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私は恐る恐る大きな背中に手をまわした。
彼の身体が一瞬ビクッと跳ねる。
「たくさん待ってくれて、本当にありがとう…。
…騎士を辞めたら会えなくなると思っていたから、今日は来てくれて嬉しかった…。
私…、言えなかったけど…
気が付いたら、どんどんアーサーのことが好きになっていたんだ。」
今までアーサーがどんな思いで過ごしていたのかを知って、今更ながらとても胸が痛かった。
たしかに、私にも色々事情はあった。
でも私が彼への気持ちをひた隠しにしてきたことは、彼がここまでしなければいけなくなった理由の一つだと思った。
だからこれからはそうならないよう、私も今の自分にできることをしたい。
「…もうアーサーに連れ去られても、無理に迫られても、ビックリはするだろうけど嫌いになんてならない。
今はそれくらい、好き…。
だから、一人で抱えないで何でも言ってほしいんだ…。
…私も、ちゃんと言えるようにするから…。」
これからは、私も彼に、もっと自分の思いを言葉にして伝えたい。
気持ちが分からなかった相手に、誠実に接し続けてくれた彼が、安心して心を開けるような、そんな存在になりたい。
「アーサー、ずっと…ずっと好きだった。
言えなかったけど…っ、戦うと怖いくらい強いのに、いつも仲間や私を大切にしてくれて、一緒に居ると時間を忘れるくらい楽しくて、あと…えっと…大盛りでご飯を食べてる時とか、くつろいでる姿とか、寝ぼけてる顔とか…
全部…だ、大好き…なんだ。
アーサーのことなら何でも…受け止めさせてほしい。」
…
…いや、もっと他に良いところがたくさんあっただろうと、自分で自分に総ツッコミを入れてしまうくらい、拙い言葉しか出てこなかった。
頭が回っていないとはいえ、好きだと口にするのが精一杯で、あまりに残念な語彙力には情けなくなってしまう。
グルルルルルルルル…
ふいに低い地鳴りのような音が耳元で響く。
「……?」
彼の方を見ると、首まで赤く染まった顔はきつく瞼を閉じ、鼻がしらと眉間に皺を寄せた険しい表情で、固く食いしばった歯の間から獣のような唸り声が漏れている。
お…怒って、る…?
彼自身は微動だにしないのに、耳はピクピクと動き、長い尻尾が鞭のようにしなやかに左右へ揺れている。
というか、何か…我慢?いや迷ってる…?
やがて何かを堪えるように大きく息を吸い、身体の中から全ての呼気を逃がすように、苦しげに長い長い息を吐いた。
じゃなくて…まさか…具合、悪い…?
どうしよう、大変だ!
「アーサ…」
「イヴ。」
スッと瞼が開く。
おもむろに私を抱く彼の両腕がするりと解け、大きな手の温もりが左右の頬に添えられると、彼の端正な顔の真正面にゆっくりと顔を向けられる。
「イヴ。」
意識の奥にまで呼びかけるような深い声音で名前を呼ばれる。
「…ありがとう。
もちろん、これからも君を傷つけるようなことはしない。」
優しい言葉が降ってくる…
「…?」
のに、何…だろう。
底知れない静けさを湛えた双眸には、金色の情動が燃え盛っている。
まるで圧倒的な質量を持つ何かが覆い被さってくるような気配に、私は思わず瞬きを忘れて息を呑んだ。
「そんな風に思ってくれていたなんて、嬉しいよ。」
頬を包んでいた武骨な指がやさしく耳の上を通り、じわじわと後頭部を侵食する。
「!?…っぁ」
くすぐったさに感覚を狭められ、声にならない声が漏れる。
「…そうだな、
俺も言えていないことはまだある。
だから君の言う通り、これからは…、」
この場の空気までもが、一瞬たりとも目を逸らさせまいと掴み掛かってきている気がした。
決して強い力で押さえられているわけではないのに、身体が、頭が、瞳までもが、磔にされたように動かない。
「…ひとりで抱えないで、伝えていくよ。」
穏やかな一言が鼓膜を支配した。
-----
※次話とその次の話は身体的な接触が少し増えます。
苦手な方は飛ばしてくださいm(__)m
彼の身体が一瞬ビクッと跳ねる。
