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俺は元自称婚約者な恋人に、とにかく甘えていたいらしい

25 一緒にいたい

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 絶対はめられてるだけだよね!?俺!!

「浩希?」

 …でも、自分からキスをするなんて、恥ずかしくてできない。

「浩希」

 板挟みもいいところだ。

「……キスは、やだ」
「それはそれで傷つくと言うか……。それじゃ、呼んでみて?」

 俺に選択肢は残っていないらしく。確信犯っていうか……なんていうかっ!!

「よ」

 続かない。

「よし」

 友達なら平気で呼べるのに。
 年上で………恋人を呼ぶのに呼捨てって……すごい抵抗があるっていうか恥ずかしい……。
 でも、嘉貴さんは許してくれないらしく、ただ黙って優しい目で俺を見ているだけ。

「よし……たか……」

 ただ名前を呼ぶだけなのに、心臓はすごいバクバクしていて。

「浩希。………もう一回、呼んで?」
「……よした、か」
「もう一回」

 楽しそうに言う嘉貴さんに……頭の中で何かがぷっつんと切れた。

「嘉貴!!嘉貴嘉貴嘉貴よした……んんっ!!」

 ぷっつん切れた勢いで連呼していたら、いきなり唇をふさがれた。触れるだけじゃない、もっと、深いやつ。

「よしたか……っ」

 唇の隙間から名前を呼ぶ。
 だって、息が苦しくて。
 胸を押しやって、ようやく解放されたときには、肩で息をつく有様で。

「嬉しくて、つい」

 そう言って笑う嘉貴さんに……あ、嘉貴、か。………うううう。もうどっちでもいいじゃん、って気分なんだけどっ。

 ………ため息をついた。
 目の前が少しくらくらして。
 そういえば、俺まだ熱が結構あるんだった、ってことを思い出した。

「浩希、そろそろ横になって」

 少し慌てたような嘉貴……の、声音。
 呼吸が荒くなってるのも、くらくらするのも、ちゃんと自覚はしてる。でも、それでも、嫌だ。

「……やだ」
「体つらいでしょう?」

 確かに横になったほうが絶対楽なのはわかっている。
 でも、どうしても離れたくない。

「俺はそろそろ帰りますから」
「……俺も行きたい…っ」
「浩希……」

 困惑した声が聞こえてくる。
 困らせたいわけじゃない。だけど、離れるのが怖い。

「離れたくない……嘉貴……」

 ため息の音と布のこすれる音。
 連れて行ってもらえないのかと目をギュッと閉じていたら、毛布にくるまれた体が浮き上がった。

「じっとしていてくださいね」

 またしてもお姫様だっこ。

「ふらふらしたら危ないから」

 それはどうやら俺のことらしい。
 確かに、熱のせいか足元はおぼつかないけど。
 ……このまま母さんの前に行くのに抵抗があるというか……。ここは二階で、階段降りれるのかなとか、むしろ怖そうだとか……。
 ぐだぐだ考えていたら、部屋のドアにむかっていた嘉貴……の前で、ドアが開いた。

「あら」
「百合恵さん」

 母さんは俺と嘉貴……を、交互に見て首を傾げた。

「お茶を持ってきたんだけど…どうかした?こーちゃん」
「…母さん…」
「何かあった?」
「………あの、さ。…嘉貴、のとこ、行ってくるから」

 母さんは一瞬きょとんとした顔をした。
 そりゃそうだよな。
 熱があって食欲もないような俺がでかけるとか。
 現状ですでに姫抱きされてる状態だし。寝間着だし…。

「こーちゃん、気持はわかるけど、熱もあるんだし藤岡さんに迷惑がかかっちゃうから今日は我慢したら?」
「……でも」
「大丈夫ですよ、百合恵さん。もしつらそうなら知り合いの医者に診てもらいますから」

 と、嘉貴……から、笑顔付きの援護射撃。
 ……うわっ
 満面の笑顔の嘉貴……は、なんていうか…格好よすぎる。全身から「爽やか好青年」オーラが出ていて、女の人たちなら黙っちゃいないよな……って納得しそうになる。

「もう……。こーちゃんったら我儘なんだから…。迷惑かけちゃ駄目よ?」
「わかってるよ」
「ほんと、大学生になっても藤岡さんにべったりなんだから…」

 ……聞き捨てならない。
 大学生になっても……って、それは小さい時の俺もそうだったと言ってるんだろうか。

「ああ、百合恵さん」

 真偽を確かめるより先に、嘉貴……が話し始めて、俺はとりあえず口を噤んだ。

「はい?」
「浩希も認めてくれたので、婚約解消はなかったことに」
「え」
「あら、そうなの?」

 何故母さんが嬉しそうなんだ。
 …いや、そうじゃなくて。
 俺は『恋人』になったわけで、婚約者云々を認めたわけじゃないと思うんですけど…っ
 俺の気持ち優先で、俺が認めたらとかなんとか言ってませんでしたか!?

「結婚式はいつごろがいいかしら」
「式は浩希が大学を卒業してからと考えてます」
「そうね……。いつでも籍はいれれるし、式はゆっくりでもいいものね」
「ええ」

 …口を挟めない。
 勝手に話をすすめる二人に、本気で頭がくらくらした。

 なんだかんだと母さんは許してくれた。
 姫抱きにされたまま階段を見下ろすとものすごく怖くて、おろして…って言ったけど、嘉貴……に笑顔で却下された。

「俺に抱きついて、下を見ないで」
「んっ」

 狭い階段で。
 嘉貴……の足取りは全然迷いがなくて、俺を抱く腕だって少しも震えていなくて。
 危なげなく階下まで歩いて、玄関と嘉貴……の車のドアはどうやら母さんが開けてくれたようで。
 後部座席に寝かされそうになったのを無理やり助手席に座らせてもらって。
 移動前から迷惑かけてるけど、それがわかってても俺は嘉貴……と、一緒にいたいって思ったんだ。




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