ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの

文字の大きさ
上 下
19 / 21

18

しおりを挟む
※今話と次話は身体的な接触が少し増えます。
苦手な方は飛ばしてくださいm(__)m










-----


その瞬間、傾いたら元には戻らない何かに触れてしまったように、辺りの雰囲気が音を立てて一気に変わった気がした。

「…俺のイヴ。」

ふいに視界が彼の顔でいっぱいになる。

ちゅっ…

「っ!?!?」

吸い付くような音とともに、私の頬に柔らかい感触が降りてきた。

アーサーっ!?もしかして、いま私の頬にキ…

「…俺の、俺だけの番だ。
もう逃がさない。」

言うや否や、ごく自然に反対側の頬にも唇を落とす。

「っま、待って…っ!」

私は我に返り、真っ赤になってガシッと彼の両腕にしがみつき、必死で声を上げる。

「…嫌か?」

「いいい嫌じゃないっ、いやじゃないけどっ…!」

「この気持ちも受け止めてくれるか…?」

「うっ受け止めます!受け止めさせていただきます!
ただその…ちょっとこういうの…急だとビックリしただけで…っ!」

今まで家族以外の男性からこんなに触れられたこともない私にとっては強烈過ぎて、頭で考えるより先に、身体が未知の刺激に反射的に抵抗してしまう。

そんな私を見てアーサーは何を思ったのか、おもむろに私の頭から手を外し、両腕を腰へ回すと力強く引き寄せた。

「…かわいい。もっとよく見せて。」

「っわ…っぁ…っ」

私の身体は腰から持ち上げられて上体がぐらりと傾き、次の瞬間には彼の膝の上に座らされる。

「…ぅぐっ!!?!」

「あぁ…柔らかくていい香りがする。酔いそうだ…。」

あたふたしている間に気付けば、アーサーはそのまま私を抱きすくめて首筋に顔を埋めていた。

「ぁ…ぁ…」

彼の引き締まった腿や厚い胸板、逞しい両腕から、布越しに私より少し高い体温が伝わり、吐息が首元をくすぐる。

何故かさっきよりも包み込まれるような体勢になってしまい、私は口をハクハクさせながら固まる。

「…もう少しだけで良いから、君に触れさせて欲しい。…」

…も、もう少し!?もう少しって何をどれくらい…!?

「嫌なことは何もしないと約束するから…。」

「うぅ…」

正直もう既に限界点にきていると思う。
嫌なわけじゃないけど慣れない感覚が恥ずかしい!!
でもさっき自分から受け止めたいと言った手前、やっぱりできません、とも覆したくない…

「ぅ…っ、ホントに…す、少し、なら…」

よく分からないけど、きっと本当に少しなら大丈夫なはず!多分…

すると咄嗟に彼の胸へ添えた私の片手が、アーサーの大きな手にキュッと握られて、徐々に彼の口元へ運ばれる。

「ありがとう、イヴ。」

切長の瞳はうっとりとこちらを向いたまま、彼の熱い唇が甘噛みするように指先に触れた。

見せつけるようにじわじわと指から手の甲、腕にかけて愛おしそうに這うしっとりした感触と、艶めかしく煽るような視線から目が離せない。
指先から走るこそばゆい震えが止まらないのに、思考が停止した頭は手を引っ込めることすら忘れてしまう。

「…堪らないな。
いつも勇敢だった君がこんなに恥じらって…。
戦いの後に脚や背中だって、もっと肌を見せてくれたこともあるのに。」

唇が僅かに肌を離れたかと思うと、そのままふわりと吐息に撫でられる。

「っ!?ひ…っ人聞きの悪いことを言うなっ!!あれはケガの治療をしただけじゃないかっ…!!」

私は驚き慌てて彼の発言を訂正する。

実際、私が任務でたまに負った軽度の傷は、いつもその場で彼が簡単な手当てをしてくれていたのは事実だ。
けれど厳つい鎧を着込んで、戦いの泥や埃にまみれた状態での応急処置なんか、ロマンチックな雰囲気の欠片もない。
とにかくその言い方は語弊がありすぎる!

私は彼を睨むように見返すが、抗議の意を込めた視線を愉快そうに受けて、彼は喉の奥でクスリと笑う。

「そうだな。

でも、鎧の下から君の白い素肌が覗くたびに俺は落ち着かなかった。
他の誰にも任せたくなかったから、君が手当を必要とする時は毎回替わってもらった。

…これからもずっと、こうして君を見つめるのも、君に触れていいのも俺だけだよ。」

「っ!?…」

…確かにいつからか、私のところへ衛生兵がほとんど来なくなって、毎回アーサーがすぐ駆け付けてくれてたけど…あれって実はそんな理由があったの!?!
むしろアーサーの方が手当てしてくれる時、眉一つ動かさないで淡々としてたのに!?

いつも冷静に采配を振るっていた彼のイメージに、剥き出しの思慕をこれでもかと浴びせる今の姿が重ねられると、脳裏をよぎる記憶の数々が全然違う意味合いに書き換えられ、頭の中をぐちゃぐちゃに掻き乱していった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます 2025.2.14 後日談を投稿しました

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...