「たくさん待ってくれて、本当にありがとう…。
…騎士を辞めたら会えなくなると思っていたから、今日は来てくれて嬉しかった…。
私…、言えなかったけど…
気が付いたら、どんどんアーサーのことが好きになっていたんだ。」
今までアーサーがどんな思いで過ごしていたのかを知って、今更ながらとても胸が痛かった。
たしかに、私にも色々事情はあった。
でも私が彼への気持ちをひた隠しにしてきたことは、彼がここまでしなければいけなくなった理由の一つだと思った。
だからこれからはそうならないよう、私も今の自分にできることをしたい。
「…もうアーサーに連れ去られても、無理に迫られても、ビックリはするだろうけど嫌いになんてならない。
今はそれくらい、好き…。
だから、一人で抱えないで何でも言ってほしいんだ…。
…私も、ちゃんと言えるようにするから…。」
これからは、私も彼に、もっと自分の思いを言葉にして伝えたい。
気持ちが分からなかった相手に、誠実に接し続けてくれた彼が、安心して心を開けるような、そんな存在になりたい。
「アーサー、ずっと…ずっと好きだった。
言えなかったけど…っ、戦うと怖いくらい強いのに、いつも仲間や私を大切にしてくれて、一緒に居ると時間を忘れるくらい楽しくて、あと…えっと…大盛りでご飯を食べてる時とか、くつろいでる姿とか、寝ぼけてる顔とか…
全部…だ、大好き…なんだ。
アーサーのことなら何でも…受け止めさせてほしい。」
…
…いや、もっと他に良いところがたくさんあっただろうと、自分で自分に総ツッコミを入れてしまうくらい、拙い言葉しか出てこなかった。
頭が回っていないとはいえ、好きだと口にするのが精一杯で、あまりに残念な語彙力には情けなくなってしまう。
グルルルルルルルル…
ふいに低い地鳴りのような音が耳元で響く。
「……?」
彼の方を見ると、首まで赤く染まった顔はきつく瞼を閉じ、鼻がしらと眉間に皺を寄せた険しい表情で、固く食いしばった歯の間から獣のような唸り声が漏れている。
お…怒って、る…?
彼自身は微動だにしないのに、耳はピクピクと動き、長い尻尾が鞭のようにしなやかに左右へ揺れている。
というか、何か…我慢?いや迷ってる…?
やがて何かを堪えるように大きく息を吸い、身体の中から全ての呼気を逃がすように、苦しげに長い長い息を吐いた。
じゃなくて…まさか…具合、悪い…?
どうしよう、大変だ!
「アーサ…」
「イヴ。」
スッと瞼が開く。
おもむろに私を抱く彼の両腕がするりと解け、大きな手の温もりが左右の頬に添えられると、彼の端正な顔の真正面にゆっくりと顔を向けられる。
「イヴ。」
意識の奥にまで呼びかけるような深い声音で名前を呼ばれる。
「…ありがとう。
もちろん、これからも君を傷つけるようなことはしない。」
優しい言葉が降ってくる…
「…?」
のに、何…だろう。
底知れない静けさを湛えた双眸には、金色の情動が燃え盛っている。
まるで圧倒的な質量を持つ何かが覆い被さってくるような気配に、私は思わず瞬きを忘れて息を呑んだ。
「そんな風に思ってくれていたなんて、嬉しいよ。」
頬を包んでいた武骨な指がやさしく耳の上を通り、じわじわと後頭部を侵食する。
「!?…っぁ」
くすぐったさに感覚を狭められ、声にならない声が漏れる。
「…そうだな、
俺も言えていないことはまだある。
だから君の言う通り、これからは…、」
この場の空気までもが、一瞬たりとも目を逸らさせまいと掴み掛かってきている気がした。
決して強い力で押さえられているわけではないのに、身体が、頭が、瞳までもが、磔にされたように動かない。
「…ひとりで抱えないで、伝えていくよ。」
穏やかな一言が鼓膜を支配した。
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※次話とその次の話は身体的な接触が少し増えます。
苦手な方は飛ばしてくださいm(__)m
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