてみましょうか」
「……いつ?」
「それが……母も気が早くて、今週末にやりたいらしいんです。連休もあるしね。……もし、浩希がどうしても嫌なら――――」

 少し困ったような顔で俺を見る嘉貴に、思わずため息が出てしまった。

「…嘉貴はずっと一緒?」
「ええ。離れたくても離しませんよ」
「………なら、いい」

 嘉貴が傍にいてくれるなら…なんとかなるような気がする。

「浩希」

 嘉貴はほっとしたような嬉しそうな声で、俺を呼ぶ。

 それから肩を抱く手に力を入れた。

「ありがとうございます」
「ん…」
「料理もね、楽しみにしていてください。おいしいものが並びますよ」
「俺、食べる暇あるの?」
「ええ、もちろん」

 嘉貴はくすくす笑う。
 嘉貴と一緒なら、まあいいか、なんて。
 ……俺、ほんとに嘉貴のことが好きなんだなぁ。



